異世界案内人・1


 雄大は全身が痺れたまま暗いトンネルを飛行していた。彼の脳にはノイズが入り、断片的に昔の映像が流れた。



 いつかの風景──



 ものまねパブ『ラサト』の裏口から出ると、とある親子が出待ちしていた。


 ちいさな男の子が駆け寄り、色紙とペンを手渡してくる。


「名前は何ていうの?」


 サインを描きながら聞いた。


 男の子は短く「えみと」と、答える。


 少し後ろに居たお父さんが「ちゃんと、えみとです。って言わないと駄目だよ」

と注意した。


 このとき違和感を感じた。お父さんの声が薄い。プールに潜ったときのような、膜を通したよう音。


 顔も曖昧だ。実際には顔があるのに、見ても、すぐ忘れる。


(お母さんと、えみとくんの顔は、ハッキリと見えるし覚えているのに……)


 不思議な気持ちになった。



 ふと、奥から視線を感じた。


(ん? 赤いフードの男……)



 誰かが、雄大の方を見ている。

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