最近のゲームって高くない?(某リングでフィットなゲーム配信)

     <配信が始まりました>

 

「ご機嫌いかが皆々様!延暦寺 小町です!」

「どうも、朝にゲームのための諸々を買わされて財布が溶けた挙句、設置までやらされた本能寺 我炎です」


 配信の枠を開き、俺と美納葉は視聴者に向けて挨拶をする。俺の方のそれは結構雑だったりするけど、正直雑な挨拶で十分だと考えている。

 さて、今日は日曜日。日曜日といえば、普通の学生ならば友達と過ごしたり、家でのんびりしたりして各々自由な日だろう。しかし、俺に休息は存在しない。

 なぜならば、そんな休みは大抵美納葉に破壊されるためである。

 今日の場合は、視聴者に向けた挨拶で言った通り『朝にゲームを買わされた』。

 一見するとそれだけ?と思うかもしれないが、少々待ってほしい。

 ことの発端は昨日の夕方、謝罪配信・・・・もといファンアート名やファンネームを決めた配信の終盤に起因する。

 ざっと纏めると、美納葉が『明日はゲーム配信をするよ!』と突拍子もなく発言しただけだ。

 しかしこのゲーム、自身の持っているもので揃えば良かったのだが、美納葉が要望するゲームは専用のコントローラーが必要らしく、どうにもそう簡単にはいかないらしい。

 そしてそのゲーム機本体が去年に発売されたばかりの機体なだけあって、なかなか手に入らないそうなのだ。

 この『なかなか手に入らない』がさっきの『休息は存在しない』につながるわけである。

 おかげで酷い目にあった。なんで休みに家電量販店を梯子する羽目になるんだ。・・・・まぁ、デビューしたばかりだしなるべく配信スパンを早くしたい気持ちは分かるのだが、なぜ無駄にハードルの高いゲームをしようとするのだ。

 

「はい、てことでね、今回は『輪っか体力冒険』をしようと思います!」

「何故に和訳?」

「著作権的に」

「メタいなぁ・・・・あ、ちゃんと許可は取ってます。安心安全です。合法です」

輪っか体力冒険リン○フィットアドベンチャー』・・・・これは最近、Vtuber界隈で軽く話題の運動系ゲームだとか。太ももに巻くバンド型のコントローラーとリング型のコントローラーを持って運動をすることで冒険をしていく、実にタイトル通りのゲームである。

 それから少しゲーム機の映像を配信画面に投影したり、自身の立ち絵を移動したりしたのちに、俺たちはゲームの初期設定を始めた。・・・・因みに余談だが、この設定で多くの人が体重バレで散っていったとかいなかったとか。


