未来のお話34
サクリのチートスキル、ディメンションドラゴンワープの再使用が可能になり、ラウドル君の一時帰国が近づいてきたある日。
サクリの縁談について協議を行うため、主だった面子を招集する。
「さて。そろそろ婿殿が国に帰るわけだが。数日をともに過ごしてみての忌憚のない感想を聞かせてほしい」
そう問いかけると、みんなが視線を交わしたあと、我が家の斬り込み隊長が口を開いた。
「いいんじゃね? 偉そうな言い方になるけど、合格だよ。アルスヴェルの人間だけど、国中どこ探したってあんだけヘッセリンク大好き! みたいな人間いないだろ」
それはそうだね。
長いことヘッセリンク伯爵やってる僕でも、なんで? って思うくらいの熱意を感じるから。
筆頭文官エリクスも、親友メアリと同意見のようだ。
「自分もそう思います。それに、オライー君とユミカからの報告では、ちゃんとサクリお嬢様のことを想ってくださっているそうです。ぜひ、前向きに進めていただきたく」
まあ?
こないだはうちの娘と二人っきりで?
森から帰ってきたらしいし?
それって実質デートだし?
それで『別に娘さんにそこまで興味ないっすわ』とか言おうもんならパァンッ! ですよパァンッ!
【義理の息子候補への不穏な破裂音】
具体的に何の音かは……ね?
「メアリとエリクスは花丸評価か。オドルスキ。お前はどう見る?」
次に意見を求めたのはオドルスキ。
今や世界最強の生き物と呼んでも過言ではない聖騎士は、衰えの見えない太い腕を組みながら答えた。
「一言二言交わしただけですが、ラウドル様の為人に瑕疵はないかと。腕力という意味では単独で森に入るには不足しているようですが、そこは私達が補えばいいこと。全く問題ございません」
そんな家来衆筆頭の言葉を聞いて深く頷いたのは、領軍で隊長補佐を務めるフランコ。
そろそろ引退させてくれと訴えるオグを、スミスやジョー達と支える男が頬をさすりながら言う。
「ゆくゆくは、領軍を率いる立場を目指してもらうということでよいかと。まさか、ヘッセリンクでもない若者に一発もらうとは。いい腕です。相当の努力の跡が見えました」
実際に拳を交わしたフランコの言葉に、ラウドル君と連日一緒に晩御飯を食べていたらしいオライーが続く。
「御伽噺代わりに伯爵様と奥様の蛮族狩りの話を聞いて育ち、我が家への憧れを強くしたそうです。いつかヘッセリンク伯爵家と縁を繋ぐ。その一心で心技体を磨いたのだとか」
「なるほど。それだけ聞くとサクリとの縁談関係なく我が家に欲しい人材ではあるな」
我が家自慢の領軍兵士と殴り合える、ヘッセリンクファンの若者。
普通に欲しい。
しかし、そんな僕にメアリが首を振る。
「いやいや。縁談失敗したのに我が家に引っ張るとか、お嬢だけじゃなくって俺達も気まずくて仕方ねえよ」
わかってるさ。
そこまでノンデリカシーパパなつもりはない。
次に意見を求めるのは、この場にいないマルディと並ぶサクリガチ勢。
「ステム。サクリの傅役としての意見を」
僕の視線を受けて背筋を伸ばした狂信者さんだったが、予想を裏切る落ち着いた態度で口を開いた。
「ラウドル様はいい男だと思う。それに、縁談を成功させるためにデミケル達が駆けずり回っていることを考えれば、ぜひ前向きに進んでほしいとは思ってる」
狂信者の極めて常識的な意見に、おおっ! とどよめきが起きる。
僕も思わずデミケルに視線を向けたが、旦那も目を丸くしたまま知らない知らない! とばかりに首を振った。
まあ、この縁談を進めるにあたっての最大の障壁のうちの一人であるステムが前向きにと言ってくれたのは大きい。
「他に意見がある者は?」
「レックス様、よろしいでしょうか」
有識者のGOサインを受けて意見がまとまったような空気が流れるなか、僕の問いかけにここまで無言だった愛妻がすっ、と手を挙げる。
「もちろんだ、エイミー。母親として、ヘッセリンク伯爵家の家来衆の一人として。意見を頼む」
「縁談を進めるにあたり、一つだけ気になることがございます。サクリは、ラウドル殿のことをどう思っているのでしょうか。もちろんサクリも貴族の娘です。親の決めた縁談であれば従うのが当然でしょう。が、やはり娘には愛ある相手と結ばれてほしいのです」
なるほど。
ラウドル君がサクリのことを好きなことはオライーとユミカによって確認済みだけど、逆の矢印については確認してなかったな。
じゃあ、そこを本人に確認して……と言う隙を与えずマイプリティワイフが言葉を紡ぐ。
「そう、私がレックス様を愛したように! もちろん私も狂人レックス・ヘッセリンクと縁談と聞いて怯えなかったと、不安がなかったと言えば嘘になります。しかし! 初めてオーレナングを訪れレックス様を一目見た瞬間恋に落ちました! それから今この瞬間まで、雨の日も風の日も雪の日ももちろん晴れの日も。四六時中愛がとどまることを知らず!」
目をバッキバキにしながら最低限の息継ぎで僕への愛を語る妻。
おいおい。
ガンギマってても美人とかもはやバグじゃない?
【惚気てないで奥様を止めてください】
オーライ。
「わかったから落ち着きなさい。そうだな。ではこうしよう。今日明日のところで、僕がサクリから話を聞こうじゃないか」
「いや、兄貴じゃダメだろ。女性陣で囲んで聞き出してもらったほうがいいんじゃね?」
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