第2話 一行怪談2

「痴漢です」と血で顔を真っ赤にした女が口パクでこちらに訴えかけてくるが、幽霊に対する痴漢は立件できるのかわからないので何もできない。


 私が缶詰めを買うと鯖の味噌煮だけ必ず中身がぼさぼさの髪の毛になってしまうので、とりあえず味噌という字を見るだけで身構えるようになってしまった。


 ベランダに干してある白い靴下に赤い手形がついているのを見た日、その日は必ず足以外の場所を怪我してしまうというのが我が家で言い伝えられている。


 婚約者の家に招かれた時、にこやかな彼の母親から渡されたお茶菓子の袋に「この子から逃げなさい」と震えた字が書かれていた。


 駅のホーム下から伸びる白い手は、今や大人の膝辺りまで成長し、時折ホームを歩く人たちの足を引っ張っている。


 雷鳴と重なって聞こえてきたのは、あの日、首に縄を回した彼の踏み台が倒れる音。


 私の彼、興奮すると他人の耳たぶを齧り取ってしまう以外は、非の打ち所のない自慢の彼氏です。


 妻が私の好物をやたら作る時は気に入った子どもをさらってきたということなので、また神隠しの噂を近隣住民に流さないといけないのかと、胸中でため息をつく。


 息子が描いた似顔絵の私は、体の部分だけ黒色でぐちゃぐちゃに塗り潰されている。


「また明日ね」と手を振った同級生がその直後にトラックに轢かれたが、妙に曲がった手足をぶらぶらさせながら家路に着く様子を見て、いつになったら彼から解放されるのだろうと、彼の死を願わずにはいられない。

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