『このゲーム機の本体、買うの結構大変なのによく手に入ったな』

『↑発売から一年経ってもまだ手に入らないとこもあるらしいね』

『このゲームってことはセンシティブか?』

『↑いやいや体重バレこそ花形でしょ』

『果たして男の体重バレに需要はあるのか否か』

『↑延暦寺ちゃんのに決まってるだろうが!』

『体重バレ待ってます』


 やはりコメント欄にもちらほらと体重バレに言及する人がいる。

 そしてセンシティブを求める視聴者、お前らには一体何が見えているんだ。・・・・一応釘は刺しておこう。

「センシティブにはならんと思うぞ・・・・」

 そう俺が視聴者に向けて言うと、何故か美納葉が反応を見せた。

「何言ってんだ!私は常にセンシティブよ!見よこのダイナマイトボディ!」

 アルマジロのように背を曲げて、胸を強調するセリフを放つという美納葉のアンバランスな行動に俺は軽く困惑する。

「本来そこは胸を張る部分じゃない?絵面がほぼ横に倒したU字溝よ?」

「胸が凹んでるって言いたいのか!?Cはあるわ!」

 美納葉が逆上して突っ込んでくる。逆上の仕方がおかしい。

 俺は咄嗟にそれをリングで受け止めた。

 ぎぎぎ、と受け止める腕の骨とコントローラーが軋む音がする。

「ちょっ!おまっ力を抜け!?リングが折れる!?」

「・・・・それ、リングで受け止めなければ良かったんじゃ?」

「鯖折りになれと?」


『うるせぇ!センシティブにするんだよ(錯乱)!』

『速報 延暦寺はC』

『セクハラ野郎氏ね』

『↑まだアンチ君いたんだ・・・・』

『リ ン グ が 折 れ る』

『俺らには立ち絵しか見えてないからわかんねぇけどよ、あのリングそう簡単に折れる強度してたっけ?』

『↑つまり延暦寺は怪力』


        ◆◇◆◇◆


 ややあって、なんとか美納葉をひっぺがす事に成功した俺は、初期設定を再開した。

 次は体重の設定だ。他のVtuberさんが体重を隠すことに苦心したり、失敗して全世界に公開したりなどしている例のやつである。

 因みに俺達は記入欄は隠していない。どちらも体重如きでどーのこーの言う性格をしていないからな。むしろそれをネタにした方が、という魂胆だ。

 

「体重は・・・・49///・・・・グラム」

 美納葉がそううふざけながら記入欄に49の数字を打ち込んだ。

「グラムて。軽すぎるにも程があるだろ。そして何故照れている」

「おめでとうございます!元気な女の子ですよ!」

「49グラムで元気な赤ちゃんは無理があり過ぎるでしょ」

 因みに、生まれたばかりの赤ちゃんの体重は平均3キログラムだ。49グラムの赤ちゃんには死の運命しかないのである。

「キロ」

「キロくるの遅くない・・・・?」

「倒置法だよとーちほー・・・・ほら次本能寺の番だよ!」

「んな倒置法があるか・・・・えーと、確か51キロだっけ?」

 ツッコミを入れつつ、俺も体重を入力する。学校の身体測定以外で体重計に乗ることがないから忘れがちなんだよなぁ、体重。


『体重バレを全く気にしてないぞこいつら』

『強い』

『グラムとか』

『キロって倒置できたんだ・・・・』

『キロは遅れてやってくる』

『↑ヒーローかな?』


「ヒーローねぇ・・・・こいつはどっちかというと悪役ヒールだよね」

「私、じゃないもん」

「"まと"と書いて"てき"と読むな」

「何故分かったし」

「なんとなく」

「以心伝心・・・・やはり未来の旦那様・・・・!」

「・・・・今から日本の結婚式場全部爆破してくるわ」

「全力拒否じゃん」


『的草』

神凪 ハマ『敵が可哀想w』

『↑ハマちゃん口角上がってますよ』

『延暦寺、振られる』

『↑まぁ前の配信見る限り、延暦寺がやばい奴なのは分かってたし。振るのは残当』

『信長に嫌われた延暦寺と似たものを感じる』

『↑本能寺は信長の最期の場所だし本能寺は信長だった・・・・?』


        ◆◇◆◇◆


 そうこうしている内に初期設定も終わり、ゲームが始まった。

 ゲームの設定は『世界を滅ぼそうとする魔物を倒す』というストーリーの元で体を動かすという一番スタンダードなモードを選択した。

 そして今、美納葉はイキイキとした様子でリング型コントローラーを曲げたり振り回したり、足をバタバタと動かしたりしている。因みにこの時、美納葉の動きのせいで家が震度5ぐらい揺れている。ウチを壊す気か。

 画面の中では美納葉の操作するキャラクターが、エネミーモンスターをメチャクチャな速度でぶん殴っている。

 

「俺の!拳はっ!敵を!穿つッ!」

「誰だ延暦寺にリング与えたの?」


『本能寺なんだよなぁ』

『つ鏡』

『全然センシティブじゃない』

『↑こいつらに何を求めてるんだお前は』

『延暦寺の台詞回しが少年マンガな件』

『本能寺さんや、ツッコミで動きがとまってますよ』


 コメント欄の言葉にはっとさせられ、俺もゲームを再びスタートさせる。

 俺もプレイしてみると、案外きつい。運動は比較的する方だと自負しているが、なんというか、あんまり使ってない筋肉を動かしてる感じがする。

 

