第25話 情報収集

 翌日早朝、寮の部屋に入っていた手紙に従って、俺はルナーリアを伴い学園の図書室へやって来た。

 時刻はまだ七時を過ぎたところで、こんな時間から図書室を利用してる生徒なんて一人もいない。


「こんな朝からなんなのよ……まだお弁当も作れていないのだけれど?」

「今日は俺が奢るから勘弁してくれ。フレンダが実家で色々聞いて来てくれたんだよ」


 一番奥まった場所へ行くと、呼び出した本人は席に座って本を読んでいた。


「待たせたか?」

「いえ、わたくしも来たばかりですわ。ルナーリアさん、フェルディナントさん、こんな時間にお呼びして失礼しました。いかんせん、人に聞かせられる話でもありませんから」

「いいわよ、別に。私も当事者なのだし、お昼はガルムがご馳走してくれるみたいだから」


 やはり仲がよろしいですわね、と微笑のフレンダは、こちらにも座るよう勧める。

 朝日に照らされたお淑やかな笑みは、まさしく貴族令嬢。俺の周りにはまともな令嬢が少ないからな。皇女殿下も公爵令嬢も、貴族のご令嬢としては一癖も二癖もある。ありすぎる。


「では早速本題を。報告するのは二点。お父様から話を伺って参りましたが、現在連合国から、不自然なほどに商人の方たちが入国しているみたいですわ」

「それは昨日、私もギルドの方で確認したわ。列車も使わずにって」

「ええ、冒険者の方を雇って車で国を渡っているようですわね」


 昨日の今日でこの話が出たということは、昨日ルナーリアが見かけた以外にもすでにいたのだろう。

 問題は、その商人たちが本当にただの商人かどうか。いや、そこは入国審査の際に嘘をつけないから、何を運んできたのか、か。


「入国の際に積荷の方も検めておりますが、おかしなものはなにもなかったとのことです。魔力検査も問題なく通過しております」

「とりあえず、もう一つの方を聞かせてくれ」

「はい。もう一つは、フリーデン家に纏わる噂について」


 連合国建国の際の経緯から、フリーデン家には悪い噂がいくつかある。根も葉もないものばかりではあるが、その中にはいくつか、真実も混じっていた。


「フリーデン家が旧メルバ王国で、諜報を担っていたという話はしましたわね」

「その情報が出ること自体、諜報機関としては失格もいいところだと思うけれど」

「それは俺も同感だが、察するにその実働部隊の話か?」

「ええ、フェルディナントさんの言う通りですわ。フリーデン家はかつて、神に仇なす組織と繋がりがあった、との噂がありますわ」


 神に仇なす。ムカつくほどに察しがついてしまうが、それはおくびにも出さない。フレンダはクリフォトの件を知らないのだから。


「本当にそのような組織から分かりませんが、フリーデン家が表に出せない組織と繋がりがあるというのは、今現在も事実のようです」

「よくそんなこと教えてくれたな」

「お父様は少々わたくしに甘いところがおありですから……その……」


 言いづらそうなフレンダに、隣のエルフさんと一緒に首を傾げる。

 ほんのりと頬を染めたご令嬢は、意を決したように口を開いた。


「お、お友達のためだと言えば、あっさりと教えていただけましたわ」


 ふん、とそっぽを向いて口を尖らせる、照れを全く隠せていないフレンダ。

 えぇ、なにこの可愛い生き物。額に入れて飾っておきたいくらい、お手本のようなツンデレだぞ。可愛らしい顔をしてるから実に様になってしまっている。


「……な、なにか言ってくださいません⁉︎ って、なんだか冷えますわね」

「いやぁ、なぁ……?」


 俯いてしまっているルナーリアを肘で小突くと、ひんやりとした空気は引っ込んだ。フレンダは気のせいだったのかと首を傾げている。

