鎧騎士はシルバーランクになる

第13話 鎧騎士は依頼を受ける

 朝日の差し込む冒険者ギルド内で、私は水入りのグラスを片手にテーブルに座っている。周囲にはグースカと眠りこけている夢の冒険者達でいっぱいだ。彼らは夢でもダンジョンに潜っているらしく、ダンジョン関連の寝言ばかり言ってるので興味深い。

 寝言を聞きつつ内装をじっくり観察すると、木製の椅子やテーブルの木目が皆一緒なので、もしかしたらダンジョン内から繰り返し回収した物なのかもしれない。ダンジョンは一度出ると構造物が一新されるので、迷宮調整士がやろうと思えば一気に量産できそうだ。


「何してるの? 後輩君?」


 椅子の背をなで比べていると、後ろから声をかけられた。


 知っている声に振り返れば、アリシアが私の様子を不思議そうな顔で見ていた。


 その背中には昨日のダンジョン周回で手に入れたレイピアが存在を主張しており、鋭い先端には応急処置なのか布が巻かれている。


「ああ、コレ? 危ないから巻いてみたの。鞘を作るまでの応急ね。手で持たないと魔法の力は発揮されないみたいだけど、元々鋭いから町中で先端を出しっぱなしは良くないわ」


 ――確かに刺さったりしたら大事だ。


 アリシアの話を聞き頷いていると、ギルドカウンターの奥にあるドアが音を立てて開き、ギルド受付嬢の制服を着こなしたミラが出てきた。


「アリシアと騎士さん、早かったですね」


 ――かなり眠そうにしていたのに、大丈夫なのだろうか?


 別れたばかりのミラが早速業務を開始したことを不思議に思っていると、受付カウンターの奥に見覚えのある薬ビンが山積みにされているので、「なるほど」と納得した。


 あれは活力剤のビンだ。受付の業務でもあの薬は活躍しているらしい。


 朝からピカピカしている受付カウンターにて、ミラが手招きをしてくるのでアリシアと顔を見合わせてから近づいていく。


「昇格用に、ちょうど良い依頼があります」


 受付カウンターに近づくと、ピカピカしていたのは地図だった。地図には何やら色々と書き込んであるが……。


 ――記憶がないので地理に明るくない私には、さっぱり分からない!


「安心して! あたしも同行するわ」


 困っていると、気が付いたアリシアが提案してくれる。ありがたいが……。


 ――複数人で挑んでも良い物なのだろうか?


「この依頼は達成の可否を見ているだけですので、複数人で行っても大丈夫です」


 受付カウンターの【マインドスキャン】を使ったらしいミラが、私の疑問に答えながら続ける。


「依頼は村に現れた魔物に対処して欲しいというモノですが、この村はダンジョン攻略のために作られたという記録がありますね。あまり芳しくなかったのか、現地では忘れ去られていたようです」


「ダンジョン攻略の為に作った村なのに、ダンジョンのことを忘れちゃうの!? なんで?」


 解説の突っ込みどころにアリシアが容赦ないツッコミを入れている。友人のミラは慣れたものなのか、サッとカウンターを撫でると、淀みなく理由を教えてくれた。あの受付カウンター、魔法を使ったり地図を出したりとどこまで万能なのだろうか。


「どうやら、あまりドロップや宝箱が美味しくないダンジョンだったみたいですね。観光地化の申請もされていますが、今度は立地の問題で失敗。諦めて通常の村として細々と経営していたようです」


「えぇ……」


 あんまりにあんまりな結末にアリシアが微妙そうな顔をしている。先走った行動はよろしくない、ということだな。この依頼の理由は恐らく……。


 ――忘れられたダンジョンから魔物が溢れたのか?


「そのとおりです。あなたたち二人に魔物の排除とダンジョンの攻略を依頼します」


「ふぅん? やってやろうじゃない!」


 乗り気なアリシアが席を立とうとすると、それを予見していたらしいミラが引き留める。


「待ってください。本当はシルバーランクからの特権なのですが、有望な冒険者である二人には特別に、現地への足としてギルドボートを出します」


「本当に~!? ノールの冒険者らしくなってきたわね!」


 ――ギルドボート?


 カウンターに身を乗り出してにじり寄るアリシアを押し戻しながら、ミラがチケットを差し出してくる。チケットは銀色の装飾が施されており、確かにシルバーランクからの特権っぽい感じがする。


「ギルドボートというのは、冒険者ギルドによる魔法の力で動くボートの派遣サービスです。見たとおり湖に面したノールの街は水運が盛んですので、我ら冒険者ギルドは、その水路網に便乗して冒険者を現地へ素早く派遣しています。今回はシルバー用のボートなので、あなたたち二人と荷物持ち一人くらいなら搭乗可能ですね」


「荷物持ちもいけるのね! 見習い冒険者でも連れていこうかな? 本職のポーターには劣るだろうけど、一緒にドブ掃除をやった子達だから、贔屓にしてあげたいのよね。良い? 後輩君?」


 片手をあげることで了承の意を伝えると、嬉しそうに笑ったアリシアはミラと見習い冒険者の報酬について相談を始める。


 彼女の人選なら、なんとなく安心な気がするし、私には何の伝もないのだ。それに、昨日の一件で身に染みたが、荷物を持ってもらえるのは大変に助かる。


 水運が盛んだとミラが言ったときに窓越しに指し示していた湖を眺めると、彼女の言葉を証明するかのように、早朝から大小の船が行き交っており、中には家よりも大きな船もある。大きな船の甲板にはたくさんの椅子とテーブルが並び、乗客らしき人々がくつろいでいる。海上の喫茶店といった雰囲気だ。


「後輩君! 見習い冒険者の子が仕事を見つける前に誘いに行きましょ!」


 気が付くと、既に冒険者ギルドの出入り口で私を手招きしている気の早いアリシアに内心で苦笑しつつ、おいて行かれないように立ち上がる。


「騎士さん、気をつけてくださいね。アリシアのことをよろしくお願いします」


 ――了解だ。


 一晩付き合ってみると仕事柄か心配性らしいミラに見送られ、アリシアの誘おうとしている見習い冒険者に思いをはせる。喋れない私を気にしない子なら良いのだが……。


 私は待っていてくれたアリシアに追いつくと、冒険者達が次々と起き出し、ガヤガヤと騒がしくなり目覚めつつある冒険者ギルドから出発した。

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