Life.1 挑戦! オカルト剣究部!③

 放課後にリルベットと部室へ向かうと、やけにゲッソリした部長の姿が見えた。


「絶花ちゃん! リルちゃん! 待ってたよぉ!」


 仲間がやってきてよほど嬉しいのか、ゲッソリながらも声はとても喜ばしげだ。


「部員に対する元気な挨拶、プラス一〇点」


 部屋の隅には、カキカキと生真面目に採点するエルターくんの姿がある。


「はぁ……教室から今まで、ずっとこれなんだよ……」


 よほどストレスだったのか、たった数時間で疲労困憊という様子だ。

 私はこんな時のアレだと思い、マジカル☆メイトを急ぎ取りに行く。


「ど、どうぞ、これで元気になってください」

「ありがと! でもごめん! お腹はそんなに空いてないから!」


 絶花ちゃんが食べていいよと、やんわり断られる。

 このマジカル食品、なぜか私しか食べてないような……うん、クラーケン味おいしい。


「後輩の好意を上手く受け止めることプラス三〇点、ただし後輩に心配されるような状態を見せたことマイナス二五点――差し引きでプラス五点といったところ――――」


 何気ない日常の一コマでも、最後は彼の採点が締める。これは心理的に辛い……。


「試験官さん真面目っすねー。もはや監視の仕事してるみたいっす」

「ボクは試験官なんだ、当然目は光らせる。それに監視官なのはキミの方だろう?」

「どういう意味っすか?」

「オカ剣のことは昼までに改めて調査を実施した。生徒会役員のシュベルトライテさんは会長命令で宮本さんを監視している。リュネールさんは宮本さんと日常的に何か競争を。そして学園の問題ごとにはいつも宮本さんがいる――そういう調査結果が出たんだ」


 さすが部長のお母さんが連れてきただけあるのか。既にそこまで調べているとは。


「あの、でも、私はいつもいつもトラブルの渦中にいるわけでは……」

「聞き込みをした九割以上の生徒が、キミを素行に問題アリと答えたデータがある」


 大多数の人がこの私を問題児扱い!? それ本当にここの生徒ですか!?


「では部員も揃ったようだし、これから部活動についても採点させてもらうよ」


 私が反論しないと見ると話を切り、ボクのことは気にせずにと活動の開始を促す。


「じゃ、じゃあ、ひとまず今日は――」


 今日は運良く四人揃っているということもあり、旧武道棟内で活動をすることになる。

 しかしこれが地獄だった。活動自体でなくエルターくんの採点が悪魔なのだ。


「――ふむ、本日の活動はこれで以上かな」


 彼は高級そうなペンを胸に挿し、クリップボードを脇に抱える。


「初日ということで少々お疲れかと思う。ボクは一足先に失礼させてもらうよ」


 どうやら一応は私たちを気遣って、今日は早めに撤退をしてくれるらしい。

 彼は丁寧にお辞儀をすると、颯爽とした足取りで去っていくのだった。


「な、なんなんすか、あいつはぁぁぁぁぁあぁ――――ッ!」


 シュベルトさんが爆発した。怒号なのか悲鳴なのか分からない絶叫を響かせる。


「途中からあの試験官、僕のことを見て何度も『キミは真剣に励んでいる雰囲気を出すのが上手だな』とか『キミは審査対象ではないけど向上心や行動力の項目で既に赤点だよ』とか、後ろでチクチクチクチクと――くぅぅ、言い返せないから余計にムカつくっす!」


 であれば、真剣に取り組めばいいのではと思うがツッコミはしない。


「腹立たしいのはわたしとて同じです! あの男はこの誉れ高き騎士に『キミの所作は美しいが技のネーミングセンスは最悪』『邪龍眼流・聖十字裂覇(ダーク・ドラゴニツク・セイント・クロスファイア)? 邪なのか聖なのか曖昧。実戦でその長い技名を叫ぶの?』など、わたしの美学を一片とて理解していない!」


 リルベットは厨二センスを揶揄されてご立腹。額に十字型の怒りマークが浮いている。


「二人はまだいいよ。絶花ちゃんなんて、もはや言葉を発する気力もないんだから」


 彼による私の評価は、嵐しか呼ばない暴走爆裂おっぱいサムライだそうです。

 ふ、ふふふ、私は不器用なダメ人間ですから……ふふふふふ……。


「なんか宮本さんのところだけ白黒漫画みたいになってるっす」

「もはや怒りを通りこして虚無状態のようですね」

「ほら絶花ちゃん! マジカル☆メイト食べて元気出して!」


 モグモグ……これは虫食いドラゴンアップル味……大当たりだ!

