深淵の民 ジュジュ

「シード種は悪くないとは言ったが……まさか最初に連れてくるのが深淵のタイプだとはな……」

「キャハハ。管理人がミザと訊いていたが、その通りで笑えてくるよ。キャハハ」


「そんなに面白い名前なんだ」と、わたしは逢ったときの印象と現在の印象が違い過ぎて多少引いている。


「比較対象にするのは何だが、通常はこんな風に高位者の意志に影響されるんだ。もし、コイツがマザー種だったら手に負えない化け物だったからそれはそれで、不幸中の幸いだが……」と、ミザさんには都合が悪いといった印象。


「キャハハ!キャハハ!」

「もう、ジュジュさん笑い過ぎ」


「ああ、悪い悪い。だって、猫にネコって名前つけているくらいおかしくて」と続けて笑い出す。


「言われているけど、ミザさん」

「……一応聞くが、てめえは何処のミザの眷属ミクロネイアだったんだ?」


 わたしの話を聞いてないわけではなさそうが、ミザの個人的な質問をジュジュさんに投げかける。


 ジュジュは笑い疲れな声を絞るように「フェニーのところだよ」と簡単に答える。


「通りで、納得だ」

「納得って、わたしは納得できないんだけど」

「簡単な話だよ、フェニトラの空間から来たから、そこのミザの名前はフェニーって呼んでいるだけ」


「おい、無責任に空間の名前を出すな。コイツが聖人被った化け物だったらどうする?」と親指でわたしを指してきて、相変わらず偉そうだなと感じた。


 同時にこれは夢……現実と言っても良いのか分からないが、リアルというカタカナ表記が合う空間にいる以上、そういうことなのだろう。


「安心してください。一度誘われない限り行かないので」

「誘ったら来てくれるの?」

「おい」

「冗談冗談だって」


「……少し蒸し返すけど、ミザってそんな一般的な名前なわけ?」とジュジュに向けて質問すると、回答はミザと名乗る本人から聞くことができた。


「ミザはネイアの空間の中心を管理する一涙の存在の通称だ」

「一涙?」


 そんな単位聞いたことないと思っていたら、ジュジュの方から「へえ~物凄い明晰能力の持ち主だね。通りで手放したくないわけだ。それはうちの価値観あら生み出された単語翻訳だね。便利でしょ?」と矢継ぎ早に感嘆の声と自慢のセリフが流れる。


「それ明晰能力と関係あるの?」

「基準値ならそんな機能は無いが、てめえの場合は桁が二桁も違うから余計な情報」


「あるいは、高すぎて入手できなかった情報とかあたんじゃないの?」とジュジュはニヤつきながら、わたしをまじまじと見る。


「…………」事実だが、認めたくない自分がいる。


「まあいいわ、コハルで合ってる?ちょっと情報レポートを見せて頂戴よ」

「……ミザさんこれって、渡して良いものなの?」

「別に問題ないよ。そんなこと言ってたら、ここに納品している時点でアウトだ」

「そのくらいのことなんですね。それじゃあ、はい」


 画面を動かして、レポートを提供。ジュジュはそれを見て、「日が浅いんだね」と一言コメントをして近くの座椅子に座り、空間からカップと入れ物をを出して「今のうちに訊きたいこと訊いておけば。たとえば、リンク機能とか、この世界の全地図とか」と手引きをかける。


「相変わらず、深淵タイプは良いとこ掘り下げてくれるな」

「では早速、連結リンク機能って何ですか?」

「単純なことだ。同じ空間のミクロネイアの能力と連結して、能力のムラを低くする機能だ。少し説明が複雑だから覚悟しろよ」

「そっか、覚悟しておく」

「安心して、ちゃんとツッコミは入れてあげるから」


 逢ってすぐの相手にここまで馴れ馴れしくされるのはちょっと遠慮気味な想いがあるが、ここは先輩の気分が良くなるところだから乗っておこう。


「まず、リンクに必要なのは中心となる俺みたいな存在中央サーバーが必要となる、もちろん個別での接続ブロックチェーンでもリンクは可能だが、結局は中央サーバーになってしまうし、同レベルの上位者だと負担がかかり過ぎて活動に支障をきたすことも多いから、俺に繋いでもらえると眷属ミクロネイアで繋がることが容易になる」


「なるほど要するに、ミザと繋がったネットワークで能力や洞察を得て協力ができるってことでしょ」

「簡単に言えばね。だけど、常備繋がっている状態は便利だけでちゃんとデメリットがあるの」


「それが、低い能力に自分の能力パラメーターを下げられるという《スキルダウン》現象だ。俺と繋がっている時には起きないが、他のと繋がっているとそういうことが起きる。繋いだ瞬間になるわけではないが、長期に渡って繋いでいると均衡を保つために能力同士が引っ張り合いして大概は低い方に持ってかれる。これは回線コストを減らすための自動機能だから仕方ないことだが」


「もちろん例外もあるよ。関係は綱引きのような側面もあって、高い力に引っ張られて能力パラメーターが上がる場合もあるけど、リンク切りした途端にゴムみたいなものだから一時的に元の数値よりも縮む場合があるんだよね。その間は結構萎えるんだよね」と、スンとした顔をするジュジュ。


「そこら辺は、仲が良いかにも依存するがな。なにせリンクして共有できるのは能力パラメーターだけじゃない。一部拡張機能能力が使えるようになる」


「それって、さっきの解釈の追加みたいなもの?」

「話が早くて助かる。似た感じで他にも異なったタイプ系統の能力も使えるようになる」


「いわば、うちの深堀能力や個体から情報を取ってくる能力がコハルにも使えるってこと。および、うちはコハルの明晰能力や空間操作の一部を使用ことができる。別に卑下しているわけじゃないけど、レポートを読んでいて要約能力はうちの方が上みたいだから活用してみてね」


「言い方を変えれば、上がり過ぎた能力を他者の力で抑制や調節に利用することができるってことでしょ。それはそれで不便だけど便利ね」

「持ちつ持たれつってやつだ。時に無能のやる気だって役に立つ」


「生憎、それはわたしにとっては良くは聞こえないだけども」と、わたしはジトーと渋い表情を滲ませる。


「ご愁傷様」ジュジュが拝んでくれたことで気を取り直し、次の話題に。

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