第2話  僕は小学5年生!

 僕はランドセルを背負って小学校に行った。名札にクラスが書いてあった。自分のクラスはわかった。小学5年生の時、自分が何組だったかなんておぼえていない。


 教室にソーッと入った。教室の中を眺めた。自分の席がわからない。


「崔君、なんでキョロキョロしてんの?」


 声をかけてくれたのは千田貴子、女子のリーダー的存在だ。入学してからずっと同じクラスだった。貴子の若さに驚いた。若いというか幼い。でも、僕よりも背が高かった。貴子は発育が良い。というかスタイルが良いという記憶があったが、間違いは無かったようだ。小学生には見えない。


「いやぁ……僕の席ってどこやったかなぁと思って」

「何を言うてんの? そこやんか」

「そうか、そうやったなぁ、ありがとう、貴子ちゃん」

「なんで“貴子ちゃん”なん? いつもは“千田さん”やのに」

「あれ? 嫌かな?」

「嫌やないけど、なんか調子が狂う」

「嫌じゃないんやったら、今日から貴子ちゃんって呼ぶわ」

「まあ、ええけど……崔君、今日はなんか変な感じ」

「僕は生まれ変わったんや」

「どういうこと?」

「もっと女子と話して、もっと女子と遊ぶねん!」

「どうしたん!? 今までの真逆やんか」

「ええから、ええから。スグに慣れるから」



 休み時間、僕は貴子達女子と話し続けた。昼休みになると、流石に男子達が騒ぎ始めた。僕を冷やかし始めたのだ。


「崔君、女子とばっかり話してる-!」

「崔君、そんなに女子が好きなんか-?」

「俺達よりも女子をとるんか-?」


「そやでー! 僕は女子が大好きやねん!」


 冷やかしていた男子達が言葉に詰まった。まさか、僕が開き直るとは思っていなかったようだ。


「みんなも女子に興味あるんやろ-! 素直になれやー!」


 僕の発言に、女子もビックリしていた。僕は女子との会話を再開した。楽しい。貴子達女子も、僕を受け入れてくれた。盛り上がる。会話に神内も加わる。神内は元々よく女子と喋るキャラで、男子から冷やかされていた。


「崔君が一緒にいるから心強いわ」

「神内、女子と話したい時は、女子と話したらええねん!」


 他の男子は、女子との会話で盛り上がる僕達を見ていたが、もう冷やかすようなことは無くなった。


 

 ここは、大きな分岐点のはずだ。僕は、この頃から女子と全く話さないようになり始めた。結果、中学に入る頃には“女子と何を話したらいいのかわからない病”にかかった。間に合った。小学生の会話なんて、軽くていいのだ。テレビ番組の話とか、担任の悪口などを喋っていればいいのだ。


 それから、僕は女子が見ている番組を見て、翌日の会話のネタにした。当時は気にしていなかったが、女子は数人ずつのグループに分かれている。僕はそのグループをグルグル回り、クラスの女子全員と話すようになった。


 すると、恋の悩みなどを相談されるようになった。それだけ親しくなれたということだから嬉しい。僕は、なるべく的確なアドバイスを心がけた。その誠意が伝わったらしく、僕はますます女子と親しくなれた。


 担任が嫌いで、反抗的な態度ばかりとり続けている女子が担任から責められると、僕は無条件に女子を庇う。とにかく、僕は女子に優しくし、担任の攻撃から庇った。そうすることで、また女子からの人気を得る。


 僕も、その担任とは上手くいってなかったので、今更嫌われても気にならない。女子と過ごしていると、どんどん居心地が良くなっていった。


 すると、他の男子も徐々に女子と話すようになってきた。自分に正直になり始めたのだ。やがて、僕等のクラスは、男女関係無く仲の良いクラスになっていった。



 そして、バレンタインデーがやって来た。







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