好きを好きと言って何が悪い。

¿?

問.僕の死に際は美しいのか。

昔から異常だと言われ続けてきた。

命が失われるその瞬間が大好きだった。


初めは家で飼っていた子犬からだった。

寿命でふらふらと歩き僕の膝へと乗ってそのままそっと息を引き取った。

そのとき家にいたのは僕一人だった。


なぜかそのとき僕は子犬が死んで悲しいはずなのに高揚した気分になった。

それからなにかと僕の周りで動物やらなにやらが死んでいくことが多くなり、そのたびに死体や死に際を見た僕は確信した。


生きとし生ける者たちが最も美しい瞬間と言うのはその者の死に際であると。


でもこんなにも周りで動物は死ぬのに僕は人の死に際を見たことがなかった。

それが見たくて僕は軍人になった。


軍人になれさえすれば人が死ぬところをたくさんみれて、僕の幸福感は満たされると思ったから。


そして上り詰めてしまった。

これ以上はこの軍を乗っ取る以外にはないぐらいに。


僕の行動を監視するための私営軍部隊までつけられて。

そんなに監視しなくてもなにもしないよ。

人の死に際が見たかっただけなのに。


だから戦争に参加したいというのに「君は最終防衛ラインだ」だとか抜かされるし、なんなら君が出てしまってはすぐに終わってしまうだろうなどと宣う始末。


確かに僕の狙撃の腕はもはやおかしいレベルだがさすがにまだ人だぞ?とは思う。


肩にかけているジャケットを掛けなおそうとしたときそれは起きた。

自分の足元が妙に明るいことに。

なぜか焦っている部下たちに。


死ぬとでも思っているのだろうか?

だがこの程度では僕は死なないだろうな。


まだ僕が見たい瞬間じゃない。

死の匂いがしない。


ここじゃない。


ということはこれは何かしらの仕掛けと言うことの可能性が高い。

となれば、一人で赴いた場合敵が大量にいれば殺せないこともないだろうが、死に際の観察に目が配れない。



そういえば少し前に質問をしてきたやつがいたな。


「隊長はどうして軍に入隊されたんですか?」


「僕? 人の死に際がたくさんみたかったからかな?」


「俺と一緒ですね。俺は合法的に大量の人を殺したくて入隊したんですよ」


赤髪が特徴的な戦闘狂の。


らいっ! 来い!!」


「隊長ならそう言ってくれるって信じてたぜ!!!」


彼の手を掴んだ瞬間に僕の意識は落ちた。




「……った! ……だ!!」


「……ぅるせーな。殺すぞ」


ぐらぐらと揺れる頭を抑えながら起き上がると僕は來の膝で寝かされていた。

その事実に脳がフリーズした。


「え? なんで?」


「おはざす~隊長。隊長って寝起きスゲー機嫌悪いんですね。初めて知りました」


肩にかけていたジャケットは身体にかけられていた。

それを立ちながら肩にかけなおす。


「で? ここはどこだ?」


「あいつらを問い詰めたらわかるんじゃないっすか?」


成功だ、なんだと騒いでいるあまり見かけない服装の奴ら。

法衣のようなものに身をつつみ錫杖を手にしている少女。

それに付き従う様々な年齢層の男女。


そしてひと際年齢層が上であろう一人のジジィ。


「來。周りの奴らの気絶とあの少女の保護を頼む」


「りょ~かい。隊長は?」


はあのジジィを愉しいオハナシしてくる」


腰のホルスターから拳銃を取り出す。

マガジンが入っていることを確認するとそのまま口角が上がっていくのが分かる。

走り出すとやつらも気づいたのか守りの体制に入った。

だがそれで俺と來を止められるはずがない。


途中にある階段をパルクールの要領で少し回転しながら飛び越えるとそのまま一番奥のジジィの前に降り立った。

安全装置を外した拳銃をそのまま額に押し付ける。


「ここはどこだ。答え次第によっては殺す。嘘はつけないと思え」


「天災の雷よ……」


「おい、ジジィ舐めてんのか? させるわけねぇだろ」


額に押し当てていた銃をそのまま口の中に入れる。

ふがっと苦しそうにするそいつは口呼吸できない苦しさからか目じりに涙が溜まり、鼻水も出始めていた。


「次、同じことしてみろ。次は殺すからな」


「っはぁ!! お前たちは力なき世界の者たちではないのかっ!??」


來が交戦していたであろう方向から質問が飛んでくる。

気絶させようとする來を制し、もう一つ銃を取り出しジジィからは目を離さずにそいつの方に銃口を向ける。


「どういうこと? 『力なき世界の者』って」


「私たちは異世界召喚をしました。他国も多分同じように異世界召喚をしているはずです。魔王と言うこの世界の巨悪を倒していただくために。そして召喚される者たちは必ず『力なき世界』から来るのです。争いがなく銃や剣、魔法がない幸せな世界から」


だとすれば。


「俺たちは軍人という役職の者だ。この役職の者は戦争に従事している。つまりは君たちとなんら変わらない力を持っている。そこにいる來ともども銃が専売特許ではあるな。まあ來は近距離。俺は遠距離だが」


「軍人……? っ! 今すぐルーム8の子たちを連れてきて。同時進行させます」


「おいおい、話が見えねぇぞ」


そういうと少し離れたところにいた少女が頭を下げたのが気配で分かった。


「失礼いたしました。先ほどまでのご無礼をお詫び申し上げるとともに説明に虚偽を織り交ぜていたことを謝罪させていただきます。私たちは先ほど異世界召喚を他国もしていると伝えましたが正確には権利書を勝ち取った国がという枕詞がつきます。そして私たちが勝ち取った権利書は。この意味が分かりますか?」


