第20話 エルフとドワーフ(エルフ編)

 私と父上はディエリナさんを見た。


「あら、そんなに見つめられると照れてしまいます。いくら私の容姿が整っているからって、リョージ様の婚約者には無理がありますわ、ソージ様」


 いやいや、そんな事は父上も考えてない筈だぞ、ディエリナさん。


「いや、だがディエリナ殿。エルフ族は長命だからリョージの成長を待ってだな……」


 考えていたのかっ!? 父上よ!!


 私も110回目に転生した時には長身スレンダーが好みで妻に選んだのもまさに好みドンピシャだったミリーであったが…… 今はどちらかといえば直前の前世の御厨陵司みくりやりょうじの好みが出ているので、低身長ながらも魅力的なボンキュボンが…… ゲフンゲフン……


 何故かヴァディスさんの視線が私に刺さってくるから止めておこう。


「そんな先の分からない事はいいですから、ディエリナさんたちエルフ族はどうしてうちの領地に来られたのですか?」


「ウフフフ〜、そうですね。リョージ様がご成長された時に考えましょうね。で、私たちエルフ族もドワーフ族と同じく貿易を求めてやって参りました。欲しいのは木です。あ、植樹とかではありません。私たち森の民と呼ばれておりますが、木を切ったりする事に抵抗はありませんから。必要以上に切るのはイヤですけどね。で、その木を利用して家具や細工物を作っておりますが、南の大陸の私たちの住む場所もドワーフ族と同じく魔族との境にあります。で、私たちの住む森もこれ以上木を切る事が出来なくなってしまって、魔族の領地から木を輸入していたのですが…… 年々その値段が跳ね上がっていきまして…… そこで、他のオーガ族やゴブリン族、獣人族とも交渉して輸入しておりました。けれども、オーガ、ゴブリン族は基本的には木こりのような事をする者が少なくて、また住んでいる場所も細い木しか生えてない場所だったりして。獣人族の方は金狼族という種が王族になった途端にこちらも値段が跳ね上がってしまって……」


 木か…… うん? 木だよな? どんな木でも好いのか?


「ディエリナさん、どんな木をどれぐらい必要なのですか?」


 私はものは試しに聞いてみた。


「はい、出来れば広葉樹、針葉樹のどちらも欲しいのです。広葉樹はみっしりと詰まった感じの木が良いですね。針葉樹は家具作りに向いてますので、スーギーやヒーノキが良いです。長さや太さにもよりますけど、ひと月に広葉樹は5本ほど、針葉樹は20本ほどあれば職人たちが暇する事なく仕事を続けられます。取引の際にはうちから輸出出来る物として家具や細工物をと考えております。細工物の中にはドワーフ族と協力して作る身を守る為のネックレスや指輪、腕輪なんかもご用意できますよ」


 今、私の収納内には山が一つ作れそうなほどの木が入っている。それらはセバスと相談してうちの領地で消費していく予定ではあったが、何年も、いや下手すれば何十年分もあるのだ。


「その木を一本辺りどの程度の金額でお考えですか?」


「そうですね。広葉樹は一本につき金貨2枚、針葉樹は一本につき金貨1枚ぐらいで考えております。魔族から要求されてる金額の半分ほどの額ですが少ないでしょうか?」


 広葉樹が5本で金貨10枚、針葉樹が20本で金貨20枚。日本円に換算すると月に300万の定期収入となるな。しかも、私の収納内に入っている木を売れば領民たちに木こりをさせる必要がない。

 その金貨を使って領地を更に発展させる事が出来そうだ。


「父上、僕の収納内には領地を広げた際に取り除いた木が大量に入ってます。恐らくですが、ディエリナさんの言ってる量を毎月、輸出しても十年分は余裕でしょう。その十年の間にエルフ族やバハムル様の指導の元に木を切って保存、切った場所に植樹も行っていけば十年先でも安定してエルフ族に木を輸出する事が可能だと思います」


 私は自分の考えを父上に伝えた。


「なるほどな。ディエリナ殿、その木を切る森の為の指導者などは派遣して貰えるのだろうか? 我ら人族よりも専門知識が豊富な方の指導があれば、森の資源も枯渇する事がないと思うのでな」


 父上も脳筋だと思ってたけどちゃんと物事を考えられるんだな。私は父上の評価を少し上方修正した。


「はい、それは勿論、私たちがお願いしたいことでもありました。今回、こちらに来たエルフ族の者12名のうち、私を含めて10名がこの地に集落を作って住まわせて頂きたいと考えておりました。2名は報告の為に南の大陸へと戻りますが、ひょっとしたら私の母から移住したいとの申し出があるかも知れません。その際にはご検討いただけますか、ソージ様?」


 ディエリナさんのその言葉に被せてヴァディスさんからも、


「すみません、伝え忘れていましたけど、ドワーフ族からも移住の申し出があるかも知れません! うちの方もご検討をお願いします!!」


 との申し出があった。 

 

 父上は領民となって皆が仲良くしてくれならばと言い、更に申し出があった際には竜種による審査があり、その審査に合格した人ならば移住を認めるとの旨を2人に伝えた。


「「有難うございます」」


 2人の代表者からはそう礼を言われた。更には、オーガ族やゴブリン族の移住もあり得ますとの言葉を2人から聞いた。


 オーガ族もゴブリン族も今はまだ困ってはいないが、獣人族や魔族の一部が結託して、領地の拡大を狙っているので、争いを好まない者たちはいち早く住み慣れた大地を離れようと考えているのだとか。

 エルフ族の女王はオーガ族やゴブリン族にもその危険性を伝えるとこちらに来るディエリナさんに言ってたそうだ。


 うちとしては領民が増えるのは大歓迎である。

 

 しかし、領地の拡大を急がねばならないな…… うん、またリヴァイ様とイヨさんのお力をお借りしよう。私が安全に領地の拡大を出来るように護衛をしていただこうと思う。 

 何せ竜種はチョロいから…… そう思ってる事はここだけの秘密だ。


 こうして、領地に来た客人たちとの話合いを終えた私と父上は、それぞれに分かれて仕事を始めた。

 父上はエルフ族やドワーフ族のする場所の選定である。

 領都やこの港町クーレよりは外の方が良いと言うので、どのような場所が良いのか聞いて、その条件に合う場所を選定するのだ。


 私はと言うと…… イヨさんを探していた。

 

 しかし、いつもなら直ぐに現れるイヨさんを中々見つけられない。仕方なく私は最終手段に出た。


 リヴァイ様から頂いた指輪に10の魔力を通す。


 そして私はリヴァイ様の住まいに転移した。イヨさんがお着替えしてる真っ最中に……


「アラ? リョージ様。ワタクシの裸にご興味が?」


「違っ、違うよ! イヨさん! イヨさんを探してたけど居なかったからコチラに戻ったんだと思って指輪を使って転移して来ただけなんだ!」


「クスッ、そんなに慌てなくても大丈夫ですよ、リョージ様。もちろん、分かっておりますので。でも乙女の肌を見られてしまいましたわ。ワタクシ、傷ついてしまいました……」


 グヌヌッ、からかわれている事も露骨な要求なのも分かってはいるが……


「はい、僕の所為ですからお詫びとしてこちらをお納めください!!」


 私はホールケーキを二つ収納から取り出してイヨさんに手渡すのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る