 マジカルエネルギーで元気いっぱいに。となれば今からやることは――



「「「「作戦会議!」」」」」


 私たちは互いの頭を限界まで突き合わせ、万が一にも会話が外に漏れないようにする。



「ごめん。あたしの考えが甘かった――エルは、手強い!」

「あの厳しさは無理ないっすよ。少しは僕の雑な仕事ぶりを見習ってほしいっす」

「彼が不正を働いている様子もありません。採点の仕方も正確にして公平でした」

「こ、このままだと、アヴィ部長が不合格に……」


 この試験は、もはやリアス先輩くらい完璧でないと通過できないだろう。


「エルは不正行為をしなければ問題ない、部員の協力も許されるって言ってた」


 部長の目に炎が宿る。いいや散々こき下ろされた他のメンバーも燃えていた。


「我らはオカルト剣究部! あの巨大節穴男に目に物を見せてやらなくては!」

「もち賛成っす! あらゆる手を使って点を稼ぎまくってやるっすよ!」

「わ、私も、できる限りで協力します……!」


 ただでやられるオカ剣ではない。私たちはどんな勝負だって諦めないのだ。


「ありがとう皆! それで何か良い策はある!? あたしはまだないっ!」


 ピンクの瞳がぐるっと一同を巡る、大抵こういう場合に声を上げるのは――


「……ふっふっふ、このシュベルトライテに妙案がありますよ」


 やはり! よ、天才ギャルキューレ!


「ヤツの徹底した仕事ぶりを見ると、審査項目も審査方法も今更変わりません――だけど採点をする人物、彼の心だけは変わる可能性があるっす」


 こ、心? つまりどうしようというわけで?


「簡単です――懐柔してしまえばいいんですよ!」


 彼女は勢いそのままに説明を続ける。


「皆さんも誰かに親切にされたら、自分もその人に対して親切にしようと思いません?」


 思う。よほどの天邪鬼でなければそうするはずだ。


「難しい言い方をすると返報性の法則。試験官である彼にだって感情があるっす。僕たちは彼に敵対するのでなく、ごりっごりに親切にすることで見返りを期待するわけですよ」


 シュベルトさんの畳みかけるような提案に、リルベットも追随する。


「人を動かすのは恐怖か利益、かのフランス皇帝もそう言っていましたね。しかし彼を脅したところで試験のプラスにならない。ならばこそ親切――利を与える策は悪くない」

「っす! これで相手の気の緩みを狙います。それは無意識に採点へと影響していく。それにもしかしたら親切にする課程で、彼の弱点や欠点が見えてくる可能性もあるっす」


 完全無欠に見えるエルターくんの弱味、それが分かれば大局が動くだろう。


「シュベちゃん。親切にするって具体的にどうするの? ただ優しくするだけ?」

「せっかくなら――接待、とかどうでしょう? 例えば学園案内という体とかで」

「編入したばかりだもんね。うん。学園を紹介しながら彼を楽しませればいいわけだ!」


 そうすれば彼の弱味を探りながら、採点自体も段々と軟化していくということである。


「もち常識的に許される範囲でやります――どうっすかねこの策は?」


 一同異存なしである。


「ただ相手が相手、ひとまず明日一杯を使って接待の内容を詰めます。僕がいない間は主に部長さんとリュネールさんでつないでください」

「あ。絶花ちゃんは明日、ゼノヴィア先輩の紹介で神器の相談に行くんだっけ?」

「す、すいません、タイミングが悪くて……」

「気に病まないでください絶花。今は自己研鑽の時期です。それに接待とやらの本番は明後日なのでしょう? その時こそがあなたの力を発揮する時です」


 ピンチの時こそチームワークを発揮する、それもまたオカ剣だ。


「よぉし! エルに学園を思いっきり楽しませてやろう!」

「「「はいっ!」」」


 ―○●○―


 翌日、私は駒王学園高等部にやってきた。

 目の前には旧校舎――オカルト研究部の部室がある建物がそびえている。


「初対面だけど……緊張しないように……おっぱいが二つに四つに……」


 意を決して旧校舎の扉をノックすると、ゆっくりと扉が開けられて――


「ごきげんよう。お待ちしていましたわ」


 大和撫子を体現したような、黒髪ポニーテールのお姉さんが現れた。

 その柔和な笑みは……笑みはって……な、なんですこの特大おっぱいは!?

 私にとって、それはもはや乳爆弾どころの騒ぎではなかった。

 例えるなら戦車! 人型の爆乳装甲戦闘車両である! やめて撃たないで!


