第292話  ピンチとチャンス


 ワイバーンのブレス攻撃。

 灼熱の炎が洞窟内を焼き尽くすが、俺の刀でブレスを断ち切り何とか生還。

 プスプスと黒い焦げと煙が薄く広がる空間で、ワイバーンは俺たちを見下ろした。


「ガルルゥゥ……!!」


 明らかに不快そうな眼光だ。


 炎ブレスの飽和攻撃で殲滅したと確信していたのだろうか。

 どちらにせよ、ワイバーンの思惑通りにはいかなかったわけだが。


「……おい、瑠璃。大丈夫か」


 俺はワイバーンへの警戒を緩めず、隣にいる瑠璃に視線を向ける。


 瑠璃は煙を払うように手を振りつつ、こくりと頷いた。


「けほっ、こほっ。熱気と煙がすごいけど、なんとか平気。……先生が、守ってくれたから」

「そうか。なら良いが……さて、どうしたもんかな」


 ワイバーンは強力なモンスターだ。

 できることなら、戦いたくない。

 戦わずして逃げ延びる方法を考える方が得策な気がするんだが、今回ばかりはそうも言っていられない。


「今のブレス攻撃で洞窟の寿命がさらに縮まったな……チッ、ただでさえ崩落寸前だっていうのに余計なことしやがって!」


 洞窟は地響きのような揺れが断続的に発生している。

 これは、洞窟を維持する魔力が枯渇しているのが原因だ。

 そう遠くない内に洞窟内の魔力循環システムが停止し、ここら一帯は崩壊してしまうだろう。


 そうなったら生き埋め確定。

 お陀仏コースだ。


「洞窟から脱出するための頼みの綱は転送魔法陣なんだが、今は魔力量が不安定で安全に転送魔法が起動できるか五分……。そのために外部から魔力を供給できればと画策していたんだが」


 改めて言うが、ワイバーンは強力なモンスターだ。


 そして、それだけ強力なモンスターなのであれば、有する魔力も膨大。

 今の炎ブレス一発の規模と威力を見ても、ワイバーンがどれだけ脅威的なモンスターなのかは伺い知れる。

 並みの探索者なら出会った瞬間、終了だろう。


「最大級にピンチだが、逆にチャンスでもあるな。あのワイバーンを倒せば、転送魔法陣を起動するに足る魔力を補給できるかもしれねぇ」


 俺はワイバーンの翼を見た。


 その翼の一部は、俺の刀によって斜めに切断されている。

 今も傷口からは赤黒い血が流れていて、痛々しい。


「ワイバーンは強いが、俺の刀が通る程度の相手でもある。要は、上手く仕留めることさえできれば……」


 俺はチラリと瑠璃を見た。


 瑠璃は煙で咳き込んでいたが、ようやく回復して持ち直してきたようだ。

 再び戦意を取り戻した瑠璃に、俺は静かに告げる。


「瑠璃、俺に一つの作戦がある。俺たちのコンビネーションで、ワイバーンを倒すぞ」

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