第3話 転生

『おい。そろそろ覚醒してくれんかのう』


頭の中から問い掛けられて、意識がはっきりしてくる。


『何だ!誰だ!俺に何が起こってる!』


『おぉ。覚醒したのう。儂はお主の副人格とも言おうかの。この世界の女神スジャータ様に融合されたもう1人のお主じゃ。天界で会った大賢者じゃ。ほれ肉体の制御を移譲するでな。幼子の真似事はもう懲り懲りじゃわい』


肉体制御を移譲された俺は何も感じなかった魂魄の状態から五感が戻って来る。

目が見えて耳から生活音が聞こえて手は小さくなったが握り拳を作っては広げる。生まれ変わった事を実感していると副人格の大賢者が頭の中で話し始める。


『先ずは自己紹介じゃ。お主はアトラス・マグナ・サジタリウス。当年4歳じゃがこの春には5歳となる。

此処の国の第5王子じゃ。この国はサジフォリア王国アルゴニア大陸で3番目に大きな国となる。

お主の親父はボニフェース・ハーフェン・マグナ・サジタリウス国王。

母は第2王妃のヘルミルダ・レラ・マグナ・サジタリウスじゃ。そしてここはその母が充てがわれている離宮でのその名もフィレトス離宮と言う。

どうやら国王の本命は第2王妃の母みたいでな、出自はこの国の公爵家じゃ。その父、レッツブルグ公爵はこの国の宰相を務めておる。

第1王妃は隣国の姫様が嫁いで来ておって、そっちは政略結婚じゃな。ではあるが先に嫁いで10歳の第1王子と8歳の第3王子をがおるし、2歳になる第2王女がいるから国王との仲は良くも悪くも無いように思うが実際は…まあ悪い方へと向かうじゃろうなぁ。

そして、お主の同腹兄で9歳の第2王子ディガンと3歳になる妹のメルフィル第1王女がこの離宮で生活しておる。

側妃も一人おってなその側妃の子供が6歳になる第4王子じゃ。

家族構成はそんなところかの』


それを聞いて日本で生きていた俺は中々の子沢山と思ってしまった。

その説明を聞きながら能々よくよく周囲を見渡してみると、子供部屋にしては広すぎると感じた。

100㎡はありそうな空間に俺の寝ているベッドはキングサイズの大きさがあり執務机も配置され、応接用のベンチソファが4脚に長方形のローテーブルが置かれている。


『そろそろ食事の時間じゃ。お主の専属侍女がやって来る頃じゃ。名前はキャサリン。それとメイドの2名付いておる。赤毛がリサ、茶毛がミランダじゃ。忘れるでないぞ』


『分かった。キャサリンにリサそれとミランダだな。なあ爺さん。あんた何時まで自我を保っていられるんだ』


『分からん。じゃが、今日明日消える事は無いじゃろ。おおよそ後20年前後程は大丈夫じゃろ。その間色々教授していくでな安心せい』


『助かる。それとなんて呼べば良いか分からないから喋り方で爺さんと呼んで良いか?』


『呼び方なんぞ何でも良いわい。もう死んどるしお主の一部であるからのう。儂の知識は全てお主のもんじゃ。魔術、武術全般、魔法陣、医術、薬術、錬金術、鍛冶も習得しとるぞ。算術や学術はお主のほうがより深く習得しているようじゃが…。素晴らしいのう。お主の居た地球と云う星は文明が発達しておったんじゃなぁ。』


『分かるのか?』


『魂魄が融合しておるんじゃ。知識は共有される。良いのうこの電力と云うエネルギーは。これは雷と同質のもんかのう』


『そうだな。それを使って道具を動かしている』


『これは魔力に置き換えて作れる物でもありそうじゃのう。こりゃ消滅するのが惜しくなってしまいそうじゃ』


『だったら何時までも…。何なら死ぬまで一緒に居てくれりゃあ良いじゃねぇか。』


『そうは行くまい。しかし先の話じゃそれまで研究して行こうではないか。協力してくれ』


『俺の出来ることなら何でも協力させて貰うよ。でも研究する場所と道具はどうする?』


『ふぉ、ふぉ、ふぉ。大丈夫心配いらんぞい。ちゃんと国王におねだりして隣に勉学室と称して用意してもらっておる。材料は儂のと云うか過去からの引き継いでおるアイテムボックスに過去収集した鉱物、薬草、素材が山程あるからそれを使えばええ。と云うか儂、何でも収集してしまっておるから何でも入っておるぞい。アイテムボックスは無制限で時間停止の優れもんじゃ。それにアリバイとして書籍も用意してもらっておる。それも有効に使うが良い』


