第4話

数日後、ルノルドは今まで運ばれてきていた機械の修理を終え、店の玄関に初めて『お休みをいただきます』と書いた紙を貼った。

「しばらく休むぜ!いや、これも仕事だが!」

「……」

「ヤス!留守は頼むぜ!」

力強く、ヤスの肩を掴んで揺さぶる。

「をををををを〜星が見えるわあ」

「オジサマ、僕も後でストワード中央に向かうよ。久し振りにシャフマに帰ってきたからね、もう少し休んでからストワードに戻るよ」

アナディも後で合流してくれるようだ。頼もしい。

「わかった。ストワード中央に着いたらランチェスに言っておく。おい!ヤス!いろいろ頼むぜ!」

「……分かったわあ。ふああ〜」


「よーし!行くぜ!」

リュック一つを背負って東へ走り出すルノルド。

「俺の信念、理解らせてやるぜ!」




―その日の夜。


ルノルドは、西へ引き返していた。

「やっぱりツザール村で踊っておこう。食いたい物もあったし」

今晩は口うるさいヤスがいないのだ。好きなだけ遊べる。

(一日!一日だけだぜ!)


(……と、その前に)

西に向かって指差し。ニヤリと口角を上げる。

「オアシスに行くぜ。水浴びでもしておかないと、女に嫌われちまうからなァ」

少年の姿になり、オアシスに向かって走る。この姿ならば全裸で水浴びしていようと何も言われない。ヤスには秘密だ。



オアシスに到着し、伸びをする。

「向こうには海か……」

ここから更に西に行ったところには海がある。ツザール村より西。オアシスの向こう。

(海の向こうには何があるのか。こんなに技術が進んでいても、俺には分からない)

(俺たちのような人間がいるのか?海の向こうにも)

(どんな言葉を話す?どんな顔で笑う?)

ルノルドは砂漠に仰向けになり、目を閉じて想像する。


(男は、俺やヤスのような顔のヤツもいるのかもな)


(女もいるよな?……この大陸の女よりもセクシーだったりして、)


(服も、この村の踊り子よりもずっと露出が高いのが普通だったら、)


そこまで考え、ハッと起き上がる。


「だーっ!!!そんなことを考えるためにここに来たわけじゃないだろう!俺!」


そうだ。オアシスで水浴びをしようとしたのだ。すっかり煩悩に溺れるところだった。

「紳士に振る舞うためにも、まずは水浴びだぜ!」

服を脱いで、思いっきりオアシスに飛び込む。水飛沫も、少年の体ならば半分で済む。

「ぷはーっ!気持ちいいぜ!」

満天の星空を見上げ、目を細める。

「……あんなに星があるんだから、他の大陸に俺の好みの女がいる可能性だってあるよな」


「決めた!ストワード中央で『壊れない機械』をつくったヤツをぶん殴った後は、他の大陸に行くぜ!!」


「……いや、そんなことは無理だな。俺の仕事はまだまだたくさんある。仕事を増やすために殴りに行くんだった」


自分には一生無理だろう。この大陸から出ることは。

それで良い。300年の人生ならば、寿命の中で精一杯生きれば良いのだ。

「さて、そろそろ上がるかね……。ん?」

着ていた服を脱ぎ散らかしたところに誰かがいる。服を触っているようだ。

「しまった。女がいる……仕方ない、ここは、無邪気な少年の振りをして……んん゛っ」

咳払いをする。声の調子を整え、無邪気な少年の顔をつくる。

「おねえさん!それ、僕の服だよ!」

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