第7話

「ごあッ!!」


 大男の振るう大剣が、俺の身体を吹き飛ばす。ゴロゴロと転がりながら、顔が服が、土や血に塗れていく。


「……なんだァ? 貧弱なもんだ、アッシュはなんだってこんなのに入れ込んでたのかね」

「ぉれがっ、知りてぇよ!」

 

 血を吐きながら大男に向かっていく。痛みはあれど、不思議と身体は思う通りに動いてくれた。

 身体中、骨も内臓も傷だらけだろう。それでも動くこの身体は、一体。


「思ったよりタフだなぁ? おら、そっちの番だぜェ!」


 俺が剣を振るうタイミングで、大男は大剣を地面に突き刺した。

 それを盾のようにし、俺の剣を弾く。途端、大剣がほんのりと光を放つ。


「……力も大したこたぁない。ますます分からん」

「さっきから黙って聞いてりゃ、なんなんだよ! 守人ポーンズってのは口が悪けりゃ事情も話しちゃくれないわけか!?」

「聞いてどうする。お前は死ぬんだぞ」

「死なない! こんなところで死ねない!」


 俺の叫びを聞くも、大男は笑うだけだった。地面が抉れる音を奏でながら、大剣が引き抜かれていく。


「王子様の恋敵なんだとよ。運がねぇやな、お前も」

「……そう思うなら見逃せよ」

「こっちゃあ、王家直属の兵士だ。命令のためなら火の中水の中ってな」


 つまり、見逃すつもりはない。必ず、俺のことを殺す。どうする、俺はまた死ぬのか。アッシュが一度生き返らせてくれたが、もう一度生き返られる可能性もあるか分からない。

 

「おら、こっちゃお前にいつまでも構ってやれねぇんだよ。とっとと死にな」

「ふざけっ!?」


 鎧の男は、剣を前に突き出していた。たったそれだけなのに、まるで何かが違う。

 風が鳴いて、大地が揺れていた。明確にそれがわかるほど、さっきまでとは何かが違う。


「俺ぁ、この見た目だからよ。当身なんかしようもんなら意外だのなんだの言われるんだが……」


 大柄な体格、ぬらりとした威圧感を放つ黒の鎧。確かに、当て身なんて使うとは思えない。

 男の携える大剣から嫌なことモノを感じた。今までの経験から感じる、迫っているもの、襲いかかるものの正体。


 この感覚は─────死。


「テメェの力と俺の力、どっちも使わせてもらうぜ」


 その言葉を最後に俺は。


 強烈な風に煽られ、二度の死を迎えていた。

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ネクロロマンス 黒崎 @kitichan

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