第24話 町に着いたら

 森での一騒動はあったが、僕らは無事にガリアの町へと日の沈む前に着いくことができた。西日を背に振り返ると街道があり、その傍に森がある。森の中には再誕の神殿があり、街道の先には僕らの居た孤児院がある集落があるはずだ。


「……昨日、旅に出てようやく次の町か」

「あの孤児院で暮らしてたのも懐かしいねー」

「そういえばヘージたちのいた集落はなんて名前なのよね?」


 本来なら何事のない街道の移動だったはずだが、色々とあり一昨日までの日常が遠い過去のように思えた。そんな僕らを見てふと孤児院のあった集落の存在を知らなかったアリアさんが名前を尋ねてきて違和感に気が付いた。


「なぁサクラ、僕らのいた集落ってなんて名前なんだ?」

「うーん、……わかんない!」

「そっか。サクラも知らないか。結界があったにしてもアリアさんも知らなかったわけだから、あの名もなき集落も世間的には隠されてるのかも」


 山岳に囲まれた森の中を通る道一本のみで繋がれたはまるで何かを護っているようなそんな気がした―――。



「僕ら本当に旅に出たんだな」

「うん。こうして知らない町に着くと実感するよねー」


 町名が書かれた木製の門を前にして、旅に出たという実感がふつふつと湧いてくる。



「スノリェのやつ大丈夫かな? 小さい子らの面倒ちゃんとみれてるかな?」

「も~、お兄ちゃんは心配性だな~。大丈夫だよ、スノちゃんなら」

「けど僕らがいなくなったらアイツがあの孤児院で一番年長になるんだろ? 血は繋がっていなくてもアイツも妹だからさ……」


 最年長になった青髪の少女、スノリェは毒舌ながらも思いやりを忘れない心優しい妹だ。だけど孤児院を思い出したら彼女にセリアかーさんと、小さい子たちの面倒を託したことが急に心配になってきた。


「あの子はツンデレなだけだから。きっとしっかり者のお姉ちゃんしてるよ。あっ、そのうち手紙でも送ろうよ! きっとみんな喜ぶよ」

「……そうだね。旅に出るって決めたのは僕たちだもんな、ならスノリェを信じて土産話と特産品でも送ってあげた方いいよな」

「特産品ってお兄ちゃん……、わたしたちお金に余裕はないから稼がないとだよっ」



 心配する気持ちからこの先のわくわくに気持ちを入れ替える。まだ知らぬ土地や出会い、出来事に思いを馳せて門を通って町へと入った。



「よしっ。それじゃあ、まずは―――宿屋へ行こう!」

「はいなのよねっ」

 

 ぐぅぅぅ……。


「早くご飯食べたいー。ファガリア食べたいー!」


 日も沈みかけているし宿を確保することを最優先にしたところ、アリアさんが元気よく返事をする。しかし、サクラはお腹の虫が鳴いていて空腹の限界のようだった。



「しょうがないなー。じゃあご飯にするかー」

「やった! デザート頼んでもいいよねっ!? ファガリアのショートケーキ食べたい!」

「……それくらいならいいけど、夜に食べると太るぞ?」


 ファガリアを使った料理の値段はわからないが、まだお金には手を付けていないし支払いは大丈夫だと思う。だけどサクラは好きなものは際限なく食べようとするので食べ過ぎには注意をしておいた。


「大丈夫だよっ! 太りそうになったら栄養をその辺りの草花にわけてあげるからっ!」

「ちょっとサクラさん!? それ魔法の無駄遣いだからやめようよ! 草花さんも栄養の押しつけは迷惑かもしれないからさ!」

「あははっ、ほんと仲良しなのよね」


 甘やかす兄と、甘えん坊の妹。それを見守るお姉さんに周りからは見えたのかもしれない。じゃれ合いながら歩く僕らとすれ違った人からは『微笑ましいわね』と、暖かい言葉と微笑ましいもの見るような視線も感じた。


「―――うん、とってもいい町だね。明日は楽しい一日になりそうだ」

「ヘージが何か言ったのよねっ!」

「何でもないよ!」

「今日はまだ終わってないのよねっ!」

「ちょ、なんか恥ずかしいからやめてー!」



 アリアさんとも気軽に話せる関係になったのは神殿で共に死線を越えた間柄だからだろうか。きっと出会って一日の関係だとは周りの人は思っていないだろう。


「そんなことよりもアリアさんのオススメの店ってあるの?」

「任せてなのよね! 夜に行くのは初めてだけどランチでほとんどの店は回ったのよね! もちろんファガリアが凄く美味しかったお店も知ってるのよね!」

「ねっ、はやくそこ行きたいよー! アリアさん案内お願いっ!」


 サクラに急かされたアリアさんを僕が笑いながら、三人でファガリア料理を求めて町へと溶けて行った。

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