第16話 恩賞授与

あの戦いから夜が明け、僕たちはミレニア王女の待つ玉座に向かった。

ユラは先に中で待っているらしく、僕たちは三人で玉座のある部屋に入った。

そこには祝賀会に出席していた貴族や城の兵士たちが整列している。

玉座には王女様が座っており、隣には教皇の姿もあった。

僕たちが玉座の前でひざまずくと、王女が手に持っていた書類を読み上げた。


「この者たちは先の戦いにて、二体の魔人に加えあの厄災の王ルーガスを打ち破った」

「よって王国からは1000万ミルスの報奨金に加え、名誉叙勲を与える」

「そして教会からも今回の偉業を祝し、1000万ミルスを与える事とする」



合計2000万ミルスという大金にアル達は驚きすぎて動けなくなっていた。

さらに名誉叙勲はこの国で実質貴族と同じ扱いを受けられる最上級の恩賞だ。

イリスたちがついに世間に認められたと思うと内心嬉しさでいっぱいになる。


「次に冒険者ギルドの者、前へ」

「はっ!!」


すると初老の男性が列から玉座の前に来た。


「私達ギルドの方からはイリス様とアル様に金級冒険者の位を授与したいと思います」


その瞬間部屋中でざわめきが広がった。

金級冒険者はすべての冒険者の最上位の存在で全冒険者の中でわずか数十名しかいない。

確かにあの強さを考えれば妥当だろうと僕は思った。

すると教皇様が横から話し始めた。


「それでは私の方からもよろしいでしょうか?」

「教皇様!?予定にないのですが・・・」

「聖女ミレニア、まだ恩賞の授与は終わっていませんよ?」

「口調を崩さぬようにしてください」

「はい・・・」

「では、こほん・・・」

「私からは奏さん個人に恩賞を渡したいと思います」

「奏さんは年齢のこともあり、身分を証明するものがありませんでした」

「そこで奏さんには聖騎士の位を授与したいと思います」

「え?」


僕は思わず声を発し、あまりの出来事に呆気にとられていた。

すると教皇の発言に反発した貴族たちが騒ぎ出した。


「いけません!亜人風情を聖騎士になど!!!」

「まだ幼い子供に聖騎士は重すぎます!」

「さすがに教会の者たちが黙っていませんよ!?」


貴族たちが納得できないのも頷ける。

聖騎士とは教会の最高戦力と呼ばれている騎士だ。

その位の恩恵はすさまじく、自由に本部の教会内を行き来できる他、教会が保管しているあらゆる重要書物を閲覧できる。

冒険者と違い年齢制限は無いが、よほどの偉業をなしとげないと慣れない位だ。

以前最年少で聖騎士となった人物は、魔王大戦で活躍した勇者ただ一人であり、その時は16歳だったと聞いている。

だが貴族たちの反発に、教皇は一歩も引かず話を続けた。


「奏さんは王女救出に加え、我々の保護に尽力していただきました」

「そして討伐された魔人のうち一体は奏さんの単独によるものです」

「その魔人を精査したところ、以前アルガス王国を滅亡に追い込んだ元アルガス王国王女アルスであることが判明しました」


その瞬間それを聞いた貴族たちが驚いていた。

あの変態魔人そんなにすごい存在なんだろうか。


「かの魔人はアルガス王国を滅亡させた後、魔王軍の幹部となりました」

「魔王が倒された後も、密かに身を隠し再起を図っていたのでしょう」

「奏さんが魔人アルスを討伐されなければこの国だけでなく周辺諸国も滅亡する危険性がありました」

「よって奏さんに聖騎士の称号はふさわしいと判断します」


教皇の発言に反発していた貴族たちは黙り込んでしまった。


「聖女ミレニア、突然の発表に式を一時中断してしまい申し訳ないですね」

「いえ、私も奏さんがそれだけの偉業を達成されたのなら、教皇様の判断は正しいと思います」

「ふふ、ありがとう」

「では奏さん、前へ来てくださるかしら?」

「は、はい!」


僕は教皇の前に立つと、服の右胸に勲章を付けられた。


「これより、奏さんを聖騎士として任命します」

「新たな聖騎士の誕生を祝し、みなさん拍手をお願いします」


教皇がそう言うと会場中で拍手が巻き起こった。

奏はこの日、亜人でありながら史上最年少で聖騎士に任命されたのである。

その日の夜、中断された祝賀会に加え、王国の危機を脱したことを記念して盛大にパーティが行われることになった。

街の方でも逃げ切っていた人々が街に戻り、お祭りを再開して盛り上がっている。

パーティの料理を手に取り、祭りで賑わう街の様子を見ていると後ろからミレニア王女が話しかけてきた。


「イリスさん達のところにはいかないのですか?」

「いえ、街の様子を見たくて」

「そうですか・・・」


王女がそれを聞いて気を落とすのも分かる。

ルーガスは無事に倒されたとはいえ、街の様子は悲惨なものだった。


「これから我が国は苦境に立たされるでしょう」

「ですが今回の件で思い知りました」

「我々はいい加減大国であることを捨て、以前の小国だったミルス国に戻ろうと考えています」

「すると教会にその権力を返すということですか?」

「そうなりますね」

「今後は誰一人差別のない国を目指したいと考えています」

「奏さん達のおかげで町の人たちの差別意識は無くなりました」

「今後はこの風潮を各国にも伝え、いずれは亜人の国と再び国交を結べるように動けるように働きかけたいと思います」


ミレニア王女の表情は年若い一人の王女ではなく、この国の女王としての決意を感じさせた分


「では、私も王女を手助けしますよ」

「え?」

「王女一人ではできることも限られるでしょう、そこで聖騎士となった私が陰ながら支えたいと思います」

「ですが奏さんは亜人の国に行かれるのですよね」

「その点はご安心を」


そう言って、僕は王女にある種子を渡した。


「これは私の能力で作成した私の分体が生まれる種子です」

「これを使えばいつでもどこでも私と会話できます」

「そして、独立して動くことも可能で王女の護衛にも最適だと思います」


実はあの戦いの後、能力が強化されたのか新しいことが出来るようになっていた。

それは種子を生成し自身とそっくりの分体を作り、根を張らずとも遠隔で視覚や聴覚を共有できる能力だ。


「つまりこれは奏さんの子・・・」


すると王女が小さくつぶやいたがよく聞こえなかった。


「何か言いましたか?」

「いえ、何から何まで本当にありがとうございます」


何か一瞬ミレニア王女から、魔人アルスに会ったときに感じた別の意味で危険な香りを感じたが気のせいだろう。

その日は無事にパーティーも終わり、次の日になると不足していた物資がぞくぞくと届いていた。

どうやら教会からも救援物資や支援部隊が来たらしく、この国の復興は思ったよりも早く終わるかもしれない。

イリスたちは冒険者証を交換するために冒険者ギルドに向かった。

そして残された僕とユラは旅の物資を集めるために街に出向くことにした。

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