「あ、あの……わた、私はですね……中等部二年の、宮本おっぱいでして、その……」


 目前のおっぱいに圧倒されて、練習してきた挨拶も震えて出てこない。


『――ようやくっ! オレのっ! 出番がっ! 来たようだなっ!』


 はっとして我に返る。私の輝くおっぱいから聞こえるこの声は……!


『おっぱいあるところにオレがいる!』 


 彼は谷間から勢いよく空へ飛び出すと、クルクルと回って右手にすっぽりと着地した。


「あらあら」


 ドン引きの光景だが、和美人なお姉さんはそれを楽しげに見つめている。


「うふふ。とっても元気ですわね。あなたが天聖さんなのかしら?」

『オレが……いえ、ワタシが天聖であります、はい』


 いつもとしゃべり方違うし! すさまじいおっぱいを前にぶりっ子してるよ!


「お二人ともはじめまして。私、姫島朱乃と申します。以後お見知りおきを」


 高等部の三年生、リアス先輩の眷属で女王(クイーン)であると、丁寧に自己紹介してくれる。


『絶花くん、キミも名乗りたまえ、礼儀は大事だぞ』


 シャツが破けておっぱいが丸出し、格好的に礼儀も何もあったものではないが……。


「わ、私は、宮本絶花と申しましゅ!」


 っく、くぅ……ほら、天聖が焦らせるから噛んじゃったよ! 

 ごめんなさいゼノヴィア先輩、私は直後輩にあるまじき小心不埒者です。


「ゼノヴィアちゃんからお話は聞いていますわ。さぁ、どうぞ中へ――」


 そんな私の失態にも彼女はニコニコとして、おおらかに受け入れてくれるのだった。


 二階建木造の旧校舎、階段を上がってから奥まで進む。

 すると『オカルト研究部』とプレートのかけられた扉がある。


「お、邪魔します……」


 先導する姫島先輩に招かれ、オカ研の部室へと足を踏み入れた。

 かつては教室だったのだろう空間には、中央に巨大な魔方陣、四方上下には面妖な文字がびっしりと刻まれている……まさにオカルト! 

 誰もいないのは、悪魔の地位が変わるという、昇格試験の準備期間だかららしい。


「――粗茶ですが」


 促されてソファーで待っていると、姫島先輩がお茶を入れてきてくれた。


「し、しかも天聖の分まで……! す、すいません、気を遣っていただいて……!」


 自分の不手際を恥じながら、天聖の無礼もあり、頭を精一杯に下げる。

 ……あ、そうだ、それに今日のことのお礼も言わなくては!


「こ、今回は相談に乗っていただけるということで、本当に感謝しています。今週末に冥界で昇格試験があるとは聞いてます、大事な時期に時間を割いていただき、その――」


 しかし感謝を伝えたいと必死になるほど、自分の不器用さが浮き彫りになってしまう。

 長くて文法も滅茶苦茶――でも姫島先輩は、それを最後まで真剣に聞いてくれた。


「……うふふ。部長たちが目を掛ける理由が分かりますわ」


 私の長文駄文が終わると、彼女は静かにティーカップに口をつけた。


「あなたの気持ちは十分伝わりましたわ。だからそんなに緊張なさらないで」


 彼女は私を安心させるように柔らかく微笑んだ。


「後輩の面倒を見るのも先輩の務めです。昇格試験についても全く問題ありませんわ」

「姫島先輩……」

「朱乃で構いませんわ。それとも部長は名前でよくて私はダメなのかしら?」


 ぐっと前のめりで、どこか艶っぽい口調でそんなお願いをされる。


「い、いえ! 喜んで朱乃先輩と呼ばせていただきます!」

「ええ。これからよろしくお願いしますね、絶花ちゃん」


 ちょっとエッチな雰囲気はあるけれど、とても優しそうな人で良かった。

 ゼノヴィア先輩は「朱乃副部長は時々怖いぞ」なんて言ってたが脅しだったらしい。


「――ということで、お着替えしましょうか」

「え?」

「今から絶花ちゃんの力を視ますわ。その儀式では正装であることがふさわしいのです」


 ニコニコとした表情のまま、朱乃先輩がさらりとそう言う。


「うふふ、楽しみですわね……」


 先輩は一瞬ぞっとするほど妖艶な目をして……。

 ゼノヴィア先輩の脅しは間違ってなかったのかもと、今更になって息を呑む私だった。


<続く>

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エルターの試練は続き、オカ剣は大混乱の渦に……!

一方、絶花は駒王学園の高等部に出向き、あの悪魔を尋ねる!?


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