学院と新たなる扉。

「俺のターン! 俺は人物カード、清楚JDに、性癖カード、Fカップ巨乳と白い色ニットを装備! さらにシチュエーションカード、二人きりの飲み会。を発動!」


 公園のベンチ。木でできた粗末なベンチに座りながら、聖兎は友人の佐藤とハビットをしている。


「な、お前、そのカードは!」


 聖兎は高らかに笑い、盤面を指差す。


「どうだ! 初めてできた彼女、しかもFカップの清楚な大学生が、自分の為に白色のニットを着てきてくれた」


 聖兎の言葉に、友人は続ける。


「しかも場所はバー。二人きりというからには他の人はいない。つまり、帰る時間も二人が」


「そうだ。この後どうなるかは、分かるよな」


「あ、ああ!」


 友人のシールドが砕け散る。


「そうさ。ぎこちない、姫初め。ピンク色に染めて」


 佐藤は「負けた!」と悔しそうに手札を投げ、トイレに向かう。


「早く戻ってこいよ!」


「うるさい!」


(はぁーこれで十三連勝。明日の予行練習としては十分か)


 聖兎はすでに天頂学院への入学が決まり、手続きなども全て終え、あとは明日の入学式を待つばかり、天頂学院は全寮制のため、佐藤と学生の内に会えるのはこれが最後になるかもしれない。


(佐藤は地元の学校だから、会えるのは最短で夏休み。成績によっては、卒業まで会えない可能性もあるのか。寂しいが、俺は絶対に絶天頂になって、あの人に会わなければいけない)


 聖兎の憧れの人。数年前、史上最年少で絶天頂の座につき、現在も絶天頂の座を守り抜いている人物。おねショタデッキの使い手にして、二つ名、誘惑児ポ女。Hカップ、南野静香。


(絶対に、あの人と肩を並べて見せる)


「ん? メール?」


 佐藤「流せるティッシュ持ってる?」


(………………)


 聖兎「帰る。また会おう」


 次の日。

 聖兎は天頂学院の前に立つ。


「これが天頂学院」


(入学試験はリモートだったから、初めてきた。周りにいる奴ら、どっかの大会で見たやつばっかり)


 聖兎が周りを見渡すと、男女それぞれどこかの大会の入賞記録者や、学園で一番と噂の人物。はたまた、カードより自分の体を使って誘惑するインフルエンサーなど、様々な人物が聖兎と同じように周りを見ている。


(まあいい。誰だろうと、俺は絶対に絶天頂になる)


 聖兎は大きく一歩を踏み出したが、その一歩が大きすぎた。


「にゃ!」


「おわ!」


 聖兎は猫を踏みそうになり体をくねらせ回避するが、バランスを崩して倒れてしまう。


「つ、つ……」


 人間とは、転びそうになるとなんでもいいから掴んで転倒を回避しようとする。聖兎も例に漏れず、掴んでしまった。目の前にいた女子生徒のスカートを。


「あんた、何するのよ!」


 女子生徒のピンク色のパンツと、向かってくる靴の裏側を見ながら、聖兎の意識はそこで途切れた。


「知らない天井だ」


 聖兎は学院の医務室で目を覚ます。


「大丈夫? 気分はどう?」


 聖兎の視線の横から、紫色のロングヘアに、豊満な胸。その胸を支える紫のランジュリーが妖艶な色を出している、白衣を着た美女が姿を現す。


「うわ! え、あ、なんでそんな格好?」


「これ? 人気が高いのよ。でも、変な期待はしちゃダメよ。入学案内にも書いてあったと思うけど、性行為の一切は禁止」


 ハビット育成学校のほとんどは、その想像力向上のため、一切の性行為を禁じている学園が多い。だが、年頃の年齢の男女が同じ学園。密かに行われている場合もあるが、見つかり次第、良くてクラスダウン、悪い場合は退学もありえる。


