第42話  瞬、何も知らずに!

「デク」

「なんだよ、クラマ」

「よく見とけや、女はこうやって口説くねん」

「参考にさせてもらうよ」

「ほな、行ってくるわ」


 その日のたき火は2つ。


 1つに女性陣。1つに男性陣。

 クラマは女性陣の方のたき火へ。


「クラマ、どうかしたのですか?」

「あ、姫、特に何も無いんやけど、ナターシャさんを借りていってええかな?」

「ええ。ナターシャさんさえ良ければ」

「ナターシャさん、ちょっとこっちへ来てもらえまっか?」

「わかった」


 2人、たき火から離れていく。


「こういう流れ、最近多いな」


 と、桔梗が言った。


「ダメ、思い出さない方がいいよ」


 アリスが言った。


「いやいや、強引に迫ってこられたらナターシャも危ないぞ」


 と、桔梗が言ったが、


「それは大丈夫、お姉様の方が強いから」

「そうか、それなら大丈夫だな」

「大丈夫じゃない。気分が悪くなる」

「確かに」


 クラマとナターシャは、たき火から少し離れたところに座った。


「何の話だ?」

「ああ、せっかく仲閒になれたんやから、仲良くやって行こうと思って」

「それなら、ここまで来なくても良いではないか」

「突然やけど、ナターシャちゃん、好きな男はおるんか?」

「いない」

「昔からおらんのか?」

「失礼な、ゾンビウイルスが蔓延する前に初恋くらいしたことがある」

「その相手は、どうなったん?」

「告白も出来ないまま行方不明になった」

「誰かと付き合ったことは無いんやな?」

「まあ、それは無いな。確かに」

「今、平和やんか」

「そうだな、こんなに気を抜けるのは久しぶりだ」

「せやけど、明日、どうなるかわからんのが俺達の命や」

「まあな、明日のことはわからない」

「そやろ、明日のこともわからんやろ? 今の俺達」

「それで?」

「明日よりも今日が大事や! ナターシャ、俺と付き合ってくれ!」

「……」

「……」

「うーん、嫌だ」

「なんで?」

「男性としての魅力を感じない。大体、クラマは私より弱いだろ?」

「弱いけど、俺、年下やし、“弟みたいな彼氏”になられへんか?」

「悪い、無理だ」

「じゃあ、何のために死ぬんや? 何のために死ぬかはもう決めたんか?」

「どういう意味だ?」

「俺は、昔から決めてるねん」

「では、お前は何のために死ぬんだ?」

「俺は、惚れた女のために死ぬ」

「その意気込みはスゴイな」

「俺は、ナターシャに惚れた。死ぬときは、ナターシャを守って、ナターシャのために死にたいんや」

「そうか、それは光栄