第50話 メイドな隊長、報告を受ける4

(いや、『もし』じゃないな。相手にはあんな――とんでもない魔人が盟主としているんだから)


 杖でしかできないと考えるのは、楽観ですらなく、ただの願望。

 魔石にも、まだ秘密があると考えていいだろう。

 レオナにも、それはわからない。

 だが。


(おそらく、魔石には――)


「隊長? どうかされましたか?」

「ん? あー、なんでもない」


 レオナは頭を振って、脳裏からあの美しい魔人の顔を追い出した。


(今は、フランに任せておけばいい)


 不確実な横道に思考が逸れても、意味がない――レオナは、そう自分に言い聞かせる。


「そういうことなら、フランには好きなだけ調べてもらおう」

「そうですね。ただ、好きなだけ――は、やめておいた方が」

「あ、あー……そうだね」


 サイカと二人で、苦笑いを浮かべる。


 フランに「好きなだけ」なんて免罪符を与えたら、寝食を忘れて――どころか、寝食を自家製の怪しい薬でねじ伏せて、没頭しかねない。


てかというか、するよなー)


 彼女は、典型的な『そういうタイプ』なのだ。


「といっても、そのあたりフランの管理で頼りになるのは……今はマリアと一緒に外かー」

「タイミングが悪かったですね――とりあえず、イルミナにときどき様子を見るよう言っておきます」

「うん。おねがい」


 イルミナであれば、フランが危険な状態になったら止めてくれるだろう――怪しい屋台で、アルテアを(物理的に)止めたように。

 今は事前に止められる手段がない隊員がいない以上、申し訳ないが、イルミナを頼るしかない。


(魔石の話は、今はそんなところか。あとは、これからについて――かな)


「今回の件に関して、これ以外に調査を進めておくことはありますか?」


 同じことを考えたらしいサイカが、先に口を開く。


「んー……まあ、当面は忘れてもいいよ」

「しばらくは、何も起こらないと?」

「うん。こんな規模のことは、向こうもそう簡単にはできないよ」


 闇組織ノクティスといえど、無尽蔵に人や金が湧いてくるわけではない。

 今回と同じようなことを続けて起こすことなど、不可能だ。


(後ろに控えてるあの魔人も、もう動かないだろうし)


 あの魔人自身が自ら動くことはないというのは、ティアとも共通した結論だ。

 おそらくあの魔人は、そんなことのために存在していない。

 今日、姿を現わしたのは、本人の言葉通りゲルダペットを迎えに来ただけだと判断していい。


 魔人という存在が世界を滅ぼすラスボスなどではないことを、レオナは知っていた。


(逆に言えば、根拠地に乗り込んで倒せば終わり、とはいかないんだけど)


「それより今は、うちの中アザリア州の掃除が先だね。そのあたりは、ティア太守様の仕事だよ」


 言いながら。


(ま、実質は自分わたしなんだけどねー……あはは)


 心の中で乾いた笑いを浮かべるしかないレオナなのだが。


「内通者の洗い出しですか」

「あと、目先の利益を優先して、意図せず利用されちゃってるのとかね」


 権力を握った家臣や成功している大商人ほど「有能な自分は浅はかな庶民と視点が違う」などと妄信し、目先の利益を疑うことなく、敵に利用されてしまう。

 とくに商業ギルドの評議員などは、数年の任期の間に成果を出さないと自身の立場を強くできないので、そういう罠に意図せずハマりやすい。


 ティアのもとで見てきたレオナは、それらを匂わせる情報を、すでにいくつも目にしていた。


「それはまた……大変そうですね」

「まーね」


 大変ではあるが、放置するわけにもいかないのが、レオナの立場。


(今回だって、衛兵隊司令なんて立場の人間が協力してるのを、(結果的に)放置していたら、いきなり懐に入られちゃってたし)


「こういうことは、ドラスティック一発で劇的に解決ってわけにはいかないから。時間をかけて地道にやっていくしかないよ」

「そうですね。では、我々も?」

「うん。しばらくはこれまで通りで。今日みたいな大きな事件ことは当面ないんじゃないかな」




   ■■■




 だが。

 レオナの予想は、やがて覆されることになる。


 とはいえ、に気付けというのは、レオナに酷だろう。


 なにせの九割までが、後世の人が呆れるような理由で起こるのだ。

 そして残りの一割は、当時の人でさえ呆れるような理由で起こるのだ。


 だから度し難い。


 ――戦争というものは。

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