「はぁ・・・・はぁ・・・・くぅ・・・・思ったよりしんどいなこのゲーム・・・・」

 息切れしながら俺がそう言う横で、美納葉は残像を起こしながらリングを振り回す。

「まだだッ!俺はまだ!負けないッッ!!!」

 ・・・・謎テンションが怖い。


『なんだこいつら』

『何処のジャ○プ?』

『むしろ本能寺の方がセンシティブ』

『ただの息切れなんだよなぁ』

『相対的に本能寺の方がセンシティブなの何かのバグだろ』

神凪ハマ『健全!・・・・それ以前に延暦寺どんな挙動してるの?』

『延暦寺ってもしかしてだけど身体能力化け物?』


 美納葉は身体能力ゴリラ以上だぞ。異世界転生してもスキルなしでチートし始めるレベルにはフィジカルギフテッドだ。


「え?センシティブの方がよかった?・・・・あはーんうふーん」

「ぜー・・・・はー・・・・おい延暦寺。気持ち悪いからやめろ」

「『はぁはぁ』って興奮してる癖に?」

「息切れだよ!?というか貴様の声の何処がセンシティブだ!ライオンの威嚇の方がまだセンシティブだわ!」

「何故だ!完全にセンシティブだろ!」

「センシティブに謝れ」

「ごめんなさい」

「よろしい」


『草』

『これはセンシティブ(?)ですよ!?』

『うーんこの』

『息切れしつつもツッコミを忘れない配信者の鏡』

『素直でよろしい』


 ところで、何でスポーツ系のゲーム配信で『センシティブ』なんで用語が登場するのだろうと思い、休憩がてら一旦ゲームを終えて検索を入れてみた。どうにもスポーツ系配信では酸素不足で喘ぐ配信者を『センシティブ』とネタにするらしい。・・・・実際そういう目で見る人も一定数いるにはいるらしいが。


        ◆◇◆◇◆


 その後、一時間程プレイを続けているとボスキャラが現れた。

 見た目は黒色で牛のような角が二本生えている。

 例えるならゴリマッチョになった黒いデビル○ンだろう。

 

「出たなボスキャラ!私の拳はパンチ力でぶっ飛ばしてやる!」

「拳はパンチ力とかいうアホな単語よ」

「デビルチョッ○の方が良かった?」

「おいやめろ著作権的に危ない」

「わかるマーン」

「その一部の動画サイトでしか分からないネタやめなって!?」

「・・・・あっボス倒した」

「盛り上がり所がぁ〜」


 アホみたいな会話をしているうちに秒殺されるボスキャラ。

 すぐにエピローグに移って、なんか『こんなすがすがしい気分は久々だ』『ありがとう』云々カンヌン言っている。どうしよう、バトルシーン何もみてなかったなんて言えない。ここがゲームじゃなくて心底良かった。

 闇のオーラとかに囚われているとか、実は主人公の相棒の親友だったとか、そんな設定があるらしいけど、あまりにも秒殺すぎて思い入れのかけらもない。

 登場する敵やらギミックやらも美納葉が一瞬で終わらせるせいでストーリーも爆速で進むし、特に何も覚えてない。

 なんというか、『総評:不憫』という感じである。


『ラスボス「えっ、ちょ」』

『ラスボスの気配が空気な件』

『あいつ本来もっと苦戦して倒すラスボスのような・・・・』

『第二形態の登場時間数十秒しかないんですがそれは?』

『RTA走者かな?』

『↑RTA走者でもこんな早くねぇよ』

『つまり、サラマンダーよりずっと早いってこと?』

『↑どっちかというと「多分これが一番早いと思います」』

『↑本当に一番早いことあるか!?』


 ツッコミの雨霰がコメント欄で起こっている。美納葉のクリア速度はやはりおかしいらしい。

 けれどそれと俺とは特に関係はないし、取り敢えず配信を締めよう。そう思って俺は視聴者に向けて声を上げた。


「はい、ボスを倒したところで今日はこれでおしまいということで、次回の配信は来週を予定しt「二日後にASMR配信をするよ!」

 また美納葉に台詞を遮られた。

 いやまて、そんなことより美納葉こいつ今なんて言った?

「待てお前マイクとかの機材は!?台本は!?」

「君が準備するんだよ。私はやりたいことをひたすらに突き進むだけさ」

 その言葉を聞き、血の気がさっと抜けていく。

「嫌ァァァァァァァ!?!?」

 

    <配信は終了しました>


        ◆◇◆◇◆


 配信が終わり、俺と美納葉は機材の片付けを始めた。Vtuberになってから知ったのだが、配信にはかなりの量の道具が必要だ。自分はPCとカメラぐらいしか知らなかったが、どうやらASMRならバイノーラルマイクなど、配信に合わせて道具を変えるようだ。そして、配信の内容をさらに良くしようとするならば、機材のレベルがモロに重要になってくる。勿論、そのレベルが上がるごとに道具の値段は青天井になっていく。


