第21話 頻繁に起こるアップデート

 ♪タラタッタタッタタン!

―――

 バローのマイバッグを新しくリビジョンアップできます。

 新機能、「形成取り出し」が有効になりました。セメントやパテやプラスチックフィラメントなどを目的の位置に目的の形状にして乾いた状態で取り出すことができます。

―――

 なんとご都合主義な機能……。でもワンテンポ遅いよ。これに取り掛かる前にあったら、この大根役者トリオが本物の調査員を演じきれただろうに。

 王女が署長と話してる間に、いつもいつもながらクソ長いリリースノートと作業の注意点のうち読まないでいい部分を読み飛ばす。向こうは知ったことではないだろうが、こっちは急いでるんだ💢。

 急いでいても前回の事故の例もあるからきちんと読むところは読む。派手な機能アップのくせに特に危険もなく、すぐに適用できるものらしい。これはレベルアップではなくレベルよりも軽微なリビジョンアップということだ。ボタン一つで有効化された。逆にクソ長いリリースノート読まされたことがムカつく💢。


―――

 署長と王女の話は終わった。カスミの凶行は調査のための断面出しとして王女のお墨付きに後付けで書き換えられた。権力ってすげぇ。

 ではまたごきげんようと王女が締めくくり警察署を後にする。コラァ!せっかく頑張ってアップデートしたマジックバッグの新機能使わせろ!


ある作業におあつらえ向けの機能が、その作業の用事が目の前で終わった直後に搭載された。ムカつく。どうせ次はスタンピードをギリで解決した後で容量アップでもするんやろw


 八百子の独擅場でカスミが少しふくれている。ガス抜きしないといずれ爆発する。いや、工事姉ちゃんになりきったカスミの功績は大きいので、全体の青写真を描いたのは八百子だが主演女優賞という名目でカスミを褒めておかないとな。


 「ふたりともありがとう。八百子殿下のストーリーも秀逸だっが、カスミの名演技の持つ有無を言わせぬ説得力あってのことだ。今後もこの調子で頼む。」


 でへへぇ~ とカスミは萌えキャラらしく可愛い感じのリアクションをしてくれるのだが、見上げるような巨体でやられると全然可愛くない。ここはお約束の頭なでなでを一応するのだが、背伸びして腕が下から上に向かって頭の上を撫でるのはなんか絵としておかしい。


「妾もなでなでしなさい!」八百子殿下も頭を突き出してくるが、そのまま頭突きになってバローは後ろに倒され尻もちをつく。


「で、殿下にはお世話になりました。また何か機会がありましたらよろしくお願いします。」


「妾をパーティから追放すると申すのか?」


 追放も何も八百子を一度もパーティーメンバーとして迎えたことはない。街まで連れて行けというから連れてきた、その場限りの同伴者だ。それに普通尻もちついてるほうが追放される側だろ。それともカスミと八百子が組んで、オレがオレの名前についてるパーティーから追放されるわけ?いや、それでも別に構わないけどあんまり追放されクセが付くのは嫌だな。


「やめてくれ、もう俺は追放されるのは嫌なんだ。」


 八百子とカスミが?という顔をしている。それもそのはず。カスミにとってバローのパーティーで一緒にやってるという意識だし、八百子にとってはバローとカスミのパーティーに後から参加した(まだしてないのだが)という意識だ。どこからバローを追放するという発想が出てくるのか見当もつかない。


「バローさんにはパーティーの人間関係で何かトラウマがあるみたいね。」


察したカスミが口を開く。


お姉さんわらわたちに話してみなさい。」


ふたりともバローを心配して、事情を聞いてくれた。もともと6人組の勇者パーティーの一員だったこと、そこから追放されたこと、しかもそのパーティーメンバーが戦闘員雇って追い剥ぎされたことなど。ざまぁは済んでいることとざまぁの内容。ざまぁの内容を聞いてカスミが引いてるが、お前のしでかしたことのほうがよっぽど周り引くぞ。


「ざまぁは済んでるみたいだけど、しばらく心の傷は引きずっているってところかしら。」


「バローも勇者パーティー追放されてたのね。やっぱり勇者パーティーって碌なことしない人間の腐った奴等がなるものなのね。」


カスミは忍者の里という集落の出身で書類上は忍者の里自体が一つの勇者パーティーとなっているが、忍者の才能がないということで追放された。


「というわけで、このパーティーの参加資格は勇者パーティーからハラスメントを受けて被害を受けた者というのが絶対条件なの。殿下には参加資格ありません。当然勇者以外ならどなたでもうちに発注をかけることは可能ですから今後とも冒険者のご用命の際はご贔屓のほどよろしくお願いします」

 カスミが勝ち誇ったように、八百子はメンバーじゃないということを宣言する。

 

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