「俺たち以外の集団的な召喚が行われた者がいるということだろ」


「そうです。そしてその集団はあなた方より1時間ほど先に目覚めています。彼らは力なき者で『学生』という身分だとか」


思わず頭を抱えそうになる。

学生だと。

あの平和ボケした学生だと。

最悪だ。


「おいおい、俺の隊長様が頭を抱えちまったぞ。どうしてくれんだよ」


「学生と言うのはそんなにも悪い者なのですか?」


「いいか嬢ちゃん。学生ってのは俺たち軍人が戦争して1日、1日を必死に生きている中でそれを知らずに自由を、平和が必ず明日も来ると信じて疑わない連中のことだ。簡単に言うと平和ボケしたクソガキ共ってことだ」


「いや、いいよ。仕方ないさ。仕方ない。ここは受け入れるしかない。落ち着け、。切り替えろ」


死に際が見たい僕にとってこれは好都合だろ。

アイツらは数だけは異様に多いんだから。

ただ美しくはないかもしれない。


「來、とりあえず情報収集をする。お前は街に行って観察してきてくれ」


「りょーかいです。隊長は?」


「印象付けって大切なんだよ。上司とかにしていたやつを今度は年下の平和ボケしたぬるい奴にするだけだからよゆーだよ」


來はくすくすと口元を抑えると近くの窓から飛び降りた。

ここにいる人の何人かが止めようとしたが現役の軍人に勝てるわけもなく目の前で落ちていくのを眺めるだけになっていた。


くるりと向き直ると笑顔を浮かべる。

顔の筋肉の酷使をしなければならないということに辟易とするが、そこは努力次第。

努力で救われるのならその努力を惜しむことなくするだろう。


この建物は縦にどうやら長いようだ。

しかも上だけではなく下にも長く、長さで言うと下の方が長いのだとか。

結構な機密情報をこの聖女様とやらがご丁寧に全て語ってくれた。

それともこれは全然機密情報ではない、もしくは全くの嘘。

全ての可能性を考慮しなければならないのは面倒だが信じるよりかは疑うほうが自分の生存率は上がる。


それにあの餓鬼どもがいるとなると情報の取捨選択は自分で行わなければならない。


「浮かない顔ですね。そんなに彼らのことが気に入らないのですか?」


「気に入らないというか、僕とウマが合わないんだ。平和ボケした連中と毎日戦争している軍人。言わなくても分かるだろう。君は聡いはずだから」


察しがよければこれすら言わなくても済むのだけれどね。


「こちらです」


「何人召喚されているんだっけ」


「18人の男女です」


これまた変にキリの悪い数字だね。

まるで何人かが切り捨てられたかのようなそんな数字。

元々いじめがあったか、何らかの条件から除外されたか。


鎌をかけてみるか。


「……18人ですか。キリが悪いですね」


「……っえぇ。どうやら転校? してしまった子がいるらしく人数が変らしいです」


頬の痙攣。

どもり。

驚き。

瞳孔。


嘘だな。

分かりやすくて助かる。

嘘だと分かっていてもこれ以上の情報はこの聖女から取れるとは思えない。


目の前の扉を3度ノックする。

向こう側から好青年と受け取れるような明るい青年の声で返事を返された。

そのまま扉を開けると、机と椅子があり各々が自由行動を取っていた。


「みなさま、こちらが先ほどご連絡させていただいた」


「第1部隊 迎撃隊 参謀総長である! ……要は君たちで言う陸軍の軍人ってワケ。同じく召喚されたわけだし仲良くしよーよ」


「軍人……! はじめてみた! 初めまして俺たちは狗山高校の2年B組です。人数は……っ! ……じゅ、じゅう……はちにん、です。質問などがありましたら、俺に聞いてください」


なんだこの違和感は。

かなりどもったな。

それにこっちを見ながらビクついた。

聖女に関係があるな、これ。


誰かがやっぱり追放か何かされている気がするな。

もしくは会えない状態にされている。

人質?

考えてもしょうがないよな。


「本当は僕ともう一人いるんだけど、今街を見てきてってお願いしたからしばらくはいないけど多分夜ぐらいになったら会えると思うよ。來っていうから名前だけでも覚えててあげてね。……さて、平和ボケした諸君。明日がない世界はどうだ?」


「っ!! 俺たちは、弱いです。この世界でも、前の世界でも」


上出来だ。

これでまだ自分の立場を理解していなかったら殴っていたところだ。

問題はこの後ろの聖女だ。


こいつが巨悪だろう。


「そうだ。僕にこの施設を案内してくれないか? 召喚されたもの同士積もる話もあることだしね」


「では、私は業務もあることですしここで一旦失礼させて頂きますね」


聖女が部屋を出ると、みなが大きく息を吐きだした。

常日頃から持ち歩いているメモ用の折りたたまれた紙を取り出し、新しいページにさらさらと字を書いてみる。


<字は書けるか? またこの字は読めているか?>


こくりと相手が頷いたのを確認すると次を書き出してみた。


<あの聖女に何をされた?>


震える手で描かれていく内容は凡そ予想の範疇だった。


<クラスメイトの1人が人質。もう一人が追放されました>


<追放された者、人質にされた者の所在地は?>


<わかりません>


徹底的に隠している。

こいつらを信じるとしたら。


情報の精査をさせるしかないか。

業務がたまりはじめたな。


「……なるほどね。とりあえずは僕たちに任せてくれ。君たちはこの世界を生き抜く力を身に着けることを先決とすることだ」


これで印象付けは完璧だろう。

簡単なお仕事だ。

さてと來は上手くいっているかな。

肩に上着をかけなおし、その部屋を出た。

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好きを好きと言って何が悪い。 ¿? @may-be

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