醜裸との対面
「二人とも何か近づいているぞ!」
「「うるさい!」」
遊んでいる二人は風の人の声は聞こえているようだが、雑音にしか聞こえていないようだ。一切、その対象に目もくれず、打ち合い続ける。
「仲が良いのは良いんだが――」
わたしも風の人の話しよりも接近している正体の方に気を取られていて、途中で発言のを切られているのは分かっていけど、散々止められていたと状況を軽んじてそのまま視線を変えず、その移動する魚影を観測していた。
魚影とは称したものの、どうやら違うみたい。刺々しい甲羅?いや、螺旋状の巻貝か。でもその大きさはわたしが知る貝類の大きさではない。浮上してきて数メートル、十メートル、それ以上の巨体。極太の軟体生物――触手だ。海賊船を襲った大ダコよりも遥かに大きい。五十メートルほどある鉄橋ですら呑み込んでも驚かないというか、単純に気持ち悪すぎる大きさだ。
わたしが語彙力を失っているあたりで風の人の他に気付いた者が一人。その異様に大きい触手を見て「なんだ、これは……」と手を止めた隙に「隙やり!」と男を押し倒し、獲物を捕まえたメスライオンのごとく満足げに「私の勝ちぃ~」と腹乗り。
「おい、お前!後ろ見ろ!」
「もう観念しなさい。騙そうとしても無駄よ。今の君は袋のネズミだ」
「袋のネズミどころか!袋叩きにされそうなんだが!!」
鉄橋より高くうねる触手は助走をつけるように慣性力を溜めていて、今にもそのムチが振り下ろされそうだ。腹乗りした彼女は、勝利に酔いしれて周りが良く見えていない様子。このままでは、二人もろとも別の意味で混じり合ってしまう。
「さあ、ここからどう反撃する?」
相手が逃げの名手であることが分かっているから、しっかりと脚で対象の腕を固めて動きを封じ、都合よく体が動かせない。その間にも触手はうねり叩き潰すエネルギーを溜めている。
もうダメだと諦めたのか。マゲユイ男は全身の身体の力を抜き、彼女の重圧に馴染ませて目を反らし「お前が女の子だったら最高だったのにな……」と辛辣な溜め息を漏らした。
その言葉にカチンと来たのか、お嬢様は胸元の服を引っ張り、判断に困る乳房を見せて「私は女だ!!!!」と拘束が解けた刹那、触手が下ろされて叩きつけられた――と思いきや間一髪、マゲユイ男は彼女を抱きながら転がり回避。してすぐに立てる低い姿勢を取り、相手を見据える。
「私に抱きつくとは良い度胸――」
「周りをよく見ろ!!」
「え?あ!見つけた!」
「何?」
「このデカ物が私の目的であり、討伐対象ってこと!」
二度目の触手の攻撃。今度は個人の判断で回避し、二人は相手を見据え直す。その焦点に見覚えのない男の影と見覚えがありすぎる風の人がダラ~ンと肩に掛けられ、背おられていた。
「お前は誰だ!」
鉄骨の上にいる男はニヒっと歯を見せ不気味でありながらも、喜びが滲んだ笑みを浮かべて「ほう、生きていたのか。てっきり死んだかと思っていたんだがな」と意味深な発言。
「何の話だ!」
「訊きたいなら、付いてくるんだな!」と、わたしが観測している上空にほど近いレベルに跳躍して鉄橋の先へと着地。そのまま振り返ることもなく、謎の男は走って行き距離を離される。
「待って!!」
その男を追いかけようと走り出すが、また触手に阻まれ。上手く先に行けない。
「仕方ない……テラス!」
「え……⁉」
「あのバカを捕まえた男を追ってくれ!」
「イヤよ。それに私にはこのバカ貝を――」
「あの男の速度に付いて行けるヤツはお前しかいないんだ。頼む!」
お嬢様は不愉快だ顔に出ているが、刃を交えた関係として信頼していることが口調から伝わったようで、渋い顔をしながらも「ああもう、わかった。でも、この埋め合わせは、ちゃんとしてもらうからね!」と、ことをマゲユイ男に任せて、彼女は謎の男を追いに走り出す。
その行動を見て、軟体の化け物は頭にきたのか、走り抜けようとする彼女に向けて触手を振り下ろし、潰しにかかった。
彼女はその状況に目もくれず、上から視点完全に潰されたかと思いきや、今度は鈍い衝撃とバンッ!と小気味いい金属音が鳴って、触手は波打って弾き飛ばされた。
「相手は俺だ!デコ助野郎!!」
その発言に同意したのか、軟体の化け物『醜意を喰らう者、オニムバス』が大砲の付いた口と殻に覆われた顔を出し、鉄橋の端を他の触手で塞ぎ退路を断ち。野太い遠吠えと水飛沫、触手を煽り上げて、ケンカを売ってきた小人に怪物は牙を剥いた。
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