「あ、はい。って、そうじゃなくて、俺は、なんで、あれ?」


「あなたは女子生徒のスカートを掴んで転んで、その生徒に頭を蹴られて気絶。運ばれて、で、いまここ。分かってると思うけど、校内で一切の犯罪は禁止。特に他人に危害を加える行為は、即通報になる。分かってるわよね」


「分かってますよ。今回はたまたまです」


 性癖とは、誰にも迷惑をかけず、己一人で楽しむもの。この学園の基本理念にして、ハビットをやる者なら誰もが知っていること。聖兎は、誰よりもこの理念を信仰しているつもりだ。


「ならもういい。カメラを確認したけど、明らかに故意じゃなかったからね。寮に行きなさい」


(ああ、そうだった。って、クラス分け試験!)


 天頂学院は四つのクラスに分けられている。

 曲者が多いが実力者揃いのイースト。

 秀才が集まるノース。

 学院内でも特殊な存在のサウス。

 クラス分け試験で各ブロック最下位が集まるウエスト。


 クラス分け試験はその後の学院生活を左右する一大イベント、参加しないのはバカと言われるほどだ。


「あの、俺行かないと」


「クラス分け試験なら終わっちゃったわよ。君は不参加でウエスト」


「え! なんで!」


「期末の試験をクリアすれば上のクラスに上がれるから、それまで頑張りなさい」


(はぁー仕方ない。一番下といえ、最大の学院なわけだし、それなりの設備が整ってるはず。期末くらいなら我慢するか)


「じゃあ寮に行きます。早く荷物とか開けたいし、寮長試験もあるし」


「寮長試験って、一応一年生も対象だけど、三年生とも戦うのよ。大丈夫?」


 寮長試験とは、文字通り寮長を決める試験。寮長になると、クラス対抗戦やその寮の方針を決められ、特別報酬がもらえるメリットに、良室がもらえる。


 良室は、良質な寮。寮長、副寮長、その他役員のための部屋のことで、他の部屋より大きく、特別なアダルトグッズやティッシュ多めに配備される。


「問題ないです。俺、強いんで」


 聖兎は意気揚々と寮に向かったが、聖兎の設備に対する希望は打ち砕かれ、ドアを開けた途端、屈辱の思いをする羽目なった。


「申し訳ございません」


 鮮やかで美しい金髪のツインテールに、医務室の先生には及ばないが、大きな胸を持ち、ツンとした表情が生意気さを掻き立てる、古典的なツンデレ美少女に聖兎は土下座する。


「もう一回」


「先ほどは大変申し訳ありませんでした。わたくし、壁野聖兎は大変反省しております。どうかあなた様の寛大な心でお許しくだいさい」


(くそ! なんで俺がこんな)


 聖兎が寮についた時、寮のあまりの古さに絶句し、苛立ちとぶつけるように少し強めにドア開くと、ドアが外れてドアの向こうにいた金髪のツインテールの頭がドアを貫通させた。


