第10話  婆、女子高生になる!

「志望校に入学できたなぁ! なあ! 多田野君」

「本当だ、良かった、良かった」

「あんたはクラブに入るんか?」

「うん、文芸部に入るつもりだよ。中学の時も文芸部だったし」

「あんた、ずっと私と勉強してたやんか」

「うん、だから幽霊部員だった。高校では部活も頑張るよ」

「私は女友達を作るわ。ほんで、アタックリストも作る」

「まあ、頑張ってね」

「中学の時は最悪やったからなぁ」

「先輩や後輩や先生にちょっかいかけたからでしょ」

「あれで、みんなから警戒されて、体育祭も文化祭も修学旅行も1人やったから寂しかったわ」

「まあ、あれだけ派手にやらかしたら、しょうがないよね」

「高校では、文化祭、体育祭、修学旅行、思い出を沢山作るねん!」

「うん、頑張ってね」

「まずは女友達を作るで-!」

「頑張れ-!」



 妙は隣の席の女の子に目をつけた。もじもじしている。内気そうだ。要するに、こっちがワガママを言っても受け入れてくれそうだ。妙にとって、女友達というのは“ワガママを受け入れてくれるおとなしい娘(こ)”だった。だから、妙の方から声をかけた。


「あんたも友達おらんの?」

「あ、はい」

「ほな、私が友達になったるわ。私は妙。あんたは?」

「花子です」

「ほな、これから私達は友達やで、よろしく、花子ちゃん」

「うん、よろしく、妙さん」

「放課後、私の男友達に紹介するわ」

「え? あ、うん」



「多田野君」

「あ、妙さん、図書室は静かにしてね。部長、すみません、少し抜けます」


「で、何? 妙さん」

「友達ができたんや。こちら、花子ちゃん」


 その時、妙は“人が恋におちる瞬間”を見た。花子ちゃんと多田野君が見つめ合ったのだ。


 実は、花子ちゃんは地味でおとなしいが結構かわいい。スタイルも悪くない。妙が自信過剰なのでそのことに気付かなかったのだ。


「多田野君、なんでボーッとしてんの?」

「あ、ごめん。僕、多田野です。よかったら文芸部に入りませんか?」

「あ、はい。是非……」

「あと……(深呼吸)僕と付き合ってくれませんか?」

「はい! 喜んで!」

「えーっ!」

「じゃあ、中へどうぞ」

「はい」

「あ、ちょっと……」


 図書室の扉は閉められた。



 だが、そんなことでへこたれる妙ではなかった。妙は、1年生の男子全員をチェックして、ランキングリストを完成させた。



「と、いうことやねん」

「またリストを作ったの?」


 カフェ。或る日の放課後、妙は多田野君と花子ちゃんとコーヒーを飲んでいた。


「うん、もうすぐオリエンテーションの1泊研修があるやろ?」

「あるねぇ」

「そこで私は彼氏を作るわ」

「自信満々だね」

「私やで、入学早々私から告白するんやから、まず間違いなく成立するやろ?」

「でも、市井君って、中学の時から付き合ってる女の娘がいるらしいよ」

「嘘! あんた、なんで知ってんの?」

「有名だよ。彼女がかなりの美人らしいよ。彼女の写メ見せびらかしてるよ」

「良かった。先に聞いといて良かった」

「二宮君も、たしか彼女がいるよ。彼女がこの学校にいるんだ。中学の時から付き合ってるらしいけど」

「先に聞いといて良かった-! ほな、三田君は?」

「それは知らない」

「ほんなら、三田君で決まりや! 多田野君、花子ちゃん、私の本気を見せたるわ! って花子ちゃんから応援の言葉は無いの?」

「三田君、この前隣のクラスの女子に告白してたで。OKされて、カップルが成立してたんやけど」

「アカンやーん! 花子ちゃん、なんでそれを早く言わへんの?」

「ごめん、言いにくかった」

「ほな、四谷君や! 四谷君にアタックやー!」



 妙はカフェで吠えた。







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