魔導十傑―Ⅲ

 世界魔法使い序列一位から十位まで、代理を含めた全十四人が集結。


 最年長のアンドロメダが中心となって会議は進められ、魔王の側近を名乗るゼオラオスの存在や、人間を悪魔族に変える薬が開発されている事。そして、五大魔王ペンタグラムが出現し、宣戦布告された事が語られた。


 魔王ゾディアクと比較してどれだけの戦力なのかは知らないが、魔王を名乗る存在が五体も、それも同時に出現している異常事態。

 そして、今度はどんな種族だろうと強制的に悪魔へと変えられてしまう状況から、劣勢を強いられるのは必定。

 ゾディアクの時を遥かに超える被害が出る事は、容易に想像出来る。


 まず五体もいる魔王。

 ゾディアクの時でさえ総がかりだったと言うのに、今回は戦力の分散を強いられる。


 次に悪魔を生成する薬。

 これの製造元を潰すか解毒剤を開発するかしないと、敵の戦力は増え続けるばかり。


 そして忘れてはならない。彼らは貴族、王族に変化する変身薬を手に入れている。

 これにより、彼らの仲間が権威ある存在に化けて裏から組織を混乱させる状況も考えられる。


 自分達に変わる薬がないだけマシと思いたいが、血統因子さえ手に入れれば作る事自体は簡単だ。自分達本人でなくとも配下や部下、統制している組織の誰かに化けられれば、混乱は避けられない。


 五体の魔王が全員協力関係にあるのか。

 彼らを従える更に上の存在がいるのか。

 ゾディアクの時のような魔法という力のみの支配が通用しないと知って知識を付けたか、ゼオラオスを従えている魔王の独断かそれとも五体の魔王全員の判断か知らないが、今度の彼らは力を集結させたい自分達を分断させんとして来ている。


 ただ強い魔法が使えればいい。

 そんな単純な戦いが通用する時代は、この五年で終わってしまったらしい。


「状況は極めて劣勢。今こうしている間にも、魔王と悪魔の侵食は始まっています。本来ならば戦力を分散させ、五体の魔王を確固撃破と行きたいところですが……」

「――」

「俺もバラガンに同意だな。仮に魔王一体の戦力をゾディアクと同格と仮定して、単純に戦力を分散するとなると、魔導十傑を二組ずつと、それに連なる組織。組み合わせは自在だが、この条件で勝機があるのは、ダブルグラスのおっさんと、ゼノビア……組み合わせ次第では、愛弟子も行けるだろうが……それでも三体だ。最悪、全滅って事もあり得る」


 無謀、と一言先に言ったバラガンに続いたシシドの意見に、皆が同意する。

 一番理想とする魔王各個撃破が最も難易度が高く、理想が高過ぎるが故に無謀な作戦だった。


「最低条件として、俺達には敵の情報が圧倒的に欠けている。奴らは前回の魔王戦然り、今までの俺達の功績で、俺達の魔法や戦闘スタイルは知っているだろう。まず、そのハンデを引っ繰り返さないといけない」

「敵を知り、己を知ればと言う奴か……ではグラディス、おまえは何を知ればこの戦いに勝てると思う」

「まず敵の居場所だ。そもそも、居場所がわからないと叩けない。魔王が国を滅ぼしてから向かっても、後の祭りだ。次に、敵の戦力だ。特に魔王と、魔王の側近の力を計りたい。そして出来れば、敵の戦力の総数も知れればベストだ」


 グラディスは故郷である国の護衛筆頭騎士の家系に生まれたため、魔導十傑の中では一番戦場を理解しているし、把握している。

 実際にゾディアク戦でも、魔法使い全体の指揮はアンドロメダが取ったが、前線はグラディスが指揮官を担っていた。


「アルファ。リリスは例の変身薬の解毒剤を持っているか。もしくは作れるか」

「今回の話が伝わった時点で、主様は変身薬の流通ルートを止め、解毒剤の開発に着手しております。まだ完成には至っておりませんが……少なくとも彼らが今後新たに薬を手に入れる事はないでしょう。どれだけの薬が彼らの手に渡っているのかが、問題ですが」

