第6話 悪夢
完全に日が落ちた。
先程まで響いていた音がパタリと止んだ。
夜の港は風も波音もしない。
周囲が暗闇に溶け込んでいた。
「急に怖くなるじゃん…」
急に静寂になったその場所に到着した俺はスマホのライトをつけた。そこは外来魚の回収ボックスが置いてある場所だ。
光を照らしながら周りを確認する。
そのボックスの脇に猫が1匹倒れてた。
大きさは60センチくらいで子猫というより普通の猫に見えた。
微動だにせず、所々に血のようなドス黒い汚れもついている。もしかしたら、怪我でもしているのかもしれない。
猫の横腹だけが、微かに動いていた。
しかも“怪猫騒動なるものが話題になってる町の港”でだ。
もしかしたら、この猫は怪猫に襲われてしまったのかもしれない。さっきの唸り声はその時の悲鳴なのではないか。そうだとしたら、早く処置をしないとこの猫が死んでしまうのではないだろうか。
それよりも人をも襲う化け物が近くにいるなら俺も早く逃げた方がいいんじゃないか。
俺はスマホのライトを消して、何事もなかったようにその場を後にしようと身体を動かした。
だが、こんな時に、俺は昔のことを朧げに思い出し始めた。
俺がまだ小学生の頃だ。
俺は友達数人で、川に釣りしに行った。
遊びに遊んで、夕暮れ時に友達の1人が川辺で母猫の死体と2匹の子猫を見つけた。
そのうち1匹は俺らで川辺を散歩していた人に声をかけて、なんとか引き取ってもらった気がする。でも、1匹の子猫だけはもう息しているかわからない状態だった。
暗くなってもう人の気配もなくなり、俺らはその猫をその場に置いていくしかできなかった。
そう、俺は子猫を見捨てた。
「最悪だ…」
俺は真っ暗闇の中で自分の嫌な過去と今の状況の二つにぶち当たった。
昔のように無視すればいい。
見なかった事にすればいい。
だが、あれから十何年経った。
そして、俺の手にスマホがある。
俺はすぐにスマホを開いて、地図のアプリから土乃浦の動物病院を探した。
すると、亀城(カメジロ)公園近くに一件ある。
他の病院も探してみたが、近場でやっているのはそこだけのようだ。
地図のアプリに電話のボタンがあったので、すかさず押した。
「はい。亀城動物病院です。」
甲高い声の女性が出た。
俺はことの事情を話した。
「かしこまりました。至急、対応いたしますのでこちらに来ていただけますか?」
真っ暗な闇の中、竿を持ちながら猫1匹を抱えて駐車場まで走った。
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