第21話 成長するやつと成長しないやつ。俺は性長な
【襲撃者side 】
【聖女】とは世界に一人しか存在しない。
裏を返せば、必ず【聖女】は一人存在することになる。
つまりは、今代の【聖女】を殺してしまえば、次代の【聖女】がどこかしらで産まれることを指すのだ。
【聖騎士】とは違うこの世界のシステムは、【聖女】の神聖さに拍車を掛けている上に、【聖女】を輩出した国に利益が傾くことを意味している。
……【聖女】という存在は、対外的に見ると金稼ぎに最も良い。
何もしていなくても、そこに存在しているだけで職業信仰者の寄付がバンバン入ってくる。
勿論その寄付は【聖女】を擁している国に送られ、他にも【聖女】の治療を必要とする
巨大貴族からのバックアップも得ることができ、国としてはウッハウハだ。
「だからこそ、こうして私に聖女暗殺の任が課せられるのだがな」
そして、その任務を失敗した私は、黒色の頭巾の中で皮肉に笑った。
──アタカンタ帝国。
王国と双璧をなすほどに巨大な国であり、王国とは休戦状態ではあるものの、お互い睨み合っていていつ均衡が崩れるか分からないほどに仲が悪い。
当然帝国は【聖女】が王国にいることを望ましいと思っているはずもなく、自国に【聖女】が産まれることを期待して私に暗殺を依頼してきたのだ。
「ふっ、暗殺に成功したからといって【聖女】が帝国に産まれるとは限らないのにな」
……くだらない血が流れるだけだ。
そして、そんなくだらない依頼をしてきた皇帝に任務の失敗を伝えるのは気が重い。
私は案内された皇帝の私室の前でため息を吐いた。
「……失礼します」
ノックの後に入室。
皇帝の私室にしてはやけに質素で地味な㐀りをしている部屋に入ると、白髪が混じりながらも圧倒的な威圧感とカリスマを感じさせる中年の男がいた。
……血で血を洗う継承戦争を、兄弟全て皆殺しにすることで皇帝の座を得た残忍な男
その名をルーク・ウェルス。
「どうやら。暗殺を失敗したようだな」
「……ハッ。申し訳ありません」
皇帝は一目見ただけで暗殺が失敗したことを看破し、つまらなさそうに鼻で笑った。
……恐ろしいほどに冷たい空気だ。
「それほどまでに【聖騎士】は強かったのか?」
「ハッ。剣術、能力ともに一級品ですが、それだけでなく戦いに関する洞察力が並外れた
ものではありませんでした」
思い返す【聖騎士】の男の言葉──『くそ、せめてお前が可愛い系暗殺者だったらやりようがあったのに』……あれほどの洞察力を秘めた男なら、私が女であることすら
看破していた可能性がある。
「ほう……ならば【聖女】の前に【聖騎士】を始末する必要がありそうだ」
「ハッ。【聖女】暗殺の一番の壁となるでしょう」
皇帝は顎髭を触りながら、興味深いと言いたげな目で【聖騎士】に対する警戒を高める。
……現時点で真正面から【聖騎士】に勝つことは不可能だが、私はあくまで暗殺者だ。
他人に化けて毒を盛ったり、闇に紛れて襲撃したりいくらでも方法はある。
私が何とかしなければ。私が……
「……ふむ、【聖騎士】は人を護るものだろう。であれば大規模な襲撃で人質を取るか…
…いや、むしろ目の前で護るべき者を殺せば簡単か?」
「────っ」
残忍だ。残忍なのだ、この皇帝は。
だからこそ、私は暗殺の任を受けるしかなかった。
でなければきっと、この皇帝は無辜の民をどれだけ犠牲にしようと気にすること無く目的に突き進むから。
「お、お待ち下さい!【聖女】を殺せさえすれば無用な犠牲は必要ないと仰っていたは
ずです!」
私が思わず声を上げると、皇帝はニヤリと笑う。
「ふっ、現に失敗したではないか。……お前が例え暗殺者とは思えないほど甘っちょろい
性格をしているとはいえ、己を犠牲にできる心根と確かな実力があったから俺はお前に命
令した。犠牲を厭わないやり方のほうが遥かに簡単だと言うのに」
……静かに項垂れる私に、皇帝は一転して冷たい気配を携えながら命令した。
「【聖騎士】を殺せ。それができれば、お前の言う通り穏便に事を運ぼう」
「……ハッ」
この皇帝が約束を守ることはないだろう
私は一度……その一度が致命的になる失敗をしてしまったから。
けれど私には暗殺しかない。それしかこの皇帝を御す手段が無いからだ。
☆☆☆
「おちんぽ!!」
……いやぁ、意味分からん妄言を吐き散らかしても許されるくらいにご機嫌ですよ俺は。
なんてったって夢のメイとの共同作業だからな!護衛という名の。
なんだかんだ聖女さまも可愛いし二人まとめてお得ってわけだぜ。
たとえ俺のおちんぽ発言がメイドの人に聴かれて二度見されようが、俺の心は荒波のように狂いまくってるのだ。……いやこの状況で現実的にさざ波は無理だろ。
というわけでルンルンと聖女の私室に向かい、意気揚々と扉を開けると────そこにいたのはハズレだった。
「なんだお前かよ……」
「なんだとはなんだっ!!貴様失礼だろう!!」
「期待させておいて落とすのは外道の手段だよ、っておばあちゃんに習わなかったか、ああん!?」
相変わらず顔だけは良い青髪キレ女ことリースは、俺の発言にガミガミと文句をつけた。
「知るかッ!はっ、どうせ貴様のことだからメイと聖女さまの二人でお得とか思ったの
だろう!残念だったな!彼女には近隣の森の哨戒任務を命じたところだ!」
「てめぇ確信犯じゃねぇかおい!!」
てか何で俺の思考が筒抜けなんだよ!実はお前も同じこと考えるとかのパターンじゃねぇよな!?