「あんた、さっきはよくもスカート奪ってくれたわね。死ぬ、死のっか」


「死にたくないです。すみませんツンデレさん」


「誰がツンデレよ! 古川セリアよ!」


「百均……」


 聖兎がくすくすと笑うと、セリアは聖兎の腰に下がったデッキを踏みつける。


「あ、っちょ! おい!」


「何よ! 大体、あんた誰よ!」


「だから、壁」


「そうじゃなくて、入学式にも出てなかったし、クラス分けにも出てなかった。しかも入学前の情報も全くなかったし、入試の時もいなかった。コネかなんか?」


「よく覚えてるな」


「記憶力には自信があんの。それで、どうやって入ったの?」


「別に、関係ないだろ」


「ふ〜ん。秘密ってこと。じゃあ、勝負しましょう」


 この正解で勝負と言ったら、ハビット以外にはありえない。


「なにで、なんて聞かねえけど、どうやって?」


「寮長試験。どっちが寮長になれるかで決める。勝った方は相手の奴隷。まあ、現実的にはお手伝い……言っておくけど、部屋の掃除とかで、エッチなことは禁止だからね!」


 セリアは顔を赤らめて言うと、聖兎は冷静に。


「分かってるよ。金髪なのに頭ピンクか」


セイリは聖兎のデッキをさらに強く踏む。


「おい! 俺のオールジャンルデッキが!」


「オールジャンル? あんたそんなデッキ使ってるの? デッキは一個のテーマ沿って作るのが基本よ。私は……手のうちは明かさない」


「別に聞いてな」


 聖兎が言いかけると、茶髪にピアス、着崩した制服と、チャラい感じの見た目の通りのチャラいトーンで話しかけてくる一人の男。


「おいおい、一年が調子にのんな、試験は全員参加でも、レクリエーションを兼ねた全員参加であって、実質的な寮長試験は二年と三年で決めんだよ」


「はぁ、誰が決めたんですか。この学園は実力主義です」


「うっせえな。その実力主義でこうなってんだよ。一年が三年位勝つ? あり得ないだろ。分かったら辞退しろ。上級生だけでやる」


 聖兎はイラついたセリアを制止して質問をする。


「あの、一年は参加してはいけないわけではないですよね」


「ああ、別に参加するのはいい。だが、もし精神がおかしくなっても文句は言うなよ。知ってんだろう。テクノオーバーブレイク」


(テクノオーバーブレイク。相手の性癖に耐えられず、精神が崩壊を起こす現象か。危険性癖が規制されている今起きるのは稀だが、この学院では年に数人が病院に送られるらしい)


「まあ、俺のせいにはするなってことだ。じゃあなぁ!」


 チャラ上級生がどこかに行くと、今度は髪がボサボサで長く、背の低い陰気な雰囲気の女の子が近づいてくる。


「あ、あの。新入生の方ですよね。私は白川いいます。暗いけど白です。あ、あ、すみません。おもしろくなですね。あ、あ一応、仮ですけど、一年で書記だった、です。あの、すみません。あの、参加しますよね。寮長試験」


「当然!」


「俺も参加します」


「ですよね。じゃあもう始めるので、外にいきましゅ。あ、しょう」


 白川の先導で外に出る。


 ウエストクラスは全部で七人。女子が四人、男子が三人。一年は聖兎とセリアの他に一人いる。


 白川が台の上に立ち、マイクを持って口を開く。


「あの、始めます。あ、寮長試験を始めます。ルールの、あ、ハビット公式大会と同じルールでやります。これです」


 白川は胸ポケットからハビット公式ルールブックを取り出す。


「シールド三枚で、禁止カードは当然禁止です。あ、あと、これは外部に発表されていないんですけど、今度ス〇トロが禁止になるので、学院では先に禁止になってます」


一人の生徒が理由を聞く。


「あ、えっと、なんでも、食べて菌か何かに感染してしまい、死んでしまった事件が原因だと言われてます、あ、でも、噂なので、すみません」


 禁止性癖。危険思想や危険行為につながる性癖を禁止にする法律。禁止された性癖はこの世の全てから抹消される。現在はビンタなどの軽度なものを除いた暴力。リョナなどの行為。相手の同意を得ない、過度に脅すなどしての性行為。死体など菌による感染の可能性がある行為。国の反逆を煽る行為、国旗オナニーなど。肉体精神に大きな影響を与えるもの、犯罪を助長するものは順次禁止になっていく。


「あ、それで、禁止になります。じゃあ、まずは第一試合をします。くじ引きをお願いします。今年は一人余るので、シードが入ってます」


 全員がくじを引き終わった。


「あ、私がシードです。すみません。じゃ、じゃあ、第一試合。一年の聖兎さん。一年なので二つはありません。それと二年の中江さん。二つ名は快楽の変換。では、お二人ともフィールドに」


(中江? 誰だ?)


 聖兎がフィールドに上がると、茶髪のチャラ男がフィールドに上がる。


「まさか一回戦で戦うなんてな。文句は言うなよ」


(この人、どんなデッキを使うんだ?)


「よろしくお願いします」


「では、バトルを始めます。ハビット!」


 聖兎の学院初バトルが、今始まる。

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