第十三話 魔術オタクは過度な期待をかけられてしまう

「珍しいわねえ、この子が体調を崩すなんて」


次の日の朝、まだベッドに伏したままのルリアの頭を撫でながら、マリア母さんはそう言った。ルリアは猫のように目を細めながら、返事もなく横たわったままだ。その体から放たれる魔力の光は、いつものルリアとは比べ物にならないほど暗くて弱い。これでも、昨晩よりはマシになったんだが。


「熱もないし喉も腫れてないけど、体に力が入らないみたい。今日一日、ゆっくり休めば大丈夫だと思うけど……」


昨晩に何があって、どうしてルリアがこうなっているかを知る俺としては、マリア母さんの言葉に曖昧に頷くしか出来ない。正直に言って、一晩経った今でも夢の中の出来事だったのではと思う程だ。


「今日一日、僕がルリアに付いていようか?」


俺がそう提案すると、マリア母さんは僅かに考える素振りを見せた。しかし直ぐに思い直したのか、、軽く首を振って俺に告げる。


「ルリアを心配してくれるのは嬉しいけど、サキは塾へ行った方がいいわね。この子は私とハンナで見ておくから、貴方は早く朝食を済ませて出かける用意を」


「うん……、分かった」


枕元にしゃがみ込み、俺はルリアと目線の高さを合わせる。頬に手を当て「行ってくるね」と声を掛けると、ルリアがその手を掴み僅かに顔を振って拒否を伝えてきた。内心困った俺は、仕方なくそのまま頬を撫で続ける。


しばらくそうしていると、やがてルリアは掴んだ手を離し目を閉じた。隣を見ると、マリア母さんが「今のうちに行っちゃいなさい」と目で伝えてきたので、俺はそっとベッドから離れて子供部屋を後にしたのだった。



朝食を終え身支度を整えると、父さんとの打ち合わせを終えたラズさんがやって来た。ラズさんは屋敷内で侍従という立場にあるが、その役目は父さんの秘書兼護衛のようなものだ。前世の欧州だと「フットマン」などと呼ばれていた役どころとなる。現在は日中の大半を俺の護衛として過ごしているが、朝晩は父さんのところへ出向いて予定の確認や情報の伝達などをしているようだ。


「おはようございます、サキ様。ルリア様のお加減はいかがですか?」


「今日一日安静にしていれば、大丈夫だと思う。今はマリア母さんとハンナがついている」


「そうですか、大事に至らないようで安心いたしました。今は季節の変わり目ですので、サキ様もお気をつけ下さい」


「分かったよ。それじゃあ、行こうか」


ラズさんを伴って屋敷を出て、もうすっかり通いなれた塾への道を二人で歩く。季節は夏を通り過ぎようとしていて、通りを吹き抜ける風に少しだけ秋の気配が感じられた。前世の名前がそうだったからというわけでもないが、俺は一年で秋が最も好きな季節だ。残念ながら生まれて已来このかた王都の貴族街から出たことがないので、今一つ季節の変化を感じる機会が少ないのが困ったところか。せいぜい、涼しくなって庭木が色づくぐらいのものだ。


このまま秋が来て冬になり、年を越せば俺もルリアも七歳になる。そう、まだ七歳だ。だというのに、なんてことに巻き込まれているんだろうな俺達は。


石畳が敷き詰められた路面に目を落とし、俺は深い溜息をつきながら、昨晩の出来事を振り返るのだった。




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ルリアは全身から銀の光輝を放ちながら、祭壇の前に立っていた。その様に見えるのは、ルリアから生じる凄まじい魔力を俺の目が銀色と捉えているからだ。確かに彼女の魔力は普段から銀色を帯びているように見えていたが、ここまで膨大な魔力を感じたことは今までで一度もないと断言できる。


内側から溢れる力に影響されたかのように、彼女の黒髪も身に着けたローブも僅かに持ち上がって宙に浮いている。普段から表情に乏しいルリアだが、今は瞳を閉じており余計に硬質な印象を与えている。そしてその唇から紡がれるのは、彼女の声でありながら明らかに彼女のものではない言葉。