 ハッとしたように顔を上げて、ルナーリアは俺をジトっと睨んできた。


「私に振らないでちょうだい。ファンテーヌ、まだこの時期の朝は冷えるのだから気をつけなさい」

「あらルナーリアさん、このわたくしがご友人と仰ったのが聞こえなくて? その様な他人行儀な呼び方ではなく、名前で呼んでくださいな」


 引っ込んだ冷気がまた薄らと漂って来た。

 なにに対して恐怖を抱いているのか、もはや明らかではあるが、ルナーリア自身にも制御できないというのだから仕方ない。


「……分かったわよ、フレンダ。ほら、私ので申し訳ないけれど、羽織っておきなさい」


 諦めたようにため息を吐いたルナーリアが、ブレザーを脱いでフレンダに差し出す。サラッとイケメンなことをしないで欲しい。俺の立つ瀬がないので。

 まあ、図書室が冷えてるのはルナーリアのせいなので、とんだマッチポンプなのだけど。


「ありがとうございます、ルナーリアさん。さて、どこまで話したかしら?」

「フリーデン家と繋がってる組織の話だな」

「そうでしたわね。お父様曰く、現在のフリーデン家もその組織を使っているようなのですが、連合国の諜報機関自体は他にあるようなのですわ」


 諜報機関というのは、国によってその体系は様々だ。例えば帝国は、軍の中に情報部として組み込まれている。しかし前世のアメリカのように、軍とは独立した組織もあるし、軍の中にありながら独自の命令系統を持っている組織もある。


 連合国の諜報機関については、俺も耳にしたことがある。先の例に則ると、連合国はアメリカと同様の組織形態だ。軍とは独立した連合議会直属の組織であり、フリーデン家だけのものではない。


「とは言え、我が国でも上位貴族であれば独自の諜報部隊は持っているものですわ」

「その怪しげな組織は、フリーデン家直属ってわけか」

「その可能性が高いかと」


 フレンダには言えないが、その組織とやらはクリフォトの可能性が限りなく高い。

 神に仇なす、なんて噂が出るくらいだ。あるいはその噂を利用して、連合国内で上手く身を潜めている、なんて可能性もあるが。ルナーリアとの婚約話がある以上、その可能性は排除して問題ない。


 つまり、レオナルドもその組織の意向を受けて動いている、ということか? いや、それにしては不自然すぎる。なにせ俺と決闘する理由が、余計に分からなくなるのだから。


「助かったよ、フレンダ」

「あなた方には恩があるのですから、これくらいは手間でもありませんわ」

「それに友達だから、か?」

「揶揄わないでくださいませ! もう……わたくしは先にお暇いたします。あまりお二人の時間をお邪魔するわけにもいきませんもの」


 ブレザーをルナーリアに返して、フレンダは優雅な礼を残し図書室を後にした。

 最後に勘違いしていったが、訂正するのはまた今度でいいか。


 冷気は未だに残ったままで、引く気配を見せない。


「そんなに怖いか?」


 親しい人間を作るのが。

 そこまで言葉にするのは、俯いてしまった彼女にとって酷だろう。


 また同じことを繰り返すかもしれないと、ルナーリアは言っていた。

 大切な相手を、自分の手で失わせてしまうかもしれない。自分なんかと関わったせいで、危険な目に遭わせてしまうかもしれない。


 だから怖いのだと。

 誰かと親しくなることが。

 誰かを、大切に思うことが。


「……あの子は、フレンダはなにも知らない。クリフォトのことも、エルフ女王国のことも。あなたやアルカンシェルみたいに、自分の身を守ることもまだ覚束ないような子供よ」


