虚空海賊 エビタイ号

コトプロス

第1話 海老で鯛を釣る

1話  お互い大変だなぁ



 ここは今流行りの現代にダンジョンが出現した世界。

 しかし、この世界のダンジョンはいわゆる“迷宮”と呼ばれるダンジョンでは無い。現実世界に現れた門を潜った先はまるで宇宙空間の様な、どこまでも広がる“魔海”と名付けられた魔法空間と、惑星の様に点在するダンジョン、魔法の力が満ちた宇宙を駆ける無法者は「海賊」と呼ばれ恐れられる。

 

 これは、そんなダンジョンが出現した世界で「虚空海賊」となった男達の物語である。




 ─────



「ぶはーっ………こんなもんか。」


 ボロボロの上着を羽織り、大きな鍔広の帽子をかぶった小太りで眼鏡の男が血溜まりの中座り込む。


「ちっ、シケてんなぁ。もうちょっとデカい群れを見つけられたらなぁ……でもソナーたけぇし……」


 トホホ……と言った様子でその場の死体となった猛獣をナイフで切り開き、内臓の辺りから戦利品となる石を取り出す。


「あぁ、マンガみたいに一気に魔石を集めるワザとか無いかなぁ……それか、拾う専門のカワイコチャンとか?……はぁ……」


独り言をブツブツ言いながら作業を終えると、近くに止まっていたタイヤの無い軽トラの様な乗り物に乗り込む。


 魔導エンジンの回路に魔石を放り込み起動するとフワーッと浮き上がらせ、そのまま魔海と呼ばれる虚空へと突っ込むのだった。



  ─────────



─魔海─


 1台の脱出艇が多数のフネに追われていた。

 何隻もの小型艇が一つのフネを狙い虚空を疾走する。


「クソッ、奴ら逆恨みもいい加減にしろってんだ!ナニが「私のモノにならないならいずれ他人の手に渡る前に」だふざけんな!!!」


 脱出艇に乗っている男が吠える。男は整った顔立ちに泣き黒子、甘い声に切れ長の目と長いまつげを湛え、世の特定の趣味の婦女子がヨダレを垂らす様な男であった。


 今のこの脱出艇には迎撃装置は付いていない。金は全て治療費に消し飛んだからな……不味いな……俺がここで虚空の藻屑と消えたら妹の治療費は誰が稼ぐってんだ!


 俺は相棒の「ユーチョロン-83」を構え、追手を撃つ。何機かは撃ち落とせたが、そのうちの1機の弾が俺の脱出艇のエンジンに当たり嫌な音と共に煙を上げる。


「うげ…………帰れるか?」


「その心配は要らねぇぞ色男!てめぇはここで死ぬんだ」


「バカな事言うな、ブ男。嫉妬は見苦しいぜ?」


 やろうぶっ殺してやる!と息巻いてる雇われの海賊はウインチ銃を取り出し脱出艇に撃ち込む。

 

 そして船の間に張られたワイヤーを伝ってこちらに移って来ようとする。だが俺も黙って見てるワケじゃない、海賊の何人かは愛銃でブチ抜く。


 しかし追いついてきた3機の戦闘艇からもウインチ銃でアンカーを撃ち込まれ、虚空についに固定されちまった……これは………ヤバいかもな……


 この銃の弾も安かないんだが、背に腹は代えられない。みんなバラまいてやる!………明日からは当分肉は食えそうに無いか。


「オラァ!いつまでちんたらやってんだ!たった1人相手に!ええい、コイツで木っ端微塵にしてやる!」


 あの男が取り出したのは……ロケットランチャー?!手下諸共俺を消す気か?


「ガッハッハ!上手く行けばお嬢の所で雇ってくれるってハナシだからなぁ!てめぇら!悪く思うなよ!」カチッ!カチッ!


「あ、あれ?」



「今日の狩りがシケてたから憂さばらしだ。悪く思うなよ」



─────────────




「今日の狩りがシケてたから憂さばらしだ。悪く思うなよ」


 キマった………何か帰り道でイケメンと海賊が争ってたからついぶった切ってしまった(´・ω・`)

まあ、明らかに手下ごとイケメンを撃とうとした時点でギルティよね。判決は地獄裂きで


「で、おたくらは何なの?この辺じゃ見ない顔だが。抗争なら他所でやれよな」


「ひっ……お頭が一発で?!逃げろっ!」


 ワイヤーも叩き切って居たからか、手下どもは戦意を無くして残った船に引いて行った。お頭、部下ごと撃とうとしてたよな………?もう従う義理も無いかな。これからどうする?とか聞こえて来る………なるほど。コイツはしたっぱを力で従わせてたタイプの賊だった訳だ。


「で、アンタ。いくら出す?」


「………この銃じゃ割に合わないか?」


 イケメンはバツの悪そうにそう言う。んだよそれ


「使い込んだ相棒を差し出すなよ。バカにすんじゃねぇ。換金できるお宝や魔物の素材は?何か無いとあんなん持ち出すまで追い回されないだろ。もしくは情報か?ならデータでくれよ」


「そんなモノ……ないさ。アイツらはただの金で雇われただけのクソ野郎さ。ただ金が無いのは本当だ。何なら働いて返すぜ」


「てめぇ、別に弱くないだろ。本当ならあんな芋洗いみたいな海賊、屁でもないんじゃないか?そんなのがなんでまた」


「妹がな……病気なんだ。魔臓器不全でな……金はみんな治療費にぶっ飛んだ。だから弾も装備も、戦闘艇までケチってこのザマよ」


「………すまないな。だが何故そんな込み入った話を初対面の名前も知らない小太りの怪しい男にするんだ」


「ハハハハ!本当ならさっき死んでた。その分のつもりだな。あとは怪しくは見えるが悪い奴には見えねぇよ!お前さんは……これでも人を見る目はあるつもりだ。」



「お互い大変だなぁ……俺の名は万羅賀 巻観。マッカンと呼んでくれ。地上まで曳航してやる」


「たすかる。ありがとうよマッカン。俺はラールッド、ラールッド・パーロットだ。この借りは必ず返す。“お互い”って事はそっちも何か事情があんのかい?あの剣の腕だ、もっと良い船に乗っても良いだろうに」


「まあそれはそのうち話すよ」


「あってめぇ卑怯だぞ」




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