「術具も魔法陣も不足ながら、これは確かに魔術の儀式場。そして詠唱は独自の色が伺えるものの、古式に則った立派なもの。幼子よ、よくぞ再現しました。貴方の名前を教えていただけますか?」


抑揚を排したフラットな口調で、シスター・マギサ――本人の弁によれば、この世界でイシス神と呼ばれている存在――が問いかけてくる。俺は混乱一歩手前どころか叫びを上げて走り回りたいところだったが、必死に頭の中を立て直そうと試みた。彼女(のはずだ、恐らく)は何と名乗った?俺の考えが間違ってなければ、この場に相応しい返答は……


「サ、サキ。サキ・アドニ・アルカライと申します、<偉大なる先達グレートリー・オーナード・シスター>マギサ」


「敬称は不要です。貴方はまだ、私達の結社の一員ではありませんから。勿論、いずれ参入してくれることを願っていますが」


ヤバい。話が通じている。<グレートリー・オーナード>は、魔術結社の内部において下位のメンバーから上位のメンバーへ呼びかける際の敬称だ。前世の魔術結社についての俺の知識が、この世界でも通用してしまっている。


彼女がイシス神その人かどうかはともかく、シスター・マギサがこの世界の魔術結社の構成員であることは間違いなさそうだ。それも<神殿の主宰者マジスター・テンプリ>――肉体を持たない霊的存在である、超高位の魔術師ということになる。


「こうして言葉を交わすことが出来る時間は、それほど長くはありません。そもそも、正式な<召喚インヴォケーション>の儀式ではないのに私が降臨出来たのには理由があります。一つは、私に直接呼びかけたこと。もう一つは、この憑坐よりましの娘の魔力が膨大であること。他にも理由はありますが、私がこうしてこの物質界アッシャーに留まっていられるのは、この娘の魔力を借りているからです。あまりに長い間顕現していると、この少女の魔力を残らず消費してしまうことになりかねません。故にサキよ、聞きなさい」


ルリアに宿ったシスター・マギサが、相変わらず感情が伺えない声音で俺に語りかける。ルリアの瞳は閉じられているが、我が幼馴染の背後に巨大な双眸が浮かんでおり、それがじっと俺を見つめているような妄想が頭をよぎった。


「衰退し続ける『人』を救うため、再び魔術の隆盛を取り戻すのです。貴方が先駆けとなって、いにしえの王国を再興して下さい」


「……はい?」


「ありがとうございます。それでは宜しく頼みましたよ」


「いやいやいや!!今のはそういう意味ではなくて!ちょ、ちょっと待って下さいよ!!」


心なしか銀の光が弱まり、俺はシスター・マギサがこの場を立ち去ろうとしているのだと気づいて慌てて呼び止める。魔術の隆盛はともかく、古代王国の復興?何を言ってるんだこの女性ひとは。もしかして、ボケたかっただけなのか?そうなのか?


「その、私は魔術師を志す一学徒に過ぎません。王国の再興と言われましても……」


言い淀んだ俺に対し、シスター・マギサは言葉を続ける。


「安心して下さい。何も貴方に国を興せとは言っておりません。魔術によって、人の世がかつての王国と同等の文明と繁栄を取り戻す。そのための道を切り開いて下さいとお願いしているのです」


えぇ……何それ。国盗りとかより、よっぽどスケールでかい話なんですけど。しかし、先程のシスター・マギサの話には聞き逃がせない点があったことに、俺は気づく。


「ということは、古代魔法王国では魔術が実践されていたということでしょうか?では何故、今の世には魔術が全く伝わっていないのでしょう?」


彼女は「再び」「取り戻す」と言った。即ち、この世界でも過去には魔術が実践されていたということだ。そうじゃないかと疑ってたが、これはもう確定したと言ってもいいだろう。


