声劇版 鍵はどこ?

藤野悠人

声劇版 鍵はどこ?

〇登場人物

男1 最近メンヘラの彼女と別れた男

男2 男1の電話の話し相手

インコ 男1が飼っているインコ。男女どちらでも。


〇状況

自宅にいる男1に、男2が電話を掛けてくる。


〇補足

インコ役は裏声かつ平坦な声で演じると、それっぽくなると思います。



―――以下、本文―――



〇シーン1/ふたりの男が電話越しに話をしている


男1

「もしもし?」


男2

「もしもし、おつかれー。いま暇か?」


インコ

「モシモシー、モシモシー」


男1

「暇だけど、どうしたの」


男2

「いやー、相談乗ってほしくて」


男1

「相談? ふーん、なに」


男2

「あのさ、来週お金貸してくれない? ちょっとだけ」


男1

「いや急だな。お金の相談だとは思わなかったよ。ちなみに答えはノーだ」


男2

「えー、頼むよ。給料日になったら返すからさ。お前だけが頼りなんだよー」


男1

「前にそれで三〇〇〇円貸した時、いつ返したっけ?」


男2

「えーと……、半年後?」


男1

「正解」


男2

「ちゃんと返したじゃんかよー」


男1

「俺が催促するまで忘れてたのは、どこの誰だっけ」


男2

「あー……、それはごめんじゃん」


男1

「そういうわけで、もうお前にお金は貸しません。どうせ合コンか何かだろ」


男2

「なんで分かったんだよ!? 心を読んだのか? さてはお前、サイコメトリーだな?」


男1

「前に3,000円貸した時もそんな理由だった。そんなことも忘れてるような友人には、なおさら貸せないな。今回の合コンは諦めろ」


男2

「ちぇ、こっちは新しい出会いを求めて日夜頑張ってるのにさ。お前はいいよなぁ、彼女がいてさ。こっちは女日照りもいい所なのに」


インコ

「ドコ? ドコ?」


男1

「あぁ、そういえば言ってなかったけど、俺彼女とは別れたよ」


男2

「え、マジで? あの子と別れたの?」


男1

「うん、別れた別れた」


男2

「えー、もったいねぇ。結構かわいい子だったじゃん。スタイルも良かったし、好みの感じだって言ってたのに。いつ別れたの」


男1

「先週末。一緒にカフェに行ったときに振った。二人きりだったら、たぶん刺されてたよ」


男2

「え、そんなに?」


男1

「うん、そんなに。可愛かったし、好みの感じではあったけどさ」


男2

「あー、でも、前に話してたね。なんか結構ヤバいとか」


インコ

「ドコ? ドコ?」


男1

「そうそう、いわゆるメンヘラってやつでさ。俺が会社の人の名前出すと、すぐに「それって女?」って訊いてくるんだよ」


男2

「言ってたなぁ。部屋の中を勝手に物色したりもしてたんだって?」


男1

「最初は、俺が何か不安がらせることしたかなーって思ったし、一生懸命考えたりもしたんだけど」


男2

「だんだん大声でワガママ言ったり、長文で重いラインしてきたり、飲んでる薬の写真を送ってきたり、だっけ?」


男1

「そう。最後には飼ってるインコにまで嫉妬し始めてて、やってられねー、と思って振った」


インコ

「カギハドコ? カギハドコ?」


男1

「うちのインコ、変な言葉覚えてるよ」


男2

「なんて言ってるんだ?」


男1

「『鍵はどこ?』だってさ。俺、鍵なくしたことないんだけどなぁ。机の引き出しの二段目に仕舞ったまま、出したこともないよ」


インコ

「アッタ、アッタ、フフフ、フフフ」


男1

「いや、ちょっと待てよ……、(ハッと気付く)ヤバいかも」


男2

「どうしたんだよ?」


(男1、慌てて机の引き出しの二段目を開ける)


男1

「俺、このアパート入ったとき、スペアキー三つもらったんだけど」


男2

「おい、どうしたんだよ」


男1

「ひとつ無くなってる。いつの間に」


男2

「前に付き合ってた子には?」


男1

「渡してない。そこまで行く前に別れたし」


インコ

「アッタ、アッタ、フフフ、フフフ」


(玄関でカチャ、と鍵の開く音がする)

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声劇版 鍵はどこ? 藤野悠人 @sugar_san010

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