 それでもし、巻き込まれてしまったら。

 過去のトラウマだけじゃない。今現在ルナーリアを取り巻く環境すらも、彼女を苛ませる。


「怖いわよ。怖いに決まってるじゃない……でも、だけど……」


 腕を抱くその姿は、寒さに震えているようにも、寂しさに怯えているようにも見えて。


 顔を上げたその瞳には、悲壮な決意が。


「だから私は、強くならなくちゃ」


 強くなりたいと。

 何度も聞かされた、彼女の願い。

 きっと誰よりも優しい彼女だからこそなのだろうけど。


 ならその優しさを、ほんの少しだけ自分自身に向けてあげられたなら。


 いや、それが出来ないから、ここまで拗らせてしまっているのか。


「ま、フレンダのことは心配するなよ。この学園に誰がいると思ってるんだ?」


 空気を変えるためにも戯けて言うと、ルナーリアは眉を寄せた。長い耳は、その先端を落としたままだが。


「あなた、正体を隠してるのだから、あまり派手に立ち回れないじゃない」

「今度は誰かさんのせいで、表舞台に立たざるを得なくなったわけだが」

「それはっ……悪いとは思ってるわよ、少しだけ」

「少しかよ」


 ついにはそっぽを向いてしまい、そんな様が可愛くてつい笑みが漏れてしまう。聞き咎めたエルフさんはチロリと睨んでくるけど、全く怖くないな。


「冗談だ。決闘って手段は想定外だったけど、どの道レオナルドとの婚約自体はどうにかするつもりだったしな」

「政治的にややこしくなりそうだものね。いえ、すでに面倒なことにはなってるのかしら」

「まあそれもあるが」


 こてんと首を傾げるルナーリアは、普段よりもどこか幼く見えてしまう。

 しかしこいつ、ホントこの手の話には鈍いな。少しくらい察してくれてもいいのに。


「ぽっと出の野郎に横から掻っ攫われるのは、色々我慢ならないんでね」

「なによそれ。私があんなやつに遅れをとると思ってるのかしら?」

「そうじゃねえよ」


 こちらの意図が全く伝わらなくて、もはや笑いが込み上げてくる。そんな俺を見てさらに首が曲がっていくルナーリアは、申し訳ないが面白い。


 とりあえず、その辺をちゃんと意識してもらうところから始めないとな。



 ◆



 午前中の授業は平和に終え、昼休み。

 堅苦しいクソ真面目な座学から解放されて、生徒たちは思い思いの時間を過ごす。うちのクラスは午後から実技の授業だから、解放感も一入だろう。


 かくいう俺も似たようなものなのだが、しかし教室から一歩外に出ると、突き刺さる視線の数々に辟易としてしまった。

 一日経ったことで、レオナルドと決闘するガルム・フェルディナントとは誰ぞや、の答えが出たのだろう。

 あるいは、決闘を持ちかけられた一昨日、演習場にいたやつなんかだとすぐに俺の顔と名前は一致しただろう。ルナーリアにでっかい声で名前呼ばれたし。


「勘弁して欲しいぜ、マジで」

「そんなに気にするようなものでもないでしょう。どうせ直接なにか言う勇気のないバカどもでしかないのだから」

「いやいや分かってねえなルナーリア。周りの視線ってのは一度気にしちまったら、ずっと気になるもんなんだよ。周りの奴らが俺の悪口言ってるかも知れないんだぜ? 繊細なガルムさんとしてはもう夜しか眠れないわけ」

「自意識だけはご立派ね、誰もそこまであなたなんかに興味ないわよ」


 戯けて言えば、にべもなく切って捨てられた。あなたなんかって、言い過ぎじゃない? ちょっとお口が悪うございませんこと? いやちょっとじゃねえな。めっちゃ悪い。


 ルナーリアの毒舌は今更のこととして。

 現在昼休み、場所はとある空き教室にて。並んで立つ俺たちの前で、呆れたため息を漏らす男がひとり。


「あのさ二人とも。噂の中心人物が並んで歩いてたら、そりゃ目立つに決まってると思うんだよ。今回みたいなパターンだと、特に」


 俺たちをこの場に呼び出した張本人たるオスカーは、なぜか眉間に皺を寄せている。

 まあ、言わんとしてることは分かるけど。


「仕方ねえだろオスカー。今日はルナーリアに昼飯奢る約束だったし」

「購買ってパンしか売ってないのね。第一皇女様に言えば、おにぎりも売るようになるかしら」


 購買で人気順上から三つを献上したルナーリア、これでも機嫌がいい。声音は気持ち高めだし、長い耳もピンと上を向いている。

 最近気づいたのだけど、彼女の機嫌や気分は、耳を見たら大体分かるのだ。これは多分ルナーリア特有の、おまけに無自覚の癖だろう。他のエルフに会ったことは何度もあるけど、そいつらはこんな分かりやすくなかったし。


「よくその三つ確保できたな、ガルム。いつも相当な争奪戦になってたはずだぞ?」

「ああ、死ぬかと思った」


 冗談抜きで。あそこは戦場だった。

 俺が購買を使う時は、混んでる時間を過ぎてからの上、パンの種類も特に気にしないからな。

 それがまさか、昼休み始まってダッシュで行けば、あんなことになっているなんて。


 四方八方から押し寄せる人の波に、色んな場所から聞こえて来る怒声。そのさらに上を行く、販売員のおばちゃんの声。前世の通勤電車を思い出して挫けそうになったが、人混みの外からの圧に背中を押され、固有魔法すら使ってなんとか確保したのだ。


「それはそうと、食いながら聞かせてくれよオスカー。期待していいんだろ?」

「勿論、色々と聞いてきたぜ」


 それぞれ適当な椅子に腰を落ち着かせて、オスカーは持参したサンドイッチを、俺とルナーリアは死闘の末に手に入れたパンの袋を開ける。


 人気第三位はメロンパン。

 王道だ。外はカリカリ、中はふっくらの焼き立てメロンパンは、王道故に老若男女問わず愛される。俺はクッキー生地の部分が特に好きなのだが、あれって結構ポロポロ落ちるんだよな。

