第25話 ファーレンという人物

「キハネ! ついたよ」

馬車が止まったと思って数秒だか、数十秒だかしたらファーレン様がドアを開いて、無邪気な笑顔を見せた。

ファーレン様は私よりも幼く見えるのだが、騎士として働いている。一体何歳なのだろうか。

ファーレン様の手でエスコートされて馬車を降りると、それはそれは立派なお城が建っている。

本物は見たことがないが、イメージはシンデレラ城のモデルになった、ノイシュバンシュタイン城の様だ。白と青で構成された美しいお城。

窓から見た平原からここまでの道のりは意外にも長かったらしく、空は夕暮れより少し太陽が沈んだ時間。黒に近い青が空を飲み込んでいる。ライトアップ、というか、普通にお城の明かりだけでも、厳かな雰囲気が漂う。

このお城を取り囲む、いわゆる城下町。おそらく首都に入ったようだが、その街並みは本当に中世ヨーロッパを彷彿とさせる。

街の女性はエプロンドレス。カゴに買い物をした食材を入れ、井戸で洗濯をして、井戸端会議。

男性はシンプルなシャツに、ネクタイをしている人がいたり、薄手のジャケットを羽織っている人がいたり。

服装は意外にも小綺麗だ。この国は国民を大事にしているのか、住民たちは皆笑顔で服装も綺麗に整っている。国の裕福さを目の当たりにした。

この国なら、アオちゃんに酷い扱いをすることもないかもしれない。まだ言い切ることはできないし、気を抜くこともできないけれど。

道は街を取り囲む門を超えたあたりから、レンガ造りになった。カタカタと音を立てて動いていた馬車は、馬の蹄の音なのか、コトコトと小気味良い音を鳴らし始めた。

その城下町も広く、お城に着くまでに結構かかった。この世界に時計があるのかもわからないし、前の世界と同じ刻み方かもわからないが、三時間は城下町を走っていたと思う。

うっとりと見惚れてお城を見上げていたら、ファーレン様が説明をしてくれた。

「綺麗だよね、この城。この城はイストワール城って言うんだ。さっき通ってきた街がヒストリア王国の首都・パラディオ。今度、案内してあげる。とりあえず、城に入ろうか」

少し先ではフェリックス殿下がアオちゃんのエスコートをしてお城の長い階段を登っている。

「フェリックス殿下、絶対アオノ様のこと気に入ってるよねぇ」

二人の背中を見ながらこそっとファーレン様は耳打ちする。

「アオノ様は前の世界で婚約者とかいなかったの? この世界では絶世の美女だけど。もしかして前の世界ではそうでもなかったりする?」

そこまで言って、ファーレン様は「他意はないよ!?」と必死で弁明する。

私は思わず俯いて笑う。私なんかの顔を見ても嬉しい人はいないはずだ。

「いえ、アオちゃんは前の世界でも人気者ですよ。私がいるからか、婚約者はおろかお付き合いしている方もいませんでした」

ファーレン様の横はかなり居心地がいい。私の歩幅に合わせて歩いてくれるし、声も優しい。会話だって、私に配慮して話しやすい話題選びや、盛り上げ方をしてくれる。

ーー人気者、なんだろうなぁ。

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