コイツと思考が被ってるとか一生の恥だぞ。
あーだこーだとリースと言い合う俺。
すると、目を丸くして静観していた聖女さまがポツリと呟いた。
「仲、いいね」
「「よくない!!!」」
二人揃って答える俺たちに、聖女さまは堪えきれなくなったかのように右手を口元に当ててふふ、と微かに笑った。
そんな聖女さまを見たリースは、愕然とした表情を浮かべると、次の瞬間にはクネクネと悶えながら床を這い始めた。ドン引きなんですけど。
「せ、聖女さまが笑った……!?……ふぉっ……ははは美しい……ぎゃんかわっ……」
「なんだコイツキッショ」
変態性に関しては自信あるけど、流石にコイツよりはマシなことを再確認できて良かったわ。まあ、別ベクトルの変態と言われれば納得するしかねぇんだが。
俺はあくまで全人類の男に備わっている性欲と可愛い女の子の笑顔が見たいという性癖を高次元に昇華させただけやねん( 早口) 。
だから聖女さまの笑顔は俺にクリーンヒットだったのでごちそうさまでしたァ!
……ちょっと勃ったのは内緒な。
安心してくれ。勃起を気取られることはしない。
勃つ俺、跡を濁さずってな、ははっ。死ねよ。
「…………」
……そんなクソみたいな冗談はさておき、チラリと聖女さまの表情を伺うと、床で悶えるリースにガッツリ引いててワロタ。
まあ、前は護衛として接するあまり聖女さまの笑顔を見ることができなかった、みたいなことを言ってたし、アイツにとっては念願なんだろう。
聖女さまの笑顔を引き出せたこと自体は俺も嬉しいし、このままどんどん表情豊かになってくれればとも思うよ。美少女の笑顔見たいし。
「おいリース、護衛中だぞ」
「貴様にだけは言われたくない」
俺が声を掛けた瞬間、一瞬にして立ち上がり俺を睨みつけるリース。そんな芸当できんなら戦闘で活かせよ。
やれやれと頭を振り、場が落ち着いたのを確認した俺は聖女さまを見て頭を下げる。
「聖女さま。毒の治療してくれたんだってな。ありがとよ。放っておいたらお陀仏だったっぽいし」
あの暗殺者が使っていた毒物は即効性かつ致死のモノだったらしく、俺の顔色は即効で紫色になっていた模様。
まともな治癒魔法も効かず、僅かに進行を遅らせるのみで、【聖女】のみ使える解毒魔法を使用してくれなかったら間違いなく死んでいた。
というわけで礼を伝えると、聖女さまは目をパチクリさせながら首を横に振った。
「わたしこそ、守ってくれて、ありがとう」
「んにゃぴ。じゃあお互い様ってことで」
「それに……」
「ん?」
続けて言葉を発しようとした聖女さまに聞き返すと、彼女は再び小さく微笑んで言った。
「──わたしがやりたくて、やったから」
「……!ははっ。そうかい」
いつぞやか俺が聖女さまに言った言葉は、しっかり彼女に刻まれていたようだ。
そのことに俺は聖女が確かに成長していることを感じ取り、柄にもなく誇らしい気持ち
になった。
「──何良い雰囲気になってるんだ貴様ァ!!」
「兎に角てめぇは良い雰囲気をぶち壊す天才だよまったくゥゥ!!」
聖女さまは仲良くしよう?みたいな目線で見てくるけど間違いなくむりぽ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます