A−12号室・4
自己紹介が終わった直後、小松が雄大に話しかけた。
「似てはいるなとは思っていたのですが、やっぱりモノマネ芸人の堂本雄大さんでしたか」
「うん。でもよく気づいたね」
「堂本さんのモノマネはSNSやテレビでよく観ていましたから、すぐ分かりましたよ」
思わぬところに自分を知っている人が居て嬉しかったし、小松が同じ日本人ということもあり安心感もあった。
「ありがとう。知っててくれて」
照れまじりに言った。
「ただ、小松さん。その堂本さんって言うのがむず痒いよ。周りからは下の名前の雄大で呼ばれてるから、そう呼んで」
「分かりました」
小松は返事をしてから少し考える。
「じゃあ雄大さんにします。雄大さんの方が年上ですし、呼び捨ては出来ません」
「じゃあ、それで頼むよ」
「僕のことは小松で良いですよ。雄大さんの方が年上ですし、呼び捨てで構わないです」
「ああ…分かったよ」
(彼はちゃんと縦を気にするタイプなんだな)
■
4人は、それぞれ自分のベッドに入っていった。
雄大は、ベッドスペースであぐらをかいて背中を丸めた。
カーテンの中は自分だけのプライベート空間だ。誰も見てないからこそ、抑えていた感情が出てくる。
(悔しい…)
しかし泣くことが出来なかった。
『お笑いゴッド決定戦』の決勝戦に出演できなくて悔し涙が出そうなものなのに、それよりもここ数時間で起きた出来事のおかげで頭が混乱していた。
徴兵のために異世界に連れてこられたこと、
異世界人らが日本語を流暢に話すこと、
エドラド語表記の物をしばらく見ていると見知った文字に変わること、
漫画やアニメやゲームでしか見たことがなかった魔法を目の前で見たこと、
そういったこと全てに理解が追いついていなかった。
そのせいでひどく疲れていたが、この日はあまり眠ることが出来なかった。
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