「遥かな昔、魔術は人々の暮らしを支えていました。しかし古の王国の瓦解と共に、その技は失われたのです。現在では王国の『遺産』という形で、その断片が残るばかりです」


「王国の『遺産』……」


様々な思考が脳裏を千々に掻き乱す中で、俺は無意識の内にシスター・マギサの言葉を繰り返していた。俺の幼馴染に降臨したシスター・マギサは、ルリアの顔と眼差しで頷く。その体から放たれる銀の光は、いつの間にか随分と輝きを失い、今にも消え去ってしまいそうだ。


「『遺産』を探しなさい、サキ。それが貴方達を、魔術のさらなる深奥へ導いてくれるでしょう。もう時間がありません。貴方達が魔術を極め、再び逢える日が来ることを祈っています」


その言葉を最後に、銀の光が完全にかき消えた。同時に、ルリアが体の支えを失ったような動きで座り込む。慌てて駆け寄った俺は、彼女が床に伏せる寸前でその身を抱きとめた。どうやら完全に気を失っているらしい。


ひとまずルリアをベッドに運び、横たえる。儀式で使ったランプに火を入れ、その明かりの下でルリアをしっかり観察した。どうやら呼吸は正常のようで、顔色も普段通りに見える。しかし常に彼女の身の内から放たれている眩しいほどの魔力の輝きは、今は極めて弱々しく体の表面を覆うだけになっている。


シスター・マギサの言っていた通り、女神とも称される存在の顕現を維持するには凄まじい量の魔力が必要だったらしい。今のルリアは、初めて<明かりライト>の呪文を唱えた時の俺と同様、急激に魔力の殆どを失い昏睡状態にあるようだ。


最悪の事態でなかったことに安心すると、俺にもどっと精神的な疲労が襲いかかってきた。儀式が失敗したかと思ったら魔法の女神(本人談)が降臨。無茶な使命と思わせぶりな言葉を残して消え、気絶した幼馴染が残される。さっきまでの一連の出来事が、俺の神経にも結構な負荷を与えていたらしい。


色々と考えたいことは多いが、すっかり面倒になってしまった。ベッドに身を投げたくなる誘惑に耐え、取り敢えず儀式の後片付けだけはきっちりやっておく。何も考えず機械的に手を動かして、簡易祭壇やら魔術武器とかを所定の位置に隠してしまうと、俺もルリアの隣に潜り込んで寝てしまうことにした。


ランプの火を消して眠りにつく。いつもなら隣で寝ているルリアの魔力の光が眩しいくらいなのだが、その中で寝ることにもすっかり慣れてしまっていた。今彼女から放たれる光は、先天的に魔力に乏しい俺より弱いくらいだ。それが何となく不安で、ルリアを抱きしめるような形で添い寝する。腕の中でルリアの呼吸、鼓動、暖かさを感じている内に、頭の中から余計なことが抜け落ちていって、そうして俺の意識も暗闇に落ちていった。



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(いや、無茶苦茶だろ。俺にどうしろって言うんだよ……)


塾に着いた俺は、講堂で午前の一般教養の授業を受けていた。だが昨晩の出来事が衝撃的すぎて、講師が話す内容も今一つ頭に入ってこない。


塾生達の視線が集まる教壇では、五十がらみの頭部が寂しくなった男性が教鞭を執っている。この先生の名前はアモス・ダヤン。アルカライ家の故郷の村出身で、婆ちゃんが貴族になった際に村から呼び寄せた人達のうちの一人だ。


元は他の貴族の私塾で学んでいたそうだが、我が家が子爵に叙せられると共に文官として出仕。現在ではアルカライ家の司書と、私塾の講師を兼任している。聞くところによると、アモスさんは屋敷の料理長の実の兄に当たるらしい。


ちなみに、料理長のフルネームはナオミ・ダヤンというそうだ。あの太ましい料理長が、ナオミさん……。いや、いい名前だと思うぞ。うん。


「古代王国の滅亡後、いち早く成立したとされる国家がコンスタン侯国です。我がハノーク王国の北東に位置し、両国の間は広大な中央平原や東の果ての山脈によって隔てられています。五百年の歴史を自称していますが、正確なところは分かりません。しかし周辺地域で最も古い歴史を持つ国であることは確かで、我が国もコンスタン侯国の文化や制度に大きな影響を受けています」