 しかし銀髪エルフさんはお行儀良く、床に一欠片も落とすことなくパクリと齧り付いていた。お気に召したのか、耳はぴこぴこ動いている。可愛い。


「まず、フリーデン先輩の周りからの評価だな。こいつはまあ、そんなに驚くことでもなかった。一年、二年からはかなり慕われてるし、ファンクラブもあるみたいだぜ」

「見た目はムカつくほどいいし、実力もあればまあ、ファンクラブくらいできるか」

「ちなみに、殿下とルナーリアさんのファンクラブすでに出来てる」

「あとでメンバーを教えなさい」

「教えるなよオスカー、明日の朝凍死体が発見されることになる」


 つーかルナーリアのファンクラブ、俺も入ろうかな。バレたらマジで殺しにかかって来そうだけど。

 あるいは今の俺は、ファンクラブメンバーに殺されてもおかしくない立ち位置なのだけど。


「放課後の演習場でたまたま一緒になったやつなんかだと、色々教えてもらったりしたらしい。結構気さくに話しかけてくれるから、恐れ多くて近づけない、みたいな感じはなかったな。これに関しては、後輩の面倒見もいいって教師からかなり評判だ」


 なるほど。後輩連中からすれば、憧れの先輩であると同時に、気さくで接しやすい理想の先輩なわけだ。

 リリやルナーリアのような、決して手の届かない天上人ではなく、自分たちと同じ目線に立ってくれる。

 そりゃ慕われるだろう。


「同級生、三年生はどんな感じだった?」

「一、二年みたいな一方的に慕ってる感じはなかったけど、それでも悪く言う人も少なかったな。頼りになるとか、学園最強も納得だとか。卒業後のことも考えてだろうけど、結構な人数がフリーデン先輩のことを好意的に言ってたよ」

「つまり、悪く言うやつがいないわけじゃなかった、ってことだな」


 肩をすくめて見せるそれが、言葉以上の肯定だ。

 人間である以上仕方ないのだろうけれど。誰かを妬む心というものは、どんな聖人君子が相手だろうが生まれるものだ。

 大人になりきれない、けれど子供のように幼くはいられない、中途半端な思春期の少年少女であるなら、なおさらに。


 後輩や教師たちよりも距離が近く、それらの人々に、あるいは親に比較されることだってあるだろう。


 どうしてあいつばかり。

 自分と何が違うんだ。


 そのような負の感情とうまく折り合いをつけられる者はいるけれど、そうじゃない者もいる。いや本来なら、後者の方が多いのが普通なのだ。ここが魔法学園で、貴族の子息令嬢が多いからこそ、と言うべきか。


 そんな魔法学園でもやはり、レオナルドをよく思わないやつらがいる。

 ヒトというのは便利なことに、共感性の高い生き物だ。誰かが楽しそうにしていれば自分まで楽しくなるし、悲しそうならこっちまで泣きたくなる。

 故に、誰かの悪意は、害意は、容易く他人へ伝播する。


「数はそう多くない。でもある程度組織だって、フリーデン先輩を非難する人はいた。大体二十人ってところか」

「組織だって、っていうのは? まさかファンクラブとは真逆みたいなのがいるってことかしら?」

「大体そんな感じかな。で、その二十人くらいの中には、流されて喋ってるような人もいた」


 周りが言うから。仲のいい友人がそうなら。

 そんな思考に、押し込められていた負の感情が刺激されてしまう。

 今は二十人ぽっちだが、卒業する頃にはどこまで増えているか。


 いや、違うな。レオナルドは三年生、つまり最終学年だ。

 入学してから二年と少し。それだけの時間があって、二十人しかいない。

 正直異様ではあるが、やつも政治の世界と無縁じゃない。人身掌握の術くらい持っているか。


「ファンクラブの反対なら、アンチクラブってか? んで、その二十人の先輩方は、何か問題ありそうか?」

「んや特に? 正直束になってもフリーデン先輩には敵わないと思う。これまで話がなかったのがいい例だろ?」


 だろうな。つまりそのアンチクラブの方々は、レオナルドに実力で敵わないことを理解している。だから変に突っかかることもなく、陰で愚痴愚痴言い合うだけ。


「自分の実力不足による情けなさを、他人への愚痴や悪口で誤魔化すだけの陰湿な無能ってことね」

「はっきり言っちゃったよ……」


 そこまで言わなくてもいいじゃん、顔も知らない先輩方が可哀想だとは思わんのかね。特に思わねえな。


「んじゃ次な。フリーデン先輩に関する噂も集めてみた」

「それは、レオナルド個人のってことでいいのか?」

「ああ。実家の方はフレンダが色々調べてくれたんだろ? だから俺は、あくまでも学園っていう閉じた世界で広まってる噂についてな」


 茶目っ気たっぷりにウインクしてみせるオスカーは、随分様になっている。こいつもこいつでレオナルドに負けないくらいにはイケメンだから、なんかちょっとムカついてきたな。


 と思っていたら、人気第二位の焼きそばパンの袋を開けたルナーリアがちょっとイラっとした感じで先を促した。


 いいよね、焼きそばパン。もはや語ることはない。ボリュームたっぷり、ソースたっぷり、育ち盛りの学生諸君の頼もしい仲間だ。

 俺もルナーリアも育ち盛りって歳じゃないけど。


「で、その噂って?」

「おいルナーリア、そんなにカッカするなよ。たしかに今のオスカーは若干、いや割とイラっときたけど」

「普段どんな感じで女子を口説いてるのかが透けて見えて気持ち悪いもの」

「おーい、なんで俺の悪口始まったの?」


 そりゃお前がイケメンなのが悪い。


 咳払いを一つ挟んで気を取り直し、オスカーはレオナルドの噂とやらについて話し出す。


「それなりにいろんな話は聞いたけど、中でも多かったのは二つだな。まず、生徒会について」

「ほう、生徒会」


 勿論当然、この学園にも生徒会は存在するし、異世界学園もののご定番に乗っ取って、それなりの権力を有しているし、おまけにメンバーは高位貴族の面々。


 かつて入学パーティの時、サプライズで訪れたフォルステラ様の隣でガクブル震えてた生徒会長だって、この国の公爵家のご令嬢だ。なんならこの学園の学園長を代々務める、セレスティア公爵家のご令嬢だ。

 俺も一応知り合い、つまり俺の正体を知ってるやつだが、それはひとまず置いといて。


「ほら、今の生徒会長ってスピカ姉さん……セレスティア先輩だろ? で、フリーデン先輩は普通なら生徒会入りしてもおかしくないのにそうしないのは、セレスティア先輩が拒んだから。んでその二人は仲が悪いって噂」

「生徒会長がねぇ……」


 まあ、根も葉もない噂だな。

 生徒会長のスピカ・セレスティアは、良くも悪くもお手本のような貴族令嬢だ。

 話し方は全く淑女らしくないが、その内面は徹底的な合理主義。仕事に私情を挟むなんぞあるはずもなく、そいつが使えるやつであるなら、どんな人間でも生徒会に入れるだろう。

 レオナルドが嫌いだから、なんてのは彼女にとって理由にすらなり得ない。


 いやでも、スピカはレオナルドのこと嫌いそうっちゃ嫌いそうではあるんだが。


 しかしそうなると、今度は逆に、レオナルドはなぜ生徒会に入っていないのかが気になるところだ。

 他国の者ではあるが、生徒会入りにそこは関係なかったりするし。


「もう一つの方は?」

「女癖の悪さについて」

「やっぱいいわ」

「夜な夜な女の子がいるお店に消えていくらしいぞ?」

「いいって言ってんだろうが。聞きたくねえよあいつのその手の話は」


 つーか学生だろうが。マセてんじゃねえぞガキが。俺だってそっち系の店には行ったことないのに。

 なんでってリリとメイドのサラが怖いからね! 一回軍の上官に誘われた時、どこからともなく現れたリリがジーーーーーっとこっちを見つめて来たのが怖かったからね!


「つーとなにか、噂に関しての収穫は生徒会関連だけか」

「他はなんていうか、過剰に持ち上げるようなもんばっかだったな。やれ災害級の魔物相手にどう立ち回っただの、固有魔法の凄さだの、そういうのはお求めじゃあないだろ?」

「理解のある友人で助かるよ」


 そういえば。

 ルナーリアからのツッコミがないな、と思ってそちらに視線をやってみると。


「ルナーリア」

「……ふぁによ」


 人気第一位、チョコホイップパンをハムっと口にしながら返事が。

 チョコクリームも生クリームホイップを挟んだパンは、女子生徒から多大な人気を博している。やはり女子は甘いものが好きなのだろうが、それは男子だって変わらない。二種の自家製クリームは、生徒たちの心をがっしり掴んでいるのだ。

 それは銀髪エルフさんも例外ではないらしく、どうやら話を聞かず食べるのに夢中になっていたようで。


 それが恥ずかしかったのか、長い耳はほんのりと赤くなっていた。おまけに、鼻の先っぽには生クリームがちょんとついている。


「話は終わったかしら? だったら私はもう戻るわよ」

「ああ、うん……どうぞお好きに……」


 S級六位の《白薔薇》は、まるで逃げるように空き教室を後にした。うん、恥ずかしかったんだね……うん……。


「お前も大変な相手に惚れちまったな、ガルム」

「うっせぇ」


 本当に、大変だよ色々と。

 可愛いに際限がないのかあいつは?

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