第18話 その強さに、憧れていた
「これ以上何かをするなら教師を呼びますけど」
「いいよ。逃げるなら逃げなよ。でも高嶺ちゃん腰抜けちゃってるけど、大丈夫?」
振り返る貴羽。私はいつの間にしゃがみ込んだのか、歩けないどころか、立つこともままならない。
「教師を呼びにいくなら、その間に高嶺ちゃんボコボコにしちゃうけどいいの?」
嘲笑うような声だ。毅然と立ち向かう貴羽が、頼もしい。ああ、涙が溢れてくるようだ。安心感からなのかはわからない。
「まあ、番犬ちゃんが、うちらが満足するまで相手してくれるなら、高嶺ちゃんには手は出さないよ。選んで?」
「え〜ひどすぎ〜」
センパイは楽しそうだ。そんな下衆い会話にも余裕そうな雰囲気で立ち向かう貴羽は、誰が見てもかっこいいだろう。しゃがみ込んでしまった私からは、その表情も見える。貴羽に恐怖心はない。
私の視線に気がついたのか、こちらを見下ろして微笑む。すぐに視線をセンパイへ向けて、答えた。
「好きにしてください。アオちゃん、ちょっと目を閉じていてくださいね」
貴羽は私に覆い被さる。私より低い体温が、今は少し暖かく、その温もりにギュッと包まれた。走ってきたのか、少し汗の香りもする。
すぐに笑い声と共に鈍い音が連なる。
「貴羽! お願いどいて! なんで私のためにそこまでするの? いやだ、貴羽!」
また私のせいで貴羽が傷ついてしまう。小学生だった頃を思い出す。私の軽率な行動で貴羽が傷つくのは、もう何度目か。
私よりも小柄なくせに。本当ならこのセンパイたちから逃げるのは簡単なはずなのに。
「アオちゃん、大丈夫ですよ。友達ですから」
そう言って微笑むが、影になっているせいか、痛みのせいか。顔色は少し悪い。
「かっこいいねえ、番犬ちゃん」
「いけめ〜ん! キャハハ」
ドス、ガス、バチン。鈍い音が重なる。
しばらくして。
私はもう声も出ないほど胸が苦しい。
朝礼が終わるチャイムが鳴った。
「はぁ? もう終わり?」
「バレるよりはマシでしょ。いこ」
「っち。泣くところ見たかったのに」
センパイはゾロゾロと不満げな会話をしながら去って行く。
暴力を受け続けている間、貴羽はずっと微笑んで私に声をかけ続けていた。
「アオちゃん、怪我はないですか?」
「何言ってるの……? それは私のセリフだよ! 早く保健室!」
しゃがんで貴羽が抱え込む形で匿ってくれたおかげで、私は無傷だ。でも貴羽は、額から軽く汗を流している。
「今は、少し動けないので、アオちゃんは先に教室に戻ってください。よかった、アオちゃんに、怪我がなくて」
この後に及んで自分のことは気にしない貴羽に苛立った。
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