第31話 暗殺者

 うん、帝国の暗殺者が来ることは予測されていたしな。決して嘘じゃない。今来るとは思わんかったけど嘘じゃない。  


 もう性欲が限界迎えてたし、丁度良く性欲が発散できる相手が来たと思えば悪いことじゃないな! 戦闘する=【性なる盾ホーリーシールド】とかで絶対発散できるわけだし。


 男で性欲発散、って嫌だけど。

 そんな意味を込めて啖呵を切ると、金髪の男は俺と同様にニヤリと笑った。


「まさかあっしの存在までバレていたなんてねぇ〜」


 すみません。全然知りませんでした。


「ということは……あっしが二日前から王国に潜伏していたこともバレていたわけだ」

「あぁ。バレバレだったぜ」


 知るわけねーだろボケ。そんな前からいたのかよ。普通に国のピンチじゃねーかよ。


「噂以上の洞察力……これならローズちゃんを撃退したってのも嘘じゃあなさそうだ」


 ローズちゃん……銀髪貧乳男装暗殺者ことローズマリーのことか。……この発言で帝国の暗殺者であることは確定。


「そういうお前は帝国の暗殺者だな? また聖女さまを狙いに来たか」

「まあ、それもあるんだけどねぇ〜。どっちかというと、帝国はキミのことを危険視している」

「え、俺?」


 【性騎士】を? マジで?

 ああ、帝国側から見たら【聖騎士】か。そりゃ自国の暗殺者が撃退されてちゃ危険視はするだろうけど。


「あっしの任務は【聖騎士】及び【聖女】の暗殺。と言ってもチマチマ殺すのはどうも苦手でしてねぇ。遮音の結界を貼った上で派手に襲撃しようとしたんだけども」


 それを防がれたわけだ、と軽く笑う男。

 遮音の結界……設置型の魔道具か。ってことは増援はあんまり期待できないところだが、メイとリースは修行の成果を見にもう少しで鍛錬場に来る予定がある。


 上手く挟撃できるとありがたいが。


 ……もう少し会話で時間を稼ぐか。

 チラリと後ろを見ると、聖女さまは微かに震えて立っていた。……修行をしたところで心が強くなったわけじゃねぇからな。仕方ないか。


「どうしてそこまで聖女さまを狙うわけ? お宅に不都合なのは分かるけどリスク高すぎじゃね?」

「上の考えてることはあっしに分からないさ。ただ、【聖女】を殺すことで自国に聖女が誕生するのとを祈ってるんだろうねぇ」

「ハッ、そんな保証はどこにも無いのに?」

「何はともあれ、あっしは命令されれば任務を遂行するだけだ」


 やれやれとかぶりを振る男に、俺は鋭い視線を送る。……まさかそんな馬鹿げた目的で聖女さまを狙うとは思わなかった。


 【聖女】は一人しか現れない。これは世界の常識だ。


 ただし常に一人いる。それは、今代の【聖女】が死亡した場合、世界のどこかで新しい【聖女】が産まれることを指す。


 だからこそ帝国は、今代の【聖女】を殺すことで帝国に【聖女】が産まれることを望んでいるのだろう。まったくもって馬鹿げた話だ。


 帝国に現れる保証など無いというのに……命を何だと思っている。


 俺は怒りを堪えながら男に疑問を発した。


「随分とペラペラ喋ってくれるんだな」


 普通の暗殺者は情報を漏らすようなことはしない。こちらの疑問に何も答えないのがセオリーだ。

 しかし、この男はペラペラと情報を漏らしまくる。俺たちとしては有り難い限りだが、情報が嘘の可能性もある。


 牽制も兼ねた疑問に、男は口角を歪めて答える。


「──これから死ぬんだから。別に良いでしょ?」

「────ッ。聖女さまッ、逃げろ!」


 途轍もない速度で男が襲いかかってきた。

 咄嗟に後ろに控えていた聖女さまに逃げるように言い、俺は男のナイフを剣で防御する。

 ……重いッ! 単なるスピードタイプじゃない……!


「これも防ぐかぁ」

「不意打ちとは暗殺者っぽいじゃねーの!」

「お褒めにあずかり光栄……だねぇ!」


 男のナイフに毒が塗ってあるようには見えないものの、一撃一撃が致命傷級に重くて速い。

 ……恐らく地力に特化した暗殺者……! 基礎がしっかりしてるヤツの方が相場面倒って師匠言ってたわ……ッ!


「くっ……!」


 躱す……躱す……受ける……受け流す。魔力強化を全力にして、ひたすら攻撃を受け止める。

 反撃には隙ができる。その隙に聖女さまを狙われたらたまったもんじゃないからな。


「わ、私も……」

「早く逃げろッ!」


 後ろから聖女さまの声がする。気持ちはありがたいが敵う相手じゃない。護衛対象に戦わせる真似はしないの……よ!


 怯えさせて好感度下がってないかしら、と気にしながら逃走を促すと、たたっ、と走り去るような音がした。


 ──同時に、


「──今度こそ襲撃者だな!?」

「遅くなりました」


 ──メイとリースが鍛錬場にやってきた。

 待ちに待った増援だ。


「ヤツは帝国の暗殺者だ! 俺とメイで足止めするからリースは聖女さまを逃がしてくれ!」

「貴様に言われんでも分かってる!」


 端的に指示を飛ばし、メイが俺の横に控えるように立つ。

 リースは指示通り、聖女さまの腕を引っ張ってその場から立ち去ろうとすると、一旦俺から距離を取った男がハァとため息を吐いた。


「あんまり使えないねぇ、この魔道具。それと、【聖女】に逃げられるのは困る──【闇夜の帳】」

「なっ! 結界か!」


 男がスキルらしきものを唱えると、鍛錬場を囲むようにして結界が形成された。恐らく逃走防止用の結界。

 俺は思わず舌打ちをした。  

 マズイな。この男は強い。だからこそ聖女さまを逃がした後に被弾を覚悟で攻勢に出ようと思っていた。


 聖女さまが逃げられないとなると、その計画が全部ぱぁになる。……ただ、メイとリースがいるのはデカい。


「作戦変更! リースは聖女さまの護衛を! 俺とメイでヤツを倒す! 良いな、メイ」

「ええ、それが最善かと」


 同意を示したメイと一緒に男に向き合う。

 胡散臭い笑みを浮かべて顎を触っていた男は、俺たちをまじまじと見て言った。


「ふぅむ、【聖騎士】と【黒騎士】の二人がかりねぇ──依然として、問題なし」

「随分舐められたもんじゃねーか」


 確かに男は強いが、その強さは一対一で発揮されるものだと推測している。

 使用する武器がナイフである以上はリーチが見込めないし、防ぐ攻撃にも限度がある。


 ──なんて考えていた俺が馬鹿だった。


「かはっ……っ」

「アルス様!?」


 突き刺さるようにして放たれた男の蹴りが俺の腹部に命中。俺はそのままふっ飛ばされた。

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