第20話 お目覚めですの!
「んん~~~……!」
なんだかすごく気分がいいですわ!! 今まで溜まっていたもの全部ぶつけられたような感じですわ!!
「あれ、ここ……って、キーノさん!?」
「アリンちゃん、やっと目を覚ました……!」
目を開けるとそこはキーノさんのお部屋でした。ふわふわのベッドに寝かされており、そばには涙目のキーノさんがいる。
「もう、私、目を覚まさないんじゃないかって……!」
「おーよしよし、泣くんじゃありませんわ~。私はここにいますわよ~」
ぽろぽろと涙をこぼすキーノさんは私の胸に飛びつく。赤子のようなキーノさんをあやしながら、私は部屋の中を見る。キーノさんらしい本がいっぱいの部屋だ。
懐中時計と貴族勲章はベッドの横の机に置いてある。
ふと、部屋の隅に誰か別の人がいることに気づく。
「あれ、あなた」
「アリン・クレディット、さん……」
それは、あのフィッツにいじめられていた男の子でした。手元には取られていたブローチがしっかり握られていた。
「よかったですわ! そのブローチ、傷とかついてなくて」
「あ……うん。その……」
「どうかしましたか? というか、なんでそんなに遠いんですの」
「ち……」
「ち?」
「ち、近づけなくて! あなたに!」
その子はさっと顔を手で隠しながら、そんなことを言う。
近づけない? なんでですの?
「え、それって私が臭いってことですの!?」
「ううん、アリンちゃんはいつもいい匂いがするよ」
「スンスン……たしかに私ってお花の匂いがしますわ」
「いえ、そうじゃなくて……!」
私はベッドから降りて、彼に近づく。すると、隅っこにいる彼はもっと角の方に身を寄せる。
「なんですの~。ちょっとお顔を見せてくださいまし!」
「い、今はダメです! ほんとに!」
「いいじゃありませんか~、それ!」
私は彼の顔を覆っている腕を取って、その顔を拝見する。
彼の顔は、真っ赤に染まっていた。
「あら……?」
「あの……えっと、はなして……ください」
耳まで赤くなっている彼の顔から思わず目をそらして、腕を離す。
な、なんですのその反応!? なんか、まるで私のこと……
「アリン、さん……」
「はい!!」
変なことを考えていたから大声が出てしまいましたわ!! 彼は相変わらず顔はそっぽ向いてますけど、少し手をもじもじさせた後にぺこりとお辞儀をする。
「その、今日はありがとうございました。……ずっと言いたかったけど、倒れちゃったから言えなくて」
「あ、ああ~」
感謝の言葉を言われて複雑な心境になる。
助けたって言っても、私じゃなくてカイチューがやったことですし、どう返せばいいんですの。
そうやって悩んでいると、彼は話を続ける。
「ぼく、アリンさんになにかお礼がしたい、です。ぼくなんかにできることは限られてるんですけど……」
「お礼、ですの」
ああ~、彼が緊張している理由がなんとなくわかりましたわ。恩人を前にするあれですわね。何要求されるかわからなくて緊張しているって感じでしょう。
一応今の私は恩人という立場ですけれど、あんまり彼の重荷になるのは嫌ですわね。
よし、こうしましょう。
「そうですわね~。じゃあ今度一番おいしいと思うお菓子を持ってきてくれるかしら?」
「そんなことで、いいんですか……?」
「そんなことですって? これはかなり重要なことですわ!! おいしいお菓子を食べて、今日あった悪いことと一緒に消化しちゃうんですの!」
「……アリンさん!」
回答としては完璧ですわね! 私もお菓子が食べられて一石二鳥ですわ!
キーノさんのお誕生日パーティーに呼ばれる家の子ですもの、かなり上等なものになるんじゃありませんの!? 楽しみですわ~。
あれ、そういえば彼がどこの家の人か知りませんわ。
「私としたことが、あなたのお名前聞いてませんでしたわね」
「あ、はい!」
彼はすっと息を吸って顔をこちらに向ける。幼さが残る顔だけど、その表情はどこか凛々しい。
「ぼく、ランスロット・レイって言います。レイ家の長男です」
「そうなんですのね! ランスロットくん……え!?」
い、今彼ランスロット・レイって言いませんでした!?
それって、『エーデルワイズのお姫様』に出てくるメインキャラの一人、ランスくんとまったく同じ名前じゃありませんか!!
確かに、そう言われてみると幼さが残るかわいらしい顔立ちも、濃い赤茶の髪も、ゲームに出てきたものと似ている気がする……。
え、そうなるとどうなるんですの!? ランスロット・レイの過去描写はゲーム中に何度か出てきましたけど、こんな幼い時の描写はありませんでしたわ!?
もしかして、今日の出来事ってランスくんの中でかなり重要な出来事だったんじゃないんですの!? それを私が介入して、めちゃくちゃにしちゃったから……彼の運命が変わるかもしれませんわ?!?!
「それで、アリンさん。一つだけお願いがあるんですけど」
「な、なんでしょう!」
ランスくんの運命がどうなるのかということで頭がいっぱいだった私は、現実のランスくんの言葉は耳に届かない状況だった。
けれど、彼が唐突にいったその言葉は、渋滞を起こしている私の頭の中にに無理やり割り込んで入ってきた。
「アリンさんのこと、お姉さんって呼んでいいですか?」
「……へえ!?!」
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