第11話 エトンの精霊

 既に教室は騒がしく賑わっており、数分もしないうちにレイン先生がやってきてホームルームが開催された。

「はい、みなさん。先日の迎撃戦お疲れ様でした。各自報酬を付与しますのでエトンのチェックをよろしくお願いします」

 教壇からみんなに呼びかける。みんなエトンを持っていてそれを確認して欲しいという旨だが……。

「報酬……エトン……」

 エトンっていうのはこの世界でいうところのPCや携帯みたいな情報端末だと言っていい。ただし見た目は本になってる。

 あれゲームだとスタートボタンで開いてたけど、 みんなどこに持ってるんだろ。

「リリィさんは知らないだろうから説明するよ」

 ホームルームはひとまずエトンの確認のため解散され、私は説明のためにレイン先生に招かれる。

「魔法生物との戦闘が行われた場合戦果に応じて報酬を付与することになっているの。その報酬は各自の所持するエトンというものに送られるの。あ、まだリリィさんのエトンは登録されてないからとりあえず説明だけね」

「はい!」

 一応概要は知ってはいるのだが、使い方や詳細はわからないことも多いので知らないていで説明を受けておく方が都合がいいだろう。

「まずエトンっていうのはこれ」

 レイン先生は1冊の辞典みたいな厚さの本を差し出す。なんとなくパラパラとページをめくってみるもそのどのページにも何も書かれていなかった。

 表紙も無色なのでおそらくこれは所有者のいないサンプルのエトンだ。

「一見して魔導書みたいでしょ?でもページが自動で更新される魔法がかかってるからお知らせや情報が追加・修正されるんです。お知らせがある時はエトンに宿る精霊が教えてくれるから安心して」

「わかりました!」

 エトンは物語の根幹に関わるものだ。タイトルの『グリーン☆ぐりもわ〜る』のぐりもわ〜るに該当する存在といえばわかりやすい。タイトルに入っているくらいだからね。でもみんなが持っているエトンの色はグリーンではない。

「それで、報酬っていうのはね。ざっくり言うと財である二ーディがもらえるの。お買い物に自由に使っていいからね。でも二ーディ欲しさに敵を横取りしたり汚い真似をしたら……許しませんからね」

 レイン先生は釘を刺すように殺気の籠った笑みを浮かべた。

「肝に銘じておきます……」

「それで、まだエトンはないんだけどリリィさんにも報酬が出てるので明細を渡しておきますね」

 レイン先生から二ーディの金額が書かれた紙を受け取った。

「500二ーディ……これってどのくらいなのかな?」

 席に戻りながら紙を見てぼそりと呟く。

「リリィ、500か。なかなかあるね」

 私の呟きを聞いていつの間にか隣にいたスパーダが頷く。

「スパーダは?」

「私は1200」

「倍以上だね」

「医務室送りになったからちょっと引かれてるぞ」

「あーやっぱりそうなんだ」

 ちょっぴり残念。でも仕方ないよね。

「まぁ私は前線ってのもあるしね」

 確かにスパーダは襲い来る敵を薙ぎ倒していた。討伐数が多いのにも納得だ。

「そういえばエトンってどこにあるの?」

「呼ぶんだよ。ロメオっ!」

「はいはいッ!」

 スパーダの呼び掛けに応じて貴族的な服を着て冠を被った王様みたいなペンギンがぼわんと煙を上げながら出てきた!その腕には赤色の魔導書が抱き抱えられている。

「わ、すごい」

「エトンには精霊が宿ってるからね。私の精霊はロメオ。かわいいだろ?」

「まぁ……うん」

「微妙な反応ッ!」

 ロメオが金切り声を上げる。この子なんかオッサンっぽいんだよなぁ……。

「あ、リリィさーん!報酬どうでしたかぁ?」

 ハートが私を見つけてにこやかな顔で駆けてくる。

「ハート!ねぇねぇ!ハートのエトン見せてっ!」

「はい!ミューズ!」

「にゃおんっ!」

 ハートが呼ぶと宝石の装飾品をつけた猫がでてきた!その子は桃色の魔導書を抱えている。

「ミューズ!かわいい~!!」

「絶妙な反応ッ!」

 私からの反応の差に不服そうにロメオが叫ぶ。

「あんたはちょっと派手すぎるのよ。あたしみたいにさりげなく煌びやかにしないと」

 そう言ってミューズはロメオを見下す。宝石を身に纏うミューズも十分に派手な気はするが……。

「大きなお世話ッ!」

「にゃんですって!?」

 精霊たちが短い手足をぱたぱたと動かしながら争い始めた。

「ちょっといきなりケンカしないでよ」

「やめなさいミューズ……」

「ごめんなさい……」

 2匹は主たちに叱られしょんぼりとしながらお互いに離れた。

「楽しそうだよね精霊がいると」

「まぁ1人の時は頼りになるけど誰かといる時には基本的に出さないよね。うるさいし」

「うるさいッ!?」

「そういうとこだぞ」

 ロメオは口を無理やり閉じさせられてしばらく唸っていたがやがて大人しくなった。

「そういえばどんな手続きしたらエトンがもらえるの?」

「エトンはね、適正を検査したら学園長が自らお作りになられるんだよ」

「あれだけの生徒のエトンを作っちゃうのってすごいですよね!」

 ハーベスト学園長……そういえばあの日以来会っていないかも。

「精霊は自分の心から生まれるらしいぜ。なんでこんな騒がしいペンギンに……」

「失礼ッ!」

「まあロメオもマスコット的にはありだよね」

「サポート役なんだがな……」

 スパーダは苦笑しつつロメオの被る王冠を弄ぶ。

「リリィさんの精霊、楽しみですね!」

「ね!どんな粗を探してやろうか楽しみだね!」

 スパーダがにししと笑う。

「いやスパーダさん……そんなことないですよ」

「あれ?違った?」

 意図しない方向に同調されたハートは顔を引きつらせた。

「大丈夫!私の精霊は完璧なはずだから!」

「私も初めはそう思ったさ」

 そう言ってスパーダは嘆息する。

「完璧だろッ!?」

「叫ぶばっかであんま説明してくんねぇんだもんこいつ」

「………」

 喚き散らかしていたロメオはいきなり閉口してしまう。

「うわだんまり……ロメオ……それはないんじゃない?」

「こういうやつなんだよ。だから私もそれなりの対応をしている」

「ちくしょーッ!」

 ロメオは泣きながら消えてしまった。

「あ、帰っちゃった」

「エトンの精霊にもちゃんと機嫌とかあるから気をつけなよ」

「スパーダが言うんだ……」

「おーいロメオっ!」

「………」

 呼び掛けてもロメオは現れない。

「な。フォローしないとしばらく出てこないから」

「ちゃんとしておきなよ……」

 からからと笑うスパーダは大らかではあるのだが時々酷いな。

「ミューズはそんなことないんですけどね……」

「あんなへそ曲がりと一緒にしないでちょうだい」

 ミューズもそう言いつつぷんと鼻を上げる。

「あ、ごめんなさい」

「さて、じゃあまた特訓の時にな」

「あ、はーい」

「また会いましょう。失礼します」

「ばいばーい」

 2人は去っていった。

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