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 ただでさえ、本来の職務時間を超過しているらしく、ディール少年が急ぐように声をかけていた。

 後片付けは騎士がするという事だったので、いても邪魔になるだろうと、ルルと一緒に訓練場を後にする。


「お疲れ様でした」


 リナに声がかけてきた。

 ずっと待っていたのだろうか?

 

「待ってたんですか?」

「はい、お二人の御勇姿をしっかりと見させていただきました」


 これも報告されるんだろうな。

 まぁ、ディール少年が審判やっていた時点で、どっちみちヘルメスとかいう王様には報告されるのだろう。

 今やった模擬戦も、うるさい奴らを黙らせるためという名目とは別に、俺たちの戦力の把握も目的の一つだったのかもしれな。もし、そうだとしても、結果は悪くないと言える。

 俺はドラゴンの血を使うところまで見せてしまったが、ルルは殆ど手の内を見せていない。術符の使用も壁を張った一回だけだ。


「この後は、どうなされますか?」

「ムンナ様にお見舞いに行きたいです」

「そちらなのですが、今日はもう面会時間を過ぎてしまいまして」


 面会時間?

 医務室にそんなものがあるのか?


「面会時間なんてあるんですか?」

「本来はないのですが、ムンナ様が摂取するものを徹底的管理する必要があるからとのことらしく。私共としましても、外部の薬師の方にお願いしている手前、あまり無理は……」

「それならしょうがないですね」


 外部の薬師ねぇ。

 王宮から呼び出しを喰らうなんて、よっぽどの腕利きなんだろう。

 

「ご理解いただき、ありがとうございます」

「その薬師の方って、明日もいらっしゃるんですか?」

「はい。ムンナ様にお見舞いに行くと、必ずそばにいるらしいので」


 ルルは、薬師の方にも会ってみたいらしい。自分でもポーションを作る手前、気になるのだろう。

 

「それでは部屋に戻りたいです」

「かしこまりました。案内いたします」


 駆け寄ってくる足音が聞こえたので、振り返る。ディール少年だった。

 リナは一礼をして、眼を伏せる。

 

「ルルさん」

「お忙しそうでしたので、勝手にお暇させていただきました。ご無礼をお許しください」

「いい、いい。僕の方こそごめんね。急に模擬試合なんて頼んじゃって」

「いえ、わたしは特になにもしていないので」

「ははは、そうだね。騎士団のみんな悔しがっていたよ。良い刺激になったんじゃないかな。ありがとう」

「いえ、殿下の頼みとあらば当然かと」

「それでさ、その、もし、よければなんだけどね、」


 何かを言いよどむディール少年。

 なんだろうか?

 リナが何か知っているかと、そちらを向けば彼女もディール少年が何をしたいのかを掴み損ねているようだった。

 ルルも早く部屋に戻りたそうにしている。

 そして、意を決したようにディール少年が言葉を発した。


「ディナーをご一緒しても?」

「すみません、もう食べました」


 ディール少年が決死の思いで口にした、ディナーのお誘いは、ルルが一瞬にして切り捨ててしまった。

 気まずい、沈黙の時間が流れる。

 なぜか、リナさんとバッチリと目が合った。

 どうすんの、これ? おそらく、お互いにそんな風なことを考えたと思う。

 再び、黙り込んでしまったディール少年に、何かを察した様子のルルが救いの手を差し伸べる。

 

「何か御用時でしたら、今言っていただければ対応しますよ?」


 救いの手ではなく、追い打ちだった。

 たぶん、そういうことではないのは俺でも分かる。

 ディール少年がルルを食事に誘ったのは、頼みたいことがあるからではなく、一緒に食事をしたかったからなのだろう。

 なぜだか、旅をしているときに見かけた、小さいスライムにすり寄ろうとするも、「あっち行け!」とされてしょげていた大スライムのことが思い浮かんだ。アイツは元気しているだろうか、と現実逃避を挟みつつ二人の会話にも耳を傾ける。


「いや、用事があったわけじゃないんだ」

「? でしたら、なぜ食事を?」

「それは、えっとぉ、」


 再び、言いよどむディール少年。

 しかし、またしても何かに思い至った様子のルルが提案をする。


「ここでは、言いづらいということでしょうか? でしたら、部屋の方でお話ししますか?」

「へ、部屋⁉ いきなり部屋は、まずいんじゃ無いかな!?」


 今のディール少年の反応で、予想は確信に変わった。

 リナも同じだったようで、思案から一転して、微笑んでいた。


「ディール殿下、申し訳ありません。ルル様はただいまの、模擬試合で少々お疲れの御様子です。食事のお誘いは、また後日ということでもよろしいでしょうか?」


 そう、リナが助け舟を出す。

 大して疲れていないルルも、会話が終わりそうと思ったらしく、特に否定はしなかった。


「そうだよね。ごめん。僕の配慮が足りなかったよ。明日の昼食は一緒に食べない?」

「構いませんよ」

「ほんと! ありがとう!」


 パッと笑顔になったディール少年は、まだ用事があると言って再び訓練場に戻っていった。


「なんだったんでしょうか?」

「さぁ、なんでしょうね」


 リナは答えない。

 当然、俺も聞かれても答えるつもりはない。

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