第25話『転校生は自称許嫁(二回目)』
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結局その日、俺とレンが街で暴走したことや、タンクローリーが一人でに走り出し、廃車置場に突っ込んだことなどがニュースになってしまった。
しかし、俺達をスマホで撮ったであろう写真は、まるでモザイクがかかっているかのようになっていて、ギリギリ、バイクに乗っているのがわかるか? くらいになっていた。
そら、あんだけ大暴れしてニュースにならないほうがどうかしているだろう。
だからこそ、身元が判別できそうなものにはレンの魔法をかけて隠してもらったわけで。
あんな暴走したのがバレたら、退学どころか一発で前科つくもんな。
一体、何回信号を無視したんだ……。
魔法が使える人が身近にいて、よかったぜ。
まあ、あんなことは二度とごめんなわけだが。
「って言っても、花ちゃんはどっかしらでまた、ああいうことに首を突っ込むんだろうなあ」
「不吉なことを言うなよ」
そんなわけで、翌日の学校である。
俺とメノウとレンは、三人で昨日は大変だったねという話しをしていたのだが。
メノウの身も蓋もない言葉に、ちょっと萎えてしまった。
「花ちゃんが考えなしに首突っ込むのがよくないんじゃん」
「いやいや、俺なりに考えてはいたのよ?」
「そうでしょうか。いろいろ行き当たりばったりだったような気もしますが」
苦難を共に乗り越えたことが影響しているのか、レンもだいぶ気安い感じで呆れを隠さなくなっていた。
というか、俺が無限魔力をネムに渡したのを、まだ怒っているっぽい。
「なあレン、まだ俺がネムに魔力渡したの怒ってるのか?」
「怒ってはいません。ただ、飲み込むのに、時間がかかっているだけです」
「ネムなら大丈夫だって。あいつは悪いやつじゃないし」
「どうしてそこまで、ネムノキさんを信用できるのか、私にはわかりません」
ムッスリとしたその態度は、しばらく直りそうもない。
まあ、こればっかりは仕方のないことだ。
ほとぼりが冷めるまで、触れないでおこう。
そんなふうに、平和な一時を楽しんでいると、椎名先生が入ってきたので、メノウとレンは席に戻り、俺達はホームルームを聞くことになった。
「えー。みんな、聞いて驚け。なんと、二日ぶり二度目、転校生だ」
ザワッとするクラスの連中。
俺はと言うと、嫌な予感がしたので、押し黙った。
まさか、まさかだよね?
そんなことないよね?
俺が祈っていると、椎名先生が廊下に向けて「入ってきていいぞ」と呼びかけた。
そして、銀髪のポニーテールを揺らしながら入ってきたのは、身長百八十はありそうな、長身の女子だった。
長身だし、スタイルも砂時計みたいで、制服なのにコスプレみたいだ。
彼女は、椎名先生の横に立つと、胸を張って、一言。
「私の名前はネムノキ・ナアプテ・ステラ! 花丸お兄様の許嫁よ!」
身長が何故か伸びているが、やっぱりネムだった。
というか、とんてもないことをぶちかましていた。
「「あぁぁぁ!?」」
メノウとレンが、叫びながら立ち上がる。
俺もそうしたかったが、目立ちたくなかったので、黙りこくっていたのに、目ざとく俺を見つけたらしいネムが、俺の前にひょこひょこと歩み寄ってくる。
「ハロー! 花丸お兄様」
「お、あ、え。あぁぁぁぁ!?」
言葉にならず、威嚇みたいになってしまった。
クラスメイト達は、もはや俺とネムの動向を見守ることにしたらしく、口を挟んでもこないし、またかよみたいにこっちを見てくる。
「朝から元気ね? お兄様」
「おま、お前……。朝から何をとんでもないことを、教室で言ってやがる!? 誰が許嫁!?」
「だって、私は花丸お兄様から大事な物をもらったし、命も救ってもらったのよ? そんなの、この身を捧げて、これから先お兄様が死ぬまで、全身全霊で奉仕するしかないじゃない」
「誰がお兄様!?」
「敬意を表そうと思った結果よ」
「いらねえから帰れ! 俺はここんとこいろいろあって、クラスでの評判がよろしくねえんだよ! それをお前みたいなもんまで……!」
「ぴーちくぱーちく、うるさいなぁ。とにかく、私は花丸お兄様についていくことにしたから、よろしく」
と、俺の肩に気安く腕を回してくるネム。
おいおい、冗談じゃねえぞ……!
なんで許嫁二人目ができてんだ!?
普通、許嫁って一人だろ! つか、一人でも難しいだろ!
いろんなことを言いたくなったが、結局、俺は「勘弁してくれ……」と、小さな声で言うのが精一杯だった。
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