第6話 『夫の最後の言葉』

「どれ、折角だから、助手くんにも儂の夫『イー』の最後の言葉を聞かせてやるとするかの」


「イヤ、聞イタことガアルノデ、別に良インですけどネ」



 そんな助手くんの言葉を聞き流すかのように、ドク博士は、助手くんの左隣を通り抜けると、助手くんの背中側に設置してある長方形のテーブルの上に、音声録音再生機器をことりと置きました。


 その後ろ姿を、助手くんは致し方無し、といった感じでついていき、ドク博士の左隣に、音声録音再生機器を挟むように位置取ります。



「では、助手くん。準備は良いか?」

「イエ、デスから、わタしは聞いたことガアルノデ、別に良インですけどネ?」



 そんな助手くんの言葉を、左から右に聞き流すようにドク博士は、音声録音再生機器の再生ボタンをかちりと押しました。


 しゅ~、という微細な動作音を出しながら、音声録音再生機器は中に入っていた音声を再生し始めます。


 懐かしい、亡き夫『イー』の最後の言葉を……。



『ド〜ク〜♪ 僕が海外に行っている間、ゴミを捨てるの、忘れちゃ駄目だよ〜♪♪』


 続けて、ドク博士の声が再生されます。


『も〜♪ 儂を何だと思っておるのじゃあぁん♪♪』



 そこで、音声録音再生機器はかちゃりと音を立てて止まりました。



 久しぶりに、亡き夫『イー』の声を聞いたドク博士は、手前にあるテーブルに両手をつき、俯いてしまいます。



「博士……」



 心配するように声をかける助手くん……。

 ですが、再び顔を上げたドク博士は、こう言うのでした。



「あ、明日、ゴミの日だ」

「博士、結構前向きに生キテますヨネー」



 助手くんが、棒読みで言いました。

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