はじめての冒険

第15話 冒険の初日

 冒険の初日の朝。どこにあるのか全くあてがない依頼品目。いやマジックバッグ一斉障害前にはマジックバッグからいくらでも取り出して買える行商人が定期的に来てたし、ちょっと使うくらいなら何時でも街の雑貨屋に置いていたのだが、あの事件の後、はじまりの街では見なくなった。


 こういうときには、マイバッグの注文格納にブルーシート、のこぎり、ロープ、セメントを登録する。こうしておけば、近くに目的のブツがあるときに通知が鳴って入手出来るはずだ。問題はどこに行けば通知が鳴って格納できるかだが、特にアテはない。ぶらぶら歩きながら反応を待つしかないだろう。セットはしておくが、まずは王道の入手先である雑貨屋とホームセンターを巡回する。


 これは無いことを確認するためと言うのが建前だが、何軒か店をまわれば意外にあるものだし、何より大冒険をしてようやく手に入れたものがすぐ近所で売っていたという展開を防ぐためである。

 そして、これが一番大きいのだが、過去にある商品を扱ってた店舗には、その商品に関する商品情報があるものなのだ。つまり仕入れ先の行商人がどういう経路でたどってきたのかとか、その財はどこで何を原料に作られるのかなど供給側の業界情勢を知っている。そりゃ表立ってそういった営業情報は出てこないが、質問への回答やそぶり、顔色などに漏れてくるものなのだ。冒険の行先を決めるうえで決定的に重要な情報だ。

 こうして行く店という店で、依頼品目に関する聞き取りによる情報収集を行った。


そして……その日の夜、留置所にぶち込まれた。


何故だ!解せぬ。(※作者註:求めるものの組み合わせが不穏すぎるからです。)


 ―――

 夏とはいえ、留置場の夜は流石に冷える。マジックバッグが手元になくてもストアのスキルは単体で使うことができる。だから本当のところこの留置場内にストーブと炬燵とみかん出して勝手にぬくぬく快適室内にしてやることは可能か不可能かといえば可能なのだが、穏便に済まさせて後腐れがないようにしたいため、言われるがままにぶち込まれている。何もやましいことはしていないのだから身の潔白は必ず証明されるだろう。

 そして就寝しようとしたとき、激しい地震が起きた。いや、地震じゃない。カスミが壁を蹴り破って助けに来てくれたようだ……orz


「忍法、壁すり抜けの術!」と壁を蹴り破った穴を徒歩でそのまますり抜ける。

 それ忍法でもなんでもないやん。


 言うまでもなく刑務所ばりの強化された壁であるがカスミの質量攻撃になすすべもなく大きな穴が空いている。


「バローさん。マジックバッグも取り返して助けに来ました。さぁ、逃げましょう。」


 ………逃げるというより武力で牢獄を制圧したって趣だ。しかもマジックバッグが2つに増えてる。一つは確かに自分のだが、もう一つはいったいどこからパクってきたの?


 留置場の破壊と制圧、マジックバッグのかっぱらい……。穏便に済ますためにストアからこたつミカン取り出して塀の中の快適ライフも諦めてじっと我慢してたのをカスミがぶち壊した。もはや穏便に話を済ます事は不可能になった。


 「ここでトラブル起こしても面倒なだけだから穏便に済ませたかったんだけどな……」


「官憲を甘やかしたらダメよ。下手に出てれば奴らはいくらでもつけあがるから。ここらで一回シメておかないと。これも心理作成のひとつ。忍法舐められたら倍返しの術ですわ」


 一応くのいちらしく、いっちょまえに心理作成とか言ってるが、意味わかって言ってる?ただ単に圧倒的な暴力じゃないか。


「人間も生き物。条件反射を仕込むのよ。バローに手を出したら、玄関前に死体が置かれるようになったり、異臭がするとか、何故か不快なことが何度も何度も起こると、バローに手を出しちゃいけないんだって学習するのよ。そういうのを繰り返して躾けていかないと野獣のまま人間になれない。役所ってところはそういう本能剥き出しの野獣の掃き溜まりなんだから。私たち良識ある市民が躾けないといけないの。」


 カスミ、嫌がらせのために玄関前に置く死体は犬猫カラスといった動物の死体だぞ。相手の死体置いたらそれ嫌がらせの域超えて殺人だからな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る