「では、悪魔の種とやらの解毒剤は」

「それは何とも……多分サンプルさえ手に入れば、時間次第だとは思いますが」

「なら、私がその悪魔の根城を探して――」


「「「おまえ(あなた)はジッとしていて下さい、ゼノビア!!!」」」


 全会一致。

 ゼノビアが悪魔と、延いては魔王と戦いたくて言い出した事など、皆お見通しだ。

 機嫌を悪くした女王様が、苛立った様子で拗ねている。


「では、悪魔の捕縛と薬の開発が、私達ホムンクルスの最優先事項になりますね。それでよろしいかしら、グラディス」

「構わん。だが、奴にはまた魔導人形の製造を頼みたい。だからエティアとエティア、おまえ達も悪魔の確保と、敵地の発見に走れ」

「グラディスあんた、私達の事両方ともエティアって呼ぶの、止めなさいよ……」

「とりあえず、わかりました……敵の居場所が分かり次第、ご報告致しますね」


 敵の戦力分析と敵地の捜索。そして、敵戦力の削減化。

 ここまでの方針は決まった。

 となれば、後は――


(後は、僕達魔法使いのレベルアップ、でしょうか)

「そうですね。そしてここには、奇しくも魔法を極め、魔導の域に達した者達が集っています」


 アンドロメダが深々と頭を下げる。

 本来は彼女の責任下だが、事が事だ。言いたい事はわかっていたから、皆、何も言わなかった。


「シシドさん」

「おぉ、任せなばあさん。基礎体力をつけ、体術を叩き込む。愛弟子以来だし大人数だが、やってやるさ」

「バラガンさん」

「――」

「えぇ、あなたには高速詠唱の分野をお願いします。グラディスさん」

「剣を使う奴は俺が預かろう。そのために、俺の部下も連れて来ている」

「お願いします。ゼノビアさんとエフィルトールには、それぞれ自分自身の強化をお願いしたいと思っております」

「だったら捕縛した悪魔を数体、私のところに持って来い。サンドバッグくらいにはなるだろう?」

「いつの世も、戦いか……」

「グレンマルス――」


 呼ばれたグレンマルスは険しい顔をした。

 まだ何も言われてないが、威圧する眼差しを向ける。

 

「あの秘術を授けろと言うのなら、断るぞ。仮に勝ち残ったとしても、こちらが全滅では意味がないからな」

「わかっています。ただ、あなたには陽動になって欲しいのです」

「陽動だと?」

「えぇ。エティア姉妹やアルファ達の隠密活動が成功する確率を上げるため、あなたは表立って魔王の捜索をして欲しい。要は囮役ですが、もし敵が引っ掛かってくれれば」

「探す手間が省ける、か。良かろう。こんなにデカい的だ。敵も無視出来ぬだろうて」

「……最後になりましたが、コルトさん」


 アンドロメダは言い淀む。

 他の面々とは違い、彼にだけは躊躇が生まれる。


 魔王ゾディアクとの戦いで一生喋れなくなった彼に、まだ戦えと命じる自分に恥じる。

 けれど、彼の力無くして、魔王には太刀打ち出来ない。


「無詠唱魔法の開発と、自身の魔法の無詠唱化の実験に勤しんで下さい。一年生には、あなたの開発した無詠唱魔法を自衛のために使って貰います」

(承知しました、ミス・アンドロメダ)


 これにて全員に役割が出来た。

 後は皆が無事に役割を果たし、戦いを制し、皆が生き残る事ために最善を尽くすだけ。

 今はもう、話す事はない。


「ではこれにて、緊急魔導十傑会議を閉幕とします」

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