陽キャと陰キャの異世界サバイバル　１ヶ月間生き残ったら一千万円もらえる番組に参加した二人の男女の生存劇

　とあるSNSにリアリティーショーの参加者募集の情報が書かれていた。

「なるほど、サバイバル系の番組ね。二人一組で１ヶ月間生き残れば一千万円か。胡散臭いなぁ。でも、本当なら、面白いな」

　メガネをかけた、みるからに陰キャの男性が、興味深そうにその投稿を見つめていた。

　このリアリティーショーの内容は、見ず知らずの男女二人が、サバイバル生活をして、１ヶ月生き残れば賞金として一千万円がもらえるチャレンジに挑戦するというものだった。

　ここからの情報は参加者には知らされていない。

　舞台は異世界。

　参加者には何も持物は与えられず、持ち込みも許されていない。

　服を着ることすら許されず、全裸持ち物無しで異世界に転移するところからこの番組はスタートするのだ。

◇◇◇

「まさか本当に異世界に転移させられるとはね。ここは森か……。まあ、サバイバル生活するには悪くない場所だな」

　メガネをかけた陰キャの男性がつぶやいた。

　彼の名前はカイ。

　とある異世界リアリティショーの参加者だ。

　番組に選ばれた二人の男女が異世界の秘境に転送される。

　持ち物は無し。

　着る物も無し。

　秘境なので、当然人は住んでおらず、危険な魔物が跋扈している。

　そんな危険な場所で、文字通り生まれたままの姿で、１ヶ月間異世界で生き残るのが、このゲームのルールだ。

　無事生き残ることが出来れば、現代に戻ってきて賞金1000万円をゲットできる。

　ただし、命の保証はない。

　死んだらそれまで。

　現代では、行方不明者として処理される。

　森の中に転送されたのは二人の男女。

　メガネをかけた陰キャのカイはサバイバル系のテレビ番組が好きで、本やテレビ番組で知ったサバイバルの知識を持っていた。

「とりあえずはパートナーをみつけるか。真面目な子ならいいけど……」

　このゲームのもう一人の参加者である、ギャルの見た目の陽キャは裸の姿に戸惑っていた。

「何よこれ。こんなの罰ゲームじゃない。こんな格好で１ヶ月も生活するなんて、ありえない！」

(参加するんじゃなかった──帰りたいんですけど)

そして、二人は出会った。

(ちっ、陰キャかよ)

ミクという名前のギャルは、相手がメガネをかけたい陰キャそのものだったので、がっかりした。

「ねえ、私の身体、じろじろみないでくれる？　変態なの？」

「言いがかりはよしてくれ……。どうでもいいけど、１ヶ月はここで生活するしかないんだ。まずは飲み水を見つけないと」

「なんであんたに命令されなきゃいけないの？あんたと一緒に行動しなくちゃいけない理由なんてないんだからね。私は私でやらせてもらうわ」

「……好きにしてくれ。僕はただ、生き延びたいだけさ」

　あきれたカイはミクを置いて遠くへいってしまった。

「何よあいつ。この森の水なんて見た感じキレイなんだから、いくらだって飲めるじゃないの」

　この二人はまだ知らないが、この異世界では魔法が使えるのだ。

◇◇◇

「クソッ！　魔物に見つかったか！」

　水を探していたカイの目の前に猪型の魔物が現れた。

「ぐおおおおおお」

　モンスターがカイに襲ってくる。

(武器になるものなんてなにも持ってないぞ。どうしたらいい？　とりあえず逃げるしか……)

　しばらく逃げた後、カイは不意に解決策を閃いた。

(いや待て、武器ならあるじゃないか。この地面にいくらでも転がっている)

　カイはモンスターから距離を取りつつ、素早く石を拾ってモンスターに投げつけた。

　しかし、モンスターには当たらなかった。

(僕はこういうの苦手だからな。モンスターに確実に当てるイメージを持つんだ)

　カイは頭の中で、石の軌道をイメージした。

「そこだ！」

　カイは頭の中でイメージした石の通り道をなぞるように石を投げた。

　石は、猪の魔物の眉間にクリーンヒットした。

「よし、当たったぞ。次は、確実に仕留めてみせる！」

　次の投石も、確実に魔物の眉間にヒットして、カイは魔物をやっつけた。

◇◇◇

　ミクは生水を飲んで体調が悪くなり、動けなくなってしまっていた。

「ううううう……」

「おい、大丈夫か？」

　倒れこんで苦しそうなミクを発見したカイは、彼女を助けることにした。

「生水を飲んだのか。水は沸騰させてから飲まないと危険ないのに……」

　カイはミクの容体を確認する。

「呼吸が浅いし、顔色もよくないな。思ったより重症だ、早くなんとかしないと……。クソッ、何も出来ないじゃないか！　何か……何か出来ることは。考えろ。今出来ることを考えるんだ」

(ここは異世界だから、おそらく魔法が使えるはずだ……。でも僕は魔法の使い方なんてわからない……。ええい、無理矢理使ってやるよ。彼女が回復するイメージを持て。それを強く念じていくんだ)

　ミクの自然治癒力を強化するイメージを持つことで、カイはこの世界の初等の回復魔法を習得した。

　偶然習得した回復魔法で、カイはミクを治療することに成功した。

「……ありがとう。あなたが治してくれたんだよね。ごめんね。私があなたの言うことを聞かなかったのに」

「気にしなくていいよ。困った時はお互い様だ」

　カイは、ミクに微笑んだ。

　カイは、この世界の魔法はイメージを具現化することだということに気づいたので、他の魔法が使えるかどうか試していた。

「クソッ、やっぱり火を直接具現化することは無理か。まだ経験が足りないんだ。少しずつイメージを具現化することになれていかないと駄目だな……」

　火を具現化するなどは高等な魔法なので、まだレベルの低いカイにはイメージをしても出来なかった。

　そこでカイは、サバイバルの手技を行う際に魔法のイメージを使うことにした。

　カイは、摩擦力の強化するイメージを持ちながら木の枝で火おこしなどを行い、徐々に生活の準備を整えていった。

　カイがモンスターを狩って、死体を捌き、その肉を二人で喰らう。

　しかし、モンスターには、魔素という毒があり、食べ続けると身体が魔物化することに、二人はまだ気づいていなかった。

　ミクは植物を編み込んで、即席の服を作っていた。

　即席の服を着ていても夜は寒いので、ミクはカイに抱きついて、身体をあたためていた。

こうして、二人は最初の一週間を生き延びることが出来た。

この頃には、ミクはカイに懐いて、めちゃくちゃベタベタするようになっていた。

◇◇◇

　ある夜、ミクが目を覚ますと、カイの姿が無かった。

　カイは、自分たちの寝床を襲ってきた、狼の魔物と戦っていた。

(カイってば、私が寝てる時に、私が気付かないように起きて、戦ってくれていたんだわ！)

二人はなんとか狼の魔物を追い払うことが、出来たが、カイが倒れ込んでしまった。

(酷い傷──こんなになるまで一人で戦ってくれたんだ)

「うぅっ、助けに来てくれたんだね。ありがとう。自分の身体能力を魔法で強化したけど、あいつには敵わなかったよ。元がダメだと、強化したところで、このザマさ」

「喋らないで。今、魔法で回復するから」

(出血が酷いわ、まずは止血をしないと……。そのイメージからね)

　ミクは、回復魔法をかけながら、ずっと陰キャを看病した。

　朝になって、カイは目を覚ました。

(傷が治っている！)

「夜通し治療してくれたんだね。ありがとう。君に迷惑をかけてしまった。すまない……」

「いいの、あなたは私をたくさん守ってくれたんですもの。こんどは私が、あなたを守りたかったの。治ってよかった。ここであなたがいなくなるなんて、私はもう、嫌だから……」

　ミクはカイを見つめながら、泣き出していた。

(同じ回復魔法でも、ここまで効果に差が出るのか……。僕より彼女の方が、魔法の才能があるのかもしれないな)

落ち着いてから、カイはミクに話しかけた。

「聞いてくれ。前からずっと考えていたことがあるんだ」

「僕たちのこの生活は大多数の視聴者に公開されているリアリティーショーということになっている。だけど、多分僕たちは騙されていると思う」

「騙されているって、どういうこと？」

「昔、これと似たような番組をテレビで見たことがあるんだ。ネイキッドアンドフィアーっていう海外のリアリティーショー番組でね。その番組でも、二人の裸の男女が自然の中で生き残るという設定だった。その番組ですら、リタイアは自由だし、生き残るためのアイテムも与えられていた」

「このゲームはあまりにもクリア条件が厳しすぎる。異世界に転移する場合、普通は特典として強力なスキルを与えられるんだ。でも、今回僕たちは何もスキルを与えられていないからね」

「確かに、私たちはスキルどころか道具すら与えられていないわよね」

「それに、リタイアすら許されていない。おそらく、このゲームは失敗ありきで、僕たちが生存するなんてことは最初から想定していないんだ。だから、このゲームの主催者は、自分たちを助ける気なんて全くないと思う」

「そんな……」

「一ヶ月経っても、助けなんて多分こないだろうね」

「それじゃ、私たちは一生ここで暮らさなくちゃならないってこと？」

　カイは、もし、助かる可能性があるとすれば、自分たちの生活の閲覧者に、自分たちは有能だと思わせて、救い出す価値があると思わせることだとミクに話した。

「それが出来ないと、ここから脱出は出来ないだろうね。まあ、本当にこれがリアリティーショーで、視聴者がいればの話だけど……。望みは薄いかな」

「とりあえず、この森を抜け出そう。そのためには、もっと多くの魔法を使えるようにならなきゃいけない。この世界の魔法はイメージを具現化する感じだ。イメージを具現化出来ないのはおそらく、この世界での僕たちのレベルが足りないんだ。魔物を倒すなりして、経験を積んでいけば、きっともっと多くの魔法が使えるようになるよ。生きるためにも、魔物は倒すしかないしね」

「私ね、あなたとならきっとやっていける気がするの。私を助けてくれた時、あなたに勇気をもらったから。ありがとう。だから、がんばって、一緒にこの森を抜けようね」

そういうと、ミクはカイを抱きしめた。

「私たち、毎日抱き合ってるけど、全然飽きないの。むしろどんどんあなたのこと、好きになっているわ」

◇◇◇

「どうやら今回の参加者は、この企画がニセモノだってことに気づいたようですよ？」

「ほう？　今回の転移者は少しは骨があるようだね。私たちの暇つぶしにはちょうどいいかもしれない」

「前回の参加者は、すぐに弱って魔物に食べられてしまいましたからねえ。今回、二人がどれだけ持ちこたえるのか、楽しみです」

「ふふ。二人とも、もっともっと私たちを楽しませておくれよ」

　二人の様子をずっと観察していた女神と天使が、いやらしい笑みを浮かべながら話していた。

◇◇◇

　二人は毎日モンスターを倒し、魔法の鍛錬をして、より多くの魔法を使えるようになった。

　そして、この森最強のモンスターである、巨大な熊のモンスターを倒せるまでに成長した。

そしてついに、二人は森を抜け出した。

　森の先には大きな街があった。

　しかし、魔素の影響で魔物化していた二人は、魔族と勘違いされ、街から追い出されてしまった。

　失意の中、二人はまた、森で生活を始めたのだった。

◇◇◇

　数年後、この森に、魔族の一家が暮らしていることが、森の近くにある街で話題となっていた。

　そこで、街の有力者たちが集まり、今後の対応を協議していた。

「街の近くに魔族が住んでいると噂になれば、そのうち誰もこの街に立ち寄らなくなるでしょう。住民にも不安が広がっています。今のうちに、冒険者ギルドに討伐の依頼をかけませんか？」

「そうだな。このままではこの街は終わりだ。金を惜しんでいる場合じゃない。早く依頼をかけるとしよう」

　しかし、森の魔族たちは強力な魔法を使うため、討伐に向かった冒険者たちは、ことごとく任務に失敗していた。

「あの魔族どもがここまで強いとは。どうする？」

「……森ごと焼き払うしかあるまい」

「森に火を放つのですか？」

「もう冒険者を雇う金もない。他に手段があるとでも？」

「しかし……」

「この森は広大だ。街に近い部分を焼いたぐらいでは、問題にはならないだろう？　さあ、街の人々に提案しようじゃないか」

　街の有力者たちの提案を受け入れた住人たちは、森に火を放った。

　瞬く間に森に火が燃え広がっていった。

　しかし、森の上空に大きな雨雲が集まってきて、雨が降り続き、火を消してしまった。

「お前たちは一線を超えた。もう容赦はしない」

　雨の魔法を使った魔族の男がつぶやいた。

「ねえパパ、どうして人間はこんな酷いことをするの？」

　魔族の男の隣にいた少女が彼に質問する。

「僕たちみたいに森に住んでいないから、自然の大切さを忘れてしまっているのさ。この自然のおかげで生きていられるっていう感謝の心がないんだよ。だから、こんな酷いことが出来るんだ。じゃあ、ママに報告しにいこうか」

「うん。パパ、かっこよかったよって、ママに教えてあげるね」

　その夜、街を森の魔物たちが襲った。

　魔物たちに襲われた人間たちは、なすすべがなく、街を捨てて逃げ出した。

　そして、街から人はいなくなった。

　そして、のちに迷いの森と呼ばれるようになるその森で、魔族となったカイとミクとその子供たちは、静かに暮らし続けた。