第3話 鎧騎士は周回する
「あっ! ああー!」
――なんだ!? また魔物か!?
どうにも気になる扉を私が見つめていると、彼女が突然に叫び声を上げたので驚き振り返る。
よく見れば彼女が持つ取り返した剣は、刃の真ん中が潰れた無残な姿をさらしていた。
あれでは鞘にも入るまい。
――もしかして私が弾いたときに破損してしまったのだろうか?
「あ、アンタは悪くないわ! あんにゃ、あんな使い方をする魔物のせいだからね! でも大丈夫よ! あの扉がわかる?」
まさかの依頼失敗に呆然としている私の様子に気が付いた彼女は、空元気が丸わかりな震える声で私を許すと、気になっていた扉を指し示した。
大丈夫という言葉と気になる扉から、彼女が道中で話していた事を思い出した私は、手のひらに握りこぶしを乗せてカチンと鳴らす。
――もしや、お宝があるのか?
「そうよ! お宝が手に入れば数打ちの剣を一本や二本無くしたって、大丈夫なんだから! さあ行きましょう! お宝を山分けよ!」
私の反応に満足したアリシア。
彼女は自分にも言い聞かせるように説明すると嬉しそうに大股で扉に近づき、腰のポーチから引き抜いた細い金属棒で扉の鍵穴をカチャカチャとしはじめる。
――鍵がかかっているのか?
「ちょっと、待ってね? こう? こっちかな?」
しばらくカチャカチャと格闘しているので不安になってきたが、私の不安を吹き飛ばすようにカチンと扉が鳴り、ニンマリとしたアリシアが扉を開けてみせる。
「えへへ! あたしも上手いもんでしょ! 冒険者ギルドの鍵開け講習で習ったの! あは! 初めてのダンジョンで銀の宝箱だなんてラッキーだわ!」
開かれたドア内には光り輝く不思議な図形と、木箱を銀色の金属で装飾した物が存在した。
――この光る円状の図形はなんだろう?
「待った! この魔法陣……ええと光ってる奴は触ると外に飛ばされるから、お宝を開けた後に触りましょう! 宝箱は一緒に開封しないとダメ、こっそり懐に入れても、わかんなくなっちゃうからね!」
つい近づいて触ろうとする私に気が付いたアリシアは、制止しながら図形について教えてくれる。あの銀の装飾箱が宝箱なのか。銀色は彼女の言い方からして良い物なのだろう。良い物があるということは悪い物もあるわけで……。
――いくつかの色が存在するのだろうか?
私が首を傾けて物思いにふけっている間にアリシアは宝箱をガチャリと開けた。
すると、私の視界が一瞬真っ白に塗りつぶされる。
――何事だ!?
すぐに戻った視界には、長いレイピアを握ったアリシアがいた。
その長さは縦に構えれば彼女の肩ほどまでありそうな長大なシロモノだ。
重くないのかと近づいた私の心配は、彼女がレイピアをぶんぶん振り回すので霧散する。
「わぁ~! これ軽量の魔法がかかってるみたい! 軽い! 軽いわ!」
――ちょっと危ないな!?
#####
青い空に白い雲、さんさんと照りつける太陽に照らされた私達はダンジョンの外にいる。
――不思議だ……。太陽の光がやけに懐かしく感じる。
アリシアが落ち着いた後、無事にダンジョンを脱出したのだ。
周りを見回した私は出口にあった図形、魔法陣があることに驚いた。
「ん? ああ、その魔法陣はダンジョンの入り口よ! 魔力だまりの魔力が尽きるまでは、同じダンジョンに挑戦できるの! お宝も復活するから、何度か挑戦するのもありね!」
その言葉に良いことを思いついた私は彼女を手招きしながら、もう一度入ろうと誘う。
――気に入ったようだし、何度か挑戦すれば同じ武器が出るのではなかろうか?
「えっ? もう一回? し、仕方ないわね! 試し切りよ試し切り。不良品かもだし、ちょっとだけなら良いわよね!」
彼女も長いレイピアを試してみたかったのか乗り気だ。
私たちは意気揚々と、ダンジョンの周回を開始した。
まさか、あんなことになるとは……。
一回目 木箱
「わぁ! すっごい切れ味! 鋭い軽量のレイピアってところ?」
二回目 木箱
「銀の箱は中々出ないの。ポーションも良いお金になるから無駄じゃないわ!」
三回目 銀箱
「同じレイピアが出てきたけど、とっても重いわね。レンズで見てみると軽量化の魔法がかかっていないみたい」
四回目 木箱
「ポーションか。折れた剣は一旦、ダンジョンの入り口に置いておきましょうか」
#####
十回目 銀箱
「はあ、はあ……。ようやく同じのが出たわ! 今度は鋭刃がついてない!?」
十五回目 木箱
「重いぃ……! そろそろ帰らない? え? まだやるの!?」
十七回目 木箱
「……」
二十回目 銀箱
「出た! 出たわ! 鋭い軽量のレイピア! 町に帰るわよ! あはははは!」
日も暮れた頃、最初に手に入れたレイピアと同じ魔法がかかった物をハイになったアリシアが振り回しつつ、町に案内してくれる。
私は三本ほどのレイピアと折れた剣を抱えながら、彼女はポーチをポーションでいっぱいにして大漁だ。
――しかし、あんな調子で町に近づいて大丈夫なのだろうか?
石畳の街道を同じく歩く人々からは、生暖かい目を向けられている。
あるあると言った様子の恐らく通りすがりの冒険者から、ギョッとした旅人、果てにはこちらを指差す子供を止める親子連れまで、バリエーション豊かな反応をされている。
それでもテンションの変わらないアリシアと一緒に、城壁に囲まれた大きな町に辿り着いた。
案の定、おかしな様子を町の門兵にとがめられたアリシアは、無理をしてダンジョンに潜ってはいけないとお説教を受けている。
私も一人で町に入ってもよく分からないので一緒にお説教を聞いていたが、お説教をする門兵が慣れた様子なのが印象的だった。
――もしかしたら良くあることなのだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます