第17話 黒頭はその手を汚さない①
「えーと、
主から返答は無い。先刻まで暴れていたのが嘘のように静まり返っている。このまま河を下れば、いずれ樹海を抜けて人里に入ることになる。日は傾いて間もなく夕刻だが、辺りはまだ明るい。そろそろ船を捨てて、夜間にこっそりと人里を抜けるのが良いと
「はて」
舟頭から、ひょこっと立ち上がり、舟の中心に建てられた主家形の向こうにいる筈の主と狐達に再び声をかけた。
「このまま進むと人里に入ってしまいますゆえ、そろそろ舟を停めましょう」
奇妙な物体が
「なんだありゃ」
大兵肥満な躰を無理矢理折り畳むようにして座っていた
「怪しいものに安易に手を伸ばすな。この
猛禽類、
奇妙な卵の、その薄殻の中身は一見すると虚ろな空洞だが、吐き気を催すほどに淀んだ気体が中に充満していた。気体を眺めて脳裏に浮かんだものを言語化するならば【不運】【不穏】【不吉】だろうか。そんな物が、気体になってあの小さな卵の中にぎゅうぎゅうに詰まっている。卵が割れて飛び出した気体に触れれば、良からぬ事象が、身に降り掛かるのは明白だった。
「これも妖術か」
ふと、
「あの卵を刺激してはいかんぞ」
(もっと端に寄れ、あの卵から遠ざかるのだ)
冷静に努め、小声で促す。やがてべりべりと卵のひびが大きく広がる。川の上の水分が飽和して生暖かく湿った生き物のような大気を射抜くように、すとん。と、
(まさか、あの卵の中身に触れていたら)
「うぐぅ!」
唐突に喉を締め付けられたような悲鳴を上げたのは
払った掌で卵が弾け飛ぶと、
(不運が来た!)
半壊した舟の形をした怪物の口に、
「ぐぉおおお!」
まるんと太った
無慈悲な追撃に過るのは全滅の予感。
ぱきぱきと破滅の足音が耳元で囁き出した。
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