ガラスの天井に色を塗る
先日見かけたツイートの話だ。
上司に君が男だったら昇進を進めていたのだと言われた話だった。細かいニュアンスは例のごとく忘れたが、百四十字内に刻まれたその言葉から溢れるものが私の中に残り、数日経っても消えない。
女性の上に塞がるガラスの天井。それをこのツイートの声がどんなものよりも私に訴えかけた。
怒り、呆れ、驚嘆。さまざまな感情が私の中を駆け巡ったのを覚えている。ただ、そのどれも正しく私の感情を説明する言葉にはならなかった。そこで私は一番近いものの例えを思いついた。
集中し時間をかけて作ったトランプタワーがバラバラと崩れていってしまった時の感情。あの感情にとても似ているのではないか。
トランプタワーを作るにはとてつもない集中力がいる。一回でも作ったことがある人は共感してくれるだろう。作ったことがない人はぜひ一回やってみてほしい。時間はかかるし、二枚で一つの山を作るにもなかなか集中力がいる。そしてちょっとしたことで崩れる。吐息、手の震え、袖が当たった……理由はさまざまだが、結果は等しく壊れる。全て壊れる。途中で修復可能な場合はほとんどない。それほどまでに繊細なトランプタワーがやっとの思いで完成を迎えそうな時、壊れてしまった。その感情に似ていた。
目の前にあるものが信じられなくて、とにかくずっと沈んでいく。そういう感覚。こんなに理不尽で不条理なものが現実なのかと疑いたくなる。
私にツイートをした本人の気持ちは到底理解できない。理解も共感もしてはいけないと思う。ただ、そんな経験をした人間がいる、という現実に私は思う。これが現実なのか、人は報われないのか、男女平等は実現し得ないのか、無意識はなんと恐ろしいことか、人は人を裏切ってしまうものだ、とか色々考える。
考えなければならない。いいねを押すだけ押して、スクロールして消してはならない。何がこの感情を生み出しているのか、私はなぜこんなにも突き動かされたのか、その理由の一粒一粒を掬って観察しなければならないと思う。そして考察しなければならない。だってそうでもしなければ、悲しい思いをした人があまりにも報われない。私にツイートをした本人を救えることはないけれど、それでも『そういうものだ』と言って消していいはずがない。この世界の誰かが覚えていて、そういう人をせめて自分は他人にさせないようにと誰かが思っていることが大事なのではないか。理想論でも偽善でも思っていなければならないのではないか。
ガラスの天井。その天井がせめてすぐに割れるガラスであればいい。それか誰にも平等にある天井になればいい。全員の上に天井があるのならば、全員がそれを問題視できる。捻くれた私はそう考えてしまう。聖人ではない私は、殴られたら殴り返したい。酷いことを言われたらできるだけ正しい言葉で相手を傷つけて逃げられないようにしたい。もう片方の頬は絶対に差し出さない。私に殴られたくなかったら天井を作るな。天井を作るのなら塞ぐためではなく守るためのものにしなければいけないのではないか。それもわからぬ者が上に立っているのならその足場を壊してやりたい。
ガラスは透明で見えない。見えないから余計に厄介なその天井。ツイートをしたその人は、そのガラスに色を塗ったのだと思う。少しは色々な人に見えるようになって、気づく人が増えていたらいいと思う。また次回。
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