静かな講堂。時折羽ペンが羊皮紙をひっかく音が微かに聞こえる中に、アモス先生の声が響く。今日の講義はハノーク王国の近隣諸国についてのようだ。タイムリーな内容だな。


「侯国の王はコンスタン侯爵家です。何故侯爵が王なのかと思うでしょうが、彼の国はこの侯爵位を『古代王国より授かった』と主張しております。即ち、古代王国時代にコンスタン家が現在の侯国領に侯爵として封ぜられ、古代王国が滅びた後に侯国として独立したと言っておる訳ですな。真偽は定かではありませんが。ですので、コンスタン侯国の貴族は伯爵が最高位となっております」


そう。五百年前に古代王国は滅亡した。しかしその痕跡は大陸中に散らばっているとされ、現在でも未踏地域で古代王国期の建築物が発見されることがあるという。そのような遺跡を探し回る、『冒険者』という職業もあるらしい。もしも遺跡で古代王国の宝物でも発見しようものなら、一攫千金どころの話ではないとか。


俺的にはそんなヤクザな商売は御免被ると言いたいところだが、そういった宝物がシスター・マギサが言うところの『遺産』である可能性もある。


「確かに侯国とコンスタン侯爵家は周辺地域で最も歴史ある国家であり家系でありますが、彼の国のみが古きを現在に伝えているわけではありません。例えばこの国の王であるハノーク王家は玉座に就いた時期こそ三十年前と比較的最近ではありますが、二百年以上前からこの地を統べる名家として知られております。そしてこの塾を主催するアルカライ子爵家もまた、古くより攻撃魔法の大家として知られてきた家系なのです」


アモス先生の講義は続いている。そうか、何も古代王国時代の遺跡に限らない。歴史がご自慢らしいコンスタン侯国という国には、何かしら古代王国の痕跡が残っているかもしれない。更に言えば他国まで行かずとも、ハノーク王家や我が家にも『遺産』に該当するものが伝わっている可能性がある訳だ。例えば家伝の宝物とか、秘伝書とか、言い伝えとか。


(なんか結局、昨晩シスター・マギサが言った事ばかり考えてんな。でもま、この世界の魔術の事を知ろうと思ったら、『遺産』とやらを調べるしかないようだし……。乗せられてるみたいで癪だけど、『遺産』集めに邁進するとしますか)


神の視点から見れば人類規模の話なのかも知れないが、俺個人にとっちゃ「俺が魔術のさらなる深奥に至るために努力する」というだけの話だ。つまり、今までやってきたことの延長線上に過ぎない。魔術の復権とか人類の文明レベル向上とかは、俺が魔術の達人になる際の副産物みたいなもの。ついでだ、ついで。


そう考えると、一気に気分が軽くなった。壇上ではアモス先生の講義がまだ続いているが、俺の頭の中は今後の計画を練ることに切り替わっている。家に帰ったらルリアを見舞って、それからウチの家に昔から伝わっている物がないか聞いてみよう。父さんは忙しくて尋ねる時間がないかもしれないから、その場合は執事のギルさんだろうか。


気分が良くなった俺は鼻歌交じりで午後の魔法実技もこなし、ラズさんを伴って屋敷へ帰ったのだった。




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「あるよ」


「あるの?!」


我が父、レヴィ・アドニ・アルカライが事も無げに言った言葉に対し、俺はほとんど脊髄反射で突っ込んでしまった。瞬間、我に返って「すみません、取り乱しました」と頭を下げる。前世の一般人としての記憶があるせいか、どうも自分が貴族の子弟であるという自覚が薄い。


屋敷に帰って夕食を済ませた後、たまたま早く帰ってきた両親を捕まえて話をしたいと言ったところ、父さんの私室に連れてこられた。そこで「我が家に古くから伝わっているものとか、言い伝えとかはありませんか?」と尋ねたところ、先程の返事と相成った訳だ。


