【回想】
*
【回想】
ここはお気に入りの場所だった。
「あっ、やっぱり、ここにいたっ!」
「キュアか……」
こてん、と僕はキュアに頭を叩かれる。
「いて、いきなり酷いじゃないか……」
「だって、私とは会いたくないって顔に書いてあったから、ついつい叩いちゃった」
「う……、そんな分かりやすい顔してた?」
「ふふ、もう物凄-く大きな文字と蛍光色で、前面にアピールしている感じだったよっ!」
「そ、そんなに!?」
クールな頼れるお兄さんを目指していたのだが、その路線ではない方が良いかもしれない。二枚目キャラは諦めて、自分の心の内を吐き出すことにする。
「キュアはすごいよな……」
「そうかな?」
「うん、そうだよ。いつも、いつも、冒険者の学び舎では一番の実践成績じゃないか。ユニークスキルも既に発現していて、回復職として、村の大人からも注目されているし。……しかも、勇者様もキュアをスカウトしに、わざわざこの寂れた村に来るんでしょ?」
「うーん、まあ、それほどでもあるかもねっ!!」
いや、まあ自分から称賛の言葉を投げかけたし、その通りなんだけど、なんかキュアのことを認めたくなくなってきたぞ。僕が悶々としていると、キュアはそんな僕の
「ふふ、私からすれば、トライの方が凄いと思うけどなっ!」
「僕が?」
キュアに認められるほどのことをした記憶はない。職業に関しても、戦士や魔法使いといった戦闘向きではない盗賊の適正だったし、ユニークスキルだって発現していない。座学に関してはマシな方だが、決して天才ではない。
考えている最中、思考を遮るように、キュアが僕の頭を叩く。
「いた、なにすんだよ?」
「そのすぐに自分を
「叩いても直らないよ! って、また、そんなに分かりやすい顔をしていた!?」
「うんっ、もう、トライのことならなんでもお見通しですよ。……やっぱり、トライは自分で気づいていないんだねっ」
「うん、心当たりがない」
「……ふう、じゃあ、お姉さんが教えてあげよう! トライの長所は、絶対に諦めないことだよ! 初心者ダンジョンの踏破のときだって、盗賊のスキルの習得だって、確かに人よりも時間はかかるかもしれない、それでも諦めずにやり切って、最後には必ず成功する。失敗し続けて、皆が無理だと言っても、絶対に諦めないで、成功するまで挑戦し続けられる。それって、すごい才能だと思うんだよっ」
「うーん、それがそんなにすごいこと、なのかな?」
「凄いんだよ。不遇職の盗賊に適正だと言われた人たちは、みーんな、冒険者になることを辞めちゃったでしょ? でも、トライは自分にできることを見極めて、前向きに取り組んでいる。これって凄いことなんだよっ」
「でも、盗賊のスキルも、失敗ばかりだよ?」
「んー、私はね、思うの。何回だって失敗したって良い、最後に成功すれば、その失敗は全部帳消しだよ」
「そういうもんなのかな?」
「そういうものですっ!」
僕は納得がいかないように首を傾げる。
「納得がいっていないようだねっ。じゃあ、他にもトライのいいところをいっぱい言っていこうか? 素直なところでしょ、誠実なところでしょ、思いやりがあるところでしょ、かわいいところでしょ、のくせに、時折、最後はビシッと決めて、格好いいところでしょ、そんなトライを……」
キュアの顔が近づいたと思ったら、僕の唇にそっとキュアの唇が触れる。突然のことで僕は目を見開いてしまう。キスのときは目を閉じるというのが、大人のマナーと知ったのは、まだまだずっと先だ。女の子の唇は柔らかくて、温かい。ずっとこのままでいたいって思った。でも、永遠なんてものは存在しない。名残惜しかったけれど、キュアは僕から唇をそっと離した。
「あの、えっと、これは一体……」
「こ、これは、先約ですっ!」
僕の瞳を真っ直ぐに見つめながら、キュアは断言する。さすがに恥ずかしいのだろうか、耳まで真っ赤に染まっている。
「せ、先約?」
「そうっ! 勇者様との長い長―い魔王討伐の旅が終わったら、またこの村に帰って来よう! そして、そのときに返事を聞かせて欲しいなっ! もし、もしも、私のことが好きなら、ずっと一緒に居てほしい。この星が見える湖畔で、二人の愛の巣を作るなんて、良いんじゃないかなっ?」
「う、ずるいな……」
僕だって、男なのだ。好きな人にリードされ続けるのは、格好がつかない。僕のポケットに入るほどの小さな木箱が、このタイミングしかないと存在感を放っている気がした。
「そうだ、僕からもキュアにプレゼントがあるんだ」
「うん? なになに?」
「本当はこの村を出ていくときに渡そうとしていたんだけど、もしよかったら、つけてほしい」
木箱を向けて、蓋を開ける。中には指輪が入っていた。星々のきらめきが反射して、指輪は
「ご、ごめん、どうしてもお金が足りなくて、手作りだから、綺麗な円形になっていないかもだけど……」
「……左手の薬指には、また、ここに帰ってきたときに付けたいから、右手に嵌めてくれない、かな?」
「うん、わかった」
僕は木箱から取り出し、彼女の右手の薬指に嵌めた。キュアは右手に嵌めた指輪を様々な角度で見ながら、にやにやとしていた。
「ありがとう、絶対、一生大事にするから、もし、死んでも絶対に離さないから」
「喜んでくれるのはうれしいけれど、さすがにそれは大げさじゃ……」
「そんなことないよっ! あ、トライ、もしかしてだけど、今生の別れだと思っている?」
「今生とは言わないけれど、勇者様にスカウトされて、キュアは村を出ていくんだから、暫くの別れかなと思っているよ」
「勇者様にスカウトされたら、『トライも一緒に連れて行かないなら断る』って言うつもりだからっ!」
「えっ!? それは流石に無理じゃ……」
「いいから、いいから。私に任せなさいっ!!」
まさか本当に伝えて、勇者様を困らせることになるとは思わなかった。仕方なく、荷物持ちとして、冒険に連れて行ってくれることになったのだ。これが僕の冒険の始まりとなる。
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