「お前ふざけんな!?マイク何万円すると思ってんだ!?」

「ざっと五十万?」

 そう言った美納葉が自身のスマートフォンをずいと押し付け、マイクの購入サイトを見せてくる。

「そんな高い奴買おうとするな!」

 マイクの値段に慄き、目をひん剥いた俺は、そっとスマホを押し返した。

 ざっと見ただけだったが、どれもウン十万を軽く行くものばかりだった。学生に手が出せるわけがない。

 こんなもの、つい今朝に財布を溶かした俺に到底出せる訳がない。残金も残りの自身のバイト代とお年玉の貯金を切り崩せば、何とか安いもの一つ買えるといったレベルだ。

 そんなので美納葉がイメージするASMR配信なぞ、到底出来る自信がない。

 

 ・・・・それにASMR配信をするにはまた別に問題がある。

 俺は美納葉に問い掛けた。

 

「それと、台本はどうするんだよ?」

「うーむ・・・・」

 

 そう、台本である。

 俺が『台本』と言った時の反応からして、恐らく美納葉がしたいASMR配信は物語形式で進行していくものだろう。

 そうなってくると、台本というものが必要不可欠になる。・・・・『不可欠』は言い過ぎたかもしれない。慣れた人なら台本なんてなくても大丈夫だとは思う。けれど、少なくとも初心者がノープランで「ASMR配信したい!」「はいそうですか」で出来る代物ではないことは確かだ。

 そしてもし台本を作るとなると文才がいる。つまり自分達のキャラを損なわずにリスナーを楽しませられる文を作る才能だ。

 これがただひたすら『紙をくしゃくしゃ』したり『スライムをこねこね』したりするものなら楽でいいのだが。


 まぁ、兎に角である。

 俺達がASMRをするには『機材』と『台本』二つの壁がいる訳だ。

 そんでどちらも難易度が激高と。

 

 ややあって、美納葉が叫ぶ。

 

「私が書く!!!!!」

「・・・・因みに内容は?」

 軽く、いやかなり嫌な予感はしているが頷いた。

○○○○○○○○○○○とってもセンシティブななにか!」

「却下。アカウントを殺す気か」

「でもさぁ〜?ASMRといえばセンシティブじゃん?」

「いや駄目だろ。ネタに走るにしても悪趣味が過ぎる」

 アホなのかコイツは、と白い視線を美納葉へ向ける。今日の配信でセンシティブネタを擦りたくなったのか?

 視線の先の美納葉は腕を組み、うんうんと唸っていた。

「健全・・・・かぁ・・・・」

「そんな悩む要素ある?」

 

 そんな時だった。スマートフォンの端末から『ピコン』と通知の音が鳴り響く。

 

「なんだ?DM?」

 通知をみるとSNSアプリからだ。アプリを開くとDMの通知。

 そしてDMの欄を見るとそこには『神凪 ハマ』の四文字。


 そう。『神凪 ハマ』の四文字、である。

 

「・・・・・・・・はぁ!?」

 

 何故超大手の企業勢、そこに所属するライバーが自分達に?

 怪しさ、驚き、そんなもの一旦通り越して恐怖すら感じた。

 

 恐る恐るであったが、俺は文を読み始める。

—————————————————————

 神凪 ハマ

 ASMR配信をするというのなら、台本がご入り用かと思います。

 微力ではありますが、配信に協力させていただけませんか?

 お返事待っています。

—————————————————————


 つまり・・・・どういうことだ?

 ASMR配信に協力する?いやなんで?本来眼中にないはずの個人勢だぞ?

 新人Vtuberが好きという噂は聞くが、流石にここまではないだろう。

 俺の頭の中が『混乱』の二文字で占有された。

 けれど美納葉は冷静だった。

 

「わぁ驚天動地」

「み、美納葉?お前なんでそんな冷静なの?」

 俺の脳が状況を理解できず、黒雲を吐く。

 そうしてる間に、美納葉は途轍とてつもない速度で返信を打つ。

「『ありがとうございます!どうせならオフコラボでASMR配信、一緒にしましょう!』・・・・送信!」

 

「何やってんだお前ェェェェッッ?!!!」

 

 こうして、波乱のオフコラボが決定したのである。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

補足。


リングフィットア○ベンチャーは2019年発売ですが、この世界では2018年に発売されていることにしています。

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