第3話 これは、堕落だろうか

 まだコロナが猛威を振るっていた頃、私はキャンプ動画ばかり見ていました。大自然の中で、たった一人、自然と向き合い、文明の利器になるべく頼らず生活する、というキャンプ動画。テントも小さく色も地味。焚き火も、時間を掛けて火起こししてやる。最小限の照明器具と焚き火の明かりだけで料理をし、食べ、食後のコーヒー、または水割りを片手に星空を見上げる。


 はぁぁぁ。なんて素晴らしいんだろう。これこそが、本当のロマンだ、人が生きる根源ってもんだ。私も、一人キャンプしたい。車の免許はないし、方向音痴だし、ついでに閉所も苦手だけど、関係ない! 

 コロナで閉ざされた家の中で、夜な夜なキャンプ動画をみては、惚れ惚れしておりました。


 ところが、です。コロナが下火になるにつれ、私は、そういうキャンプ動画を見なくなっていきました。だって、免許ないし、方向音痴だし、閉所苦手だしね。それに、考えてみれば、小さくてもテント建てるのって、大変そうだし・・・。

 簡単に言えば、見飽きたのです。


 そんな訳で、しばらく見ていなかったキャンプ動画ですが、最近、おお!という動画を見つけ、再び見始めるようになりました。

 まず、一人キャンプじゃないんですよね。仲良しご夫婦の週末キャンプ、だと思います。私たち夫婦ですって、名乗ってないからはっきり言えませんが、時々、ティーンの娘さんらしき人も合流するので、ご夫婦だと思います。


 で、そのご夫婦がね、キャンプをしている場所が、すごいんです。日本ではちょっと見かけないようなスケールの大自然、それも雪に覆われた針葉樹林の森なのです。その森の中にぽっかり空いた場所があって、そこでキャンプをするわけです。一体、どこだろうと思ったら、トルコでした。


 それで、で、ですよ。そこに建っていたテントが、テントというより、もはや家、ちょっとした平屋って感じなのです。私が興味を引かれたのも、そのテントの大きさ、デザインのかわいさ、でした。なになに、こんなテント、あったんだ!!


 素材はビニール、多分、ビーチボールとかの素材の強力版。そのせいか、色もカラフル。しかもこれ、空気を入れて建てるタイプなので、ポールをがちゃがちゃいわせながら組み上げる手間がないんですよ。電動の空気ポンプのスイッチをオンしたら、あとは車の中で待つだけ。

 こう書くと、弱々しいテントなのではと思えますが、ポールの代わりに空気でパンパンに膨らんだ太い管が、思った以上にしっかりした柱や梁となっている。でも、どこか柔らかい感じなのです。


 ビニール製のよいところは、透明な部分を使って、大きな窓を切れるところです。だから、中から外の景色が存分に眺められるし、なんたって、明るいのです。

 テントが無事に建つと、旦那さんは薪ストーブの配管とか、テントを地面に固定するとか、主に外の作業をします。その間、奥さんが室内を整えるのですが、ふかふかの絨毯に、空気で膨らませたベッドとソファー、可愛らしい飾り棚に、調理スペースなど、もう、別荘やん。これ、別荘よねって感じ。


 夕暮時になると、ガスコンロで作った煮込み料理を夫婦で囲み、大きな窓から見える雪景色を眺める。赤々と燃える薪ストーブの火は、もちろんガスバーナーで一瞬にしてつけたもの。夜が深くなると、コーヒーを飲みながら、壁をモニターにして、仲良くソファーで映画鑑賞って、これキャンプか?


 火打ち石使って火をおこすロマン、どこ行った? 狭いテントの中で、寝袋にくるまるロマン、どこ行った? この夫婦、火起こしどころか、焚き火もやってないぞ! いいのか、私? これが、キャンプと言えるのか? 


 いやいや、それでもいいの。だって、素敵なんだもん。薪の火なんか、バーナーでつけたら、本当にすーぐついちゃうし。そもそも、あんな寒いところで、バップテントなんかで寝ようとしたら、凍死ですよ、凍死。それに、何度も言うけど、私、閉所苦手だし。


 ま、そんな感じで、ただいまゴージャスキャンプ動画にハマっているのですけど、これって、堕落ですかね。

 ちょっとだけ、そんな気がしています。

 


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