第23話
尚美が連れてこられた先は見たこともないほど大きな日本庭園で、義理妹さんに抱っこされながらそれを見た時全身が凍りついてしまった。
お屋敷にしか見えないその大きな門をくぐり抜けると右手に豪華な日本庭園が広がっていて、ひだり手がひとつの公園のように遊具に囲まれたスペースになっていた。
ちなみに、駐車場はまた別にある。
都内でこれだけの広さの邸宅を持っているなんてとんでもないお金持ちだ、
健一が優秀でお金を持っていることは知っていたけれど、実家がこれほどまでとは思っていなかった。
「お義理母さんただいま」
ガラガラと玄関の戸を開いくと中からトトトッと足音が聞こえてきて5歳くらいの男の子が出てきた。
そしてミーコを見た瞬間白い頬がピンク色の染まる。
きっと、裕太くんだ。
「ママ! その猫なに!?」
「健一さんが飼っている猫でミーコちゃんって言うの。退院するまで預かることになったのよ」
説明しながら尚美を裕太へ手渡す。
裕太は乱暴に尚美の体を受け止めるとおもちゃみたいにぎゅーっと抱きしめた。
力加減を知らない子供に骨がミシミシと悲鳴をあげる。
「こら裕太! ミーコちゃんが痛がるようなことしちゃダメでしょ」
「はぁい!」
わかっているのかいないのか、尚美はそのまま裕太に連れられて屋敷内へと入っていくことになったのだった。
☆☆☆
見れば見るほど豪華な家だ。
ミーコが通されたのか家人の生活スペースだったけれど30畳はあるような和室に重厚感のあるテーブルがドカッと置かれていて、座布団はクッションみたいにふかふかだった。
和室の奥には飾り棚が置かれていて、そこには高級そうなツボがいくつも並んでいる。
あれにだけは近づかないでおこうと、心に決めた。
「ミーコのトイレはここね。こっちはご飯を食べる場所」
裕太が健一の部屋から持ってきたミーコの道具たちをセッティングし始める。
幸いミーコはこの和室で寝起きすることになるみたいだ。
この広い屋敷内のあっちこっちを移動しなくてすむことにひとまず安堵する。
「あら、キャットタワーは縁側の方がいいんじゃない?」
義理妹さんがそう言ってふすまを開けると日がよく当たる細い縁側が現れた。
ここで昼寝をしたらぽかぽかしていてとても心地よさそうだ。
裕太くんが義理妹さんと一緒にキャットタワーをセッティングしている間に尚美は水皿へと向かった。
さっき弟さんがホットミルクを作って入れてくれているのだ。
今日最初のご飯でもあるそれはまだ少し熱かったけれど、とても美味しくて健一に拾われた日のことを思い出す味だった。
「さて、これからのことだけど、どうする?」
そんな声にふりむくと弟さんと父親が真剣な顔で座っている。
その隣にはお母さんもいるけれど、顔色が悪くて元気がない。
自分の子供が入院して手術までするのだから穏やかじゃないのだろう。
「とにかく健一が元気にならないと」
尚美もお母さんの意見と同じだったので思わず「ミャア」と鳴いていた。
「手術の日程が決まったらまた連絡してくるから、それまではわからないな」
「ガン、なんでしょう?」
父親の言葉に反応して母親が聞く。
ガン!?
尚美の心臓がドクンッと跳ねて止まりそうになってしまう。
あのとき、おばあちゃんのお見舞いへ行った時と同じ匂いがした。
おばあちゃんは、末期がんだった。
「胃ガンだ。でも一部を切除すれば大丈夫らしい」
医師にも説明を聞いたのだろう、父親がしっかりとした口調で言った。
胃ガン。
日本人のガンで多い部類に入るものだ。
朝から番まで働いて、帰ってきて適当に食べて寝る。
そんな生活を続けていた健一のことを思い出す。
会社での立場もあるし、独り身で食生活が乱れていたことも関係しているのかもしれない。
尚美はジッと自分の前足を見つめた。
もし自分が人間でいられたら、料理くらいいくらでもしてあげることができたのに……!
「兄貴は冒険家だからこの家にすがりつくこともせずに自力であそこまでのし上がってきたんだ。その結果がこれかよ」
弟さんが悔しそうに唇を噛みしめる。
やっぱり、この家はなにか企業をしているのだろう。
ここにいて守られていれば負担がかかることはなかったはずだ。
それでも健一は自分の道を突き進み、そして毎日あんなに優しくしてくれいたんだ。
そうと分かると涙が滲んでくる。
優しいあの人をどうにかして助けてあげたいと願ってしまう。
「健一が務めているのは自社の小会社だ。そこから引き抜くことはできる」
「そうだな。兄貴が落ち着くまではこっちの手伝いをしてもらったほうがいいと、俺も思うよ」
そんなことをしたら、会社で健一に会えなくなってしまう!
そんな不安が一瞬よぎったが、今尚美は会社に行ける身ではない。
それにやっぱり健一にとってなにが最善なのか、考えるべきだった。
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