そんな脳内会議をしているとベッドの向かいにあるドアがノックされる。


「はい」と返事をすると侍女であろう女性と赤毛のメイド服を着ている女性が配膳カート引いて部屋へと入って来る。先に入って来た侍女から挨拶の声を掛けられる。


「アトラス殿下。おはようございます。相変わらずお早いお目覚めですね。お寝坊しても宜しいのですよ。アトラス殿下の可愛い寝顔を拝見する機会が無くて私達は残念なんですから。ねぇリサ」


「アトラス殿下。おはようございます。本当ですわ。キャサリン様」


「キャサリン。リサ。おはよう」


初めましての顔ぶれだが、ここはいつものような雰囲気を出して朝の挨拶をする。すると2人は俺の顔を驚愕しながら見てくる。


「リサ!聞きましたか!殿下が朝の挨拶を返して下さいましたわ!」


「キャサリン様。私もこの耳ではっきりと聞きました。なんと喜ばしい事でしょう。後でお祝い致しましょう」


侍女のキャサリンとメイドのリサがキャ、キャと楽しそうに話していると開けっ放しの扉からもう一人のメイドであるミランダが、


「お二人で扉も閉めずに何を騒がれているのです?廊下に響いていましたよ。さっさとお支度をしませんと殿下がお困りですよ。 殿下、おはようございます。今すぐ朝のお支度を整えます。お待ち下さい」


「「殿下。申し訳ありません」」


ミランダに指摘された2人は恐縮して、キャサリンは服の準備を始め、リサは食事用のテーブルに朝食を配膳する。ミランダは水の入った水桶と手ぬぐいをサイドスタンドに置き、


「殿下、こちらでお顔をお願い致します」


俺は言われるままに水桶の水を掬って顔を洗おうと水桶を覗くとそこには銀髪碧眼の子供がこちらを見ていた。俺は思わず自分の顔を触ってみると水面に映った自分であろう顔も同じ仕草をする。


(これが俺か!)


思わず叫びそうになるのをグッと抑えて、何事も無かったかの様に顔を洗う。

そして、恥ずかしながらもミランダとキャサリンに寝間着を脱がされ、用意された服を着させられる。

着替えが終わると食事のテーブルに移動しリサに引かれた椅子に着席すると食事を始める。

食事は、ミルクスープと少し硬いパンそれにベーコンとスクランブルエッグ、それに緑黄色の野菜サラダに、果実水。

それを時折テーブルマナーをキャサリンに指導されつつ食べ終えるとキャサリンから、


「殿下。本日も勉学室でお勉強なさいますか?」


と聞いて来たので、


「ああ」と返事をすると、


「それでは私達はお昼まで、下がらせていただきます」


そう告げて部屋を退出していった。

扉が閉まり誰も居なくなった部屋で副人格の爺さんに心の声で問い掛ける。


『爺さん。朝の挨拶を返したら驚かれたが、返事を返していなかったのか?』


『まあ…、そうじゃな。下の者に挨拶されてもきちんと返事を返す事は無かった。面倒くさいじゃろ。』


『朝の挨拶ぐらいしようぜ』


『もう儂関係無いもん』


『もん。じゃねえよ。他に無いだろうな~』


『未だ幼児じゃし。その辺は誤魔化せるじゃろ。儂あんまり喋らんかったし、問題無い』


俺はそれを聞いて思わず溜息を付いて、


『まあ良いや。これから俺の流儀でやるとするわ。後、俺が知っておかないといけない事はあるか?』


『そうじゃなぁ。おっと忘れておった!護衛が1人扉の前で待機しておる。金髪のがっちりしておる騎士がヴァレミと云う者で赤みがかった銅髪の優男がホルツじゃ。一応専属の騎士達で日中は常にどちらかが付き従っとる。といっても儂の行動範囲はこの部屋と勉学室しか無いから常に扉で待機じゃがな』


『了解。では勉学室に行くとするか』


脳内会議を終えると自室を出て隣の勉学室に移動した。

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