この部屋にいる人間は四人。両親と俺、そしてルリアだ。ルリアは日中寝ていてすっかり体調が良くなったらしく、夕食もいつも以上に食べていたほどだった。それは喜ばしいことなのだが、俺が帰ってきてからはいつも以上に傍を離れようとしないのには閉口した。夕食は椅子をくっつけて、ほとんど肩が触れ合うようにして食べていたし、食後にトイレに行こうとしたら中までついて来ようとしたほどだった。


今もソファに並んで腰掛けているのだが、ルリアは俺の腕を抱え込んで抱きつくような格好だ。時折、顔を俺の二の腕にうずめて擦りつけたりもしている。猫か君は。


まあ、今日一日離れていたので寂しかったのは分かる。生まれて已来このかた、こんなに長い間(と言っても、半日程度だが)離れていたのは初めてだからな。ちょっと反動が大げさ過ぎる気もするが、魔力の枯渇による体調不良もあって心細かったのだろう。現在の光量を見るに、彼女の魔力はほとんど回復しているようだ。


そう言えば、ルリアに昨晩のことを覚えているか聞いてみたが「よく分からない」との事だった。儀式の最後で気が遠くなって、気がついたら朝になっていて体に力が入らなくなってたそうだ。そうなると、イシス神ことシスター・マギサの存在を知るのは結局俺一人ということになる。いつかルリアにも話さなきゃいけないかもだが、どうすっかなあ……。



話を戻して、最初俺はルリアを父さんの私室に連れて来る気は無かった。質問の内容的に、ルリアには聞かせられない話になるかも知れないと思ったからだ。しかしルリアは離れようとしなかったし、両親も別にそれを咎めようとはせず、結局二人揃って話を聞いている。まあ、父さん母さんの俺達を見る目が若干生暖かい気がしないでもないが。


「そんなものがあったの?私も聞いたことがないけど」


「母さんには言っていなかったか。我が家には代々受け継がれてきた、『当主しか中を見てはいけない』とされている巻物があるんだ。いつ頃から伝わっているのかも分からないし、私も何度か見ただけで普段はそんなものがあることすら忘れていたからね」


両親が話しているのを聞きながら、俺は「え?これいきなり当たりじゃね?」などと思っていた。『当主しか中を見てはいけない』なんて、凄い秘密が隠されてますよって言ってるようなもんだ。思わず身を乗り出すようにして食いついてしまう。


「その巻物は、僕が中を見てもいいものでしょうか?!」


父さんは顎に手をやり、考えなが返答する。


「サキは将来アルカライ家の当主になるのだから、見る権利があると言えばある。ただ、その巻物はこの屋敷にはない。我が子爵家の領地、故郷の村にある旧い屋敷にあるんだ。母上がそれを管理されていると思うが……」


おお、旧家の屋敷に伝わるお宝とか完璧じゃねえか。なんとか鑑定団じゃないが、是非とも行って拝ませていただきたい。なに大丈夫、ちょっとくらいSAN値が減るようなモンでも我慢するから。


「父上、僕は是非アルカライ家の故郷の村に行ってみたいです。そしてお祖母様のお許しが得られるなら、その巻物を見てみたい」


俺のその言葉に、両親は顔を見合わせてしばらく考え込んだ。やがて目で頷き合うと、父さんが俺の方を向いて答える。


「お前がそう思うのなら、母上にお伺いを立ててみよう。準備があるのですぐにとはいかないし、巻物を見る許可を得られるかどうかも分からん。詳細が判明したら伝えるから、それまではしっかり塾での勉強を続けておくこと。いいね?」


俺は満面の笑顔で返事をすると、ルンルン気分(古い)でルリアを伴い父さんの私室を後にした。一体何が書かれているんだろうな、その巻物には。それによく考えてみたら、王都の外に出るのは初めてだ。婆ちゃんのご機嫌次第だが、新しい体験ができそうで期待が高まる。


俺は年甲斐もなく(六歳だけど)ワクワクする気持ちを抑えながら、ルリアに抱きつかれて子供部屋で眠るのだった。

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