第4話 広がるカツアゲの輪と跳ね上がる金額
大矢を中心とする扇台中のヤンキーグループに目をつけられてカツアゲされ、学校へ行けなくなってしまったほど追い詰められた一成の家は決して裕福ではない。
大黒柱の父親は死んでいるし、父の死亡保険金が入ったとはいえ母親はパート勤めなのだ。
大矢たちはそんな恵まれない家庭の子供から寄ってたかって恐喝していたのだからクズの極みである。
しかも大矢の家は一成の家より裕福だったんだから許しがたい。
だが、10月中旬頃にはさすがにそろそろバレるんじゃないかという懸念が大矢と赤井、緑区内の別の中学であるにもかかわらず一成を恐喝していた古川智規(仮名)の間で高まってきていた。
この時点でとりすぎなくらいの額の金を巻き上げていたのだ。
そこで彼らは大矢の家に集まって今後について話し合い、もうかなりの額をいただいているからそろそろ終わりにすることで合意。
ただし最後にはがっぽりいただいて有終の美を飾り、それぞれの取り分も話し合って決める。
10月18日深夜、大矢、赤井、古川の三人は一成を公園に呼び出して言った。
「オレらと縁切りてえやろ?」
「…うん、…まあ」
「手切れ金七百万で手ぇ打ったるわ」
「そんなに払えへんて…無理だて…」
「ほんなら五百万で勘弁したる」
「…わかった。それやったらええわ」
いくらなんでもふっかけすぎだったが、何と一成は払うことに同意して十日後には実際に三人は現ナマで五百万円を手にしていた。
「マジかて!大阪行かへんか!?うまいモン食いに行こまい!」
三人は新幹線で大阪へ行き、派手に遊ぶ。
飲み食いするだけでなく、中学生の分際でファッションヘルスに行き、高級ブランドを買いあさった。
そして帰りは大阪から名古屋までタクシーだ。
これで彼らのタガが外れてしまった。
残りの金はまだ何百万もあったのに一か月余りで使い切ってしまう。
最後のつもりだったが、一度こんな楽しい思いをしたらやめられるわけがなく、大矢は「これで最後にする」という約束を破って一成へのカツアゲを再開する。
それもカツアゲの金額はこれ以後一気にインフレ化して百万単位になった。
そんなに裕福ではないはずの一成がどうしてそんな金を出せるのか不良たちには分からなかったが、そんなのどうでもいい。
とにかく脅したりぶん殴って要求したらちゃんと金を持ってくるのだから。
だったら遠慮なく要求できるだけ要求するまでだ。
暴行を加えられることに心底怯える一成はそんな無茶な金額を要求されても母親に彼らに払う金を必死に要求、しまいには追い詰められるあまり「金払わなきゃヤバいんだて言っとるが!出せて!!」と家で暴れるようになる。
警察や児童相談所へ相談に行っても助けてもらえなかった母親は絶望しており、「我が子が外で暴行を受けるよりは」と亡き夫の残した保険金を下ろしてそのたびに息子に渡した。
だが、主犯の大矢や赤井たちだけでなく他の中学の不良や先輩も大金を要求するもんだから最初三千万円ほどあった保険金はみるみる減ってゆく。
一方、神谷家の惨状などお構いなしに、新たに巻き上げた多額の金で豪遊やブランド品漁りを再開した大矢たちはさらに調子に乗っていた。
赤井は扇台中の一学年下の彼女(当然こいつも不良)に恐喝した金を見せびらかし、「ウチにもちょうだい♡」と可愛くねだられたら万札を小遣いとして気前よく渡したりしている。
しかも彼らは移動にもっぱらタクシーを利用するようになり、中学生の太客としてタクシー運転手の間で有名になっていた。
金の出所を聞いた運転手もいたが、彼らは「パチンコで稼いだ」と答えていたらしい。
明らかに悪さをしているに決まっているのに、運転手たちは「金を払えばお客さん」とか言って携帯電話で呼び出されるとホイホイタクシーを走らせていたというからあきれる。
また、一成からたかり続けていたのと同時期、大矢は友好関係にある中区の中学の後藤賢司(仮名)が行っていたカツアゲにも一枚噛んでおり、後藤らとともにその中学生を暴行して合計約八十万円の金を脅し取っていた。
まさにやりたい放題な大矢ら扇台中のヤンキーたちだったが、この派手な行動が大きな災いを招く。
それは大矢たちだけでなく、金をとられ続ける一成にとってもだった。
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