第30話『異世界のラブロマンス』

 そうして、ネムの興味に任せて進んでいくと、小説コーナーにたどり着いた。


「やっぱ小説か」

「図鑑とか読むのも好きよ。自分の知らない世界を知るのは楽しいわ」

「へえ。勉強熱心だな」

「おにーさまは? やっぱり女体図鑑かしら」

「お前、俺にスケベな濡れ衣を着せたがるね」

「あら、おにーさまは濡れ透けが好み?」

「お前にかかったら全部エロになるな……そんな話はしてねえ」


 てか、女体図鑑ってなに?

 それはいろんな女性が載ってるエロ本じゃない?


 ネムは俺の頭上でキョロキョロして、本棚を見つめている。


「うーん、何を買おうかしら……」

「どういうのが好きなんだ? オススメ、調べてやるよ」


 迷っているネムに助け舟を出すべく、スマホをポケットから取り出し、調べる構えを取る。

 ネムの言うジャンルを検索かけりゃ見つかるだろう。


「そうね。恋愛モノがいいわ。身分違いで、困難な愛に燃えるやつ」

「へえ。正直「誰がスケベな話をしろって言ったよ」って言うつもりで、弾込めてたんだけど」

「あのね、おにーさま。えっちなことは、たまに言うからいいのよ」

「その主義主張を掲げるやつの頻度だったか……?」


 俺今日、わりかしネムと下の話しかしてない気がするが……。


「やっぱ魔王様ともなると、許嫁がいて、そいつとの結婚をしたくなくて、横から出てきたやつに掻っ攫われるみたいなのが好きなんか」

「おにーさまが王族にどういう偏見を持ってるかがよくわかったわ。でも残念ながら、そういう理由じゃないの。人生で最初に読んた本が、そういうジャンルだったからよ」

「人生で初めて、って。それ、子供の頃だろ。早熟だなあ」

「向こうの世界じゃベストセラーなのよ? しかもノンフィクション」

「俺からすれば、そっちの話は十分フィクションだけど。どんな話なんだ?」

「そうね……何百年も昔の話なんだけど、魔物と人間の戦争中。人間の王子様と、私のご先祖様――当時の魔王候補が恋に落ちたそうなの」

「へぇ。俺ら以外にもそんなんあったんだ」


 なんとなく、魔物と人間は相容れないものだと思っていたが。


「でも、世間の風当たりは厳しくて。魔物からも人間からも、二人は認められなかった。それでも二人は、魔物と人間の共存を目指して、世界を旅して訴え続けるのよ」

「ほぉ。それはなんとも、とてつもなく困難な道だな……」


 現実に当てはめて考えるなら、戦争を止めるために戦地て訴え続けるようなものか。

 偉い人達がそんなことするのは、覚悟というか、愛が必要だったろう。


「で、どうなるんだ」

「それで終わりよ」

「えっ、終わり?」

「そう。それで、魔物と人間の共存を目指して、みんなで頑張ろうって話だもの。まあ、それでもおにーさまのおとーさまが現れるまで、続いてたけどね、戦争」


 自嘲気味に笑うネムの声に、俺は「そうかぁ……」としか言えなかった。

 偉い人には響かなかったのかな、その話。

 いや、どちらにしても、なんの準備もなく戦争をやめましょうなんて難しいだろう。

 喧嘩してた相手に「俺は殴らないから、あなたも殴るのをやめましょう」と言っても、簡単に喧嘩が終わらないようなものか。

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