決着
バキ、バキバキ、
先ほどの衝撃で折れた
あまりの痛みを殺意で上書きしながら顔を上げると、そこには様子を見るように立っている怪物が居た。
ナメ腐りやがって……
「……来い、シャル」
歯を食いしばりながらそう呟くと、シャルはいつもの様に右腕へと戻ってきた。
ただ今回違うのは、その周りの肉と共に。
そう、今回の作戦と言うのがこれだった。
質量には質量で。
周囲の肉、すべてを右腕とし、奴の骨ごとすりつぶす。
それもただ質量頼りという訳でもない。
臨死魔術を用いた全力の死肉操作で動かす右腕だ。
これで……
「これでぶっ潰すッ……」
そう唸りながら、シャルに念じ、その体を右腕の肉塊に攪拌させた。
あいにくと式を仕込んでない外付けの肉だと筋肉への変換も出来ないので、シャルをその繋ぎにしようという意図だ。
その意図を汲み、シャルは肉と肉を繋ぎ、かろうじて動ける程度にしてくれた。
後は……魔術で無理やりっ……
「……」
そうして持ち上がった腕はそれだけでおよそ2m。
サイズとしては、奴の腕より大きい。
その持ち上がった腕に、奴は初めて警戒の色を見せた。
それ故か、奴が始めたのは突進ではなく、軽いダッシュ。
引き絞るように引かれた右腕を掲げ、その大きな体を揺らしながらこちらへ近づいてきてきたのだ。
今まで通りなら恐ろしい以外の何も浮かばなかっただろうが、
……狙い通りだ。
殺意が上回る今の僕にとってはカモでしかない。
そう内心ほくそ笑みながら
迎撃
どむっ
そんな音と共に、僕の右腕と奴の右腕がぶつかり合った。
瞬間、感じるすさまじい衝撃。
変換できる分は全て筋肉へ変えたというのにこれだ。
やはりコイツは怪物なのだろう。まっとうな人間の手に負える存在では無いのだろう。
だが、
どろり
奴とぶつかっていた僕の腕の先が溶ける。
人間はいつだって知恵を頼りに歩いてきた。
もうお前を馬鹿とは言わないが、
「頭の使い方で、人間に勝てるわけないだろ」
そう呟くと共に、どろりととけた腕は奴の腕を覆っていった。
流石に予想だにしていなかったのか、慌てた様子で腕を引き抜こうとするがもう遅い。
「つかまえた」
すさまじい角度で上がる口角を自覚しながらそう呟くと共に、僕は奴を持ち上げ、反対側に叩きつけた。
「――――!!」
それに悲鳴を上げる奴だったが、無論これでは終わらない。
そこから僕は奴を持って回り始めた。
最初は体を引き摺りながら。直に全身が宙に浮いて尚速度を上げるそれは直に最高速度へと至る。
そうして数周。
自分の中でタイミングを掴むために回った後、
「ぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!!」
僕は叫びながら奴を頭上へとぶん投げた。
もちろん頭上にも例の結界はあるが、天井は存外に高い。
これなら、やれる筈だ。
「シャーーーール!!!!」
そう殺意と共に、とびきりのイメージを伝えると、右腕はすさまじい速度でその形を変えていった。そうして出来たのは、表面が黒く尖った長い槍。
その中身はほとんどただの肉でしかない張りぼてではあるが、その中身の有る無しは耐久性上ないよりはましだろう。
僕はそんな槍を構え、精いっぱい引き絞った。
その矛先は、加速して落ちて来る怪物の心臓。
「……チェックメイト」
いよいよ届きそうな距離まで落ちてきた時。
そう呟くと同時にふとあることに思い至った。
きっと奴は心臓を貫こうが、それでもなおこちらに牙を剥くだろう。
だから、と。シャルにイメージを伝えると、シャルからは肯定的な思考が帰ってきた。
どうやら賛同してくれたらしい。
だったら……やるぞ。
内心そう呟きつつ、僕は槍を突き出した。
ブチ、ブチブチ
さしもの奴の硬い身体でさえ、重力と、シャルの硬さには勝てなかったらしく、切っ先は実にあっさりと奴の肉に食い込んでいく。
「――――!!!!!!」
瞬間、辺りにとんでもない絶叫が響き渡った。
その絶叫に、思わず怯みそうになるが、耳に遣りそうになった左手を素早く右腕に添えなおす。
というのも、目に入ったのだ。
こちらに手を振り下ろそうとする奴の姿が。
最後まで命を奪おうとする心意気は立派な物だとは思うが、
もうこれ以上は……なにもさせねぇよ!死にぞこない!
「やれ!」
そう叫ぶと同時に、かろうじて動いていた奴の動きが止まった。
まるで、背骨に、腕に。針金でも通ったかのように。
そう、これがシャルと打ち合わせた内容だった。
奴がまだ動くようなら、体内からシャルが入り込み、その骨に沿って、硬質化したシャルがその代わりを果たす。
もちろん、1mたりとも動きはしないが。
そしてそれだけではない。
「――、――――――――――――!!!!」
わずかに動く体を必死に震わせながらより酷い苦悶の声を上げる怪物。
その額には脂汗がにじみ、目からは涙があふれる。
そんな光景は直に、穴という穴から赤い棘が生えて来るという地獄絵図へと変わった。
指先から、耳から、口から。
骨を覆ったシャルが内側から奴の肉を食い破った結果だった。
そうして生えていく棘は、直にその目玉をも串刺しに持ち上げる。
「…………はぁ」
そこまで見た所で、僕はようやくその死体を地に落とした。
既に奴の命は燃え尽きていたのだ。
こんな必死に、泥臭く戦って……正直、満足いくような結果では無かったが、一つだけ。
確かに言えることがある。
僕は、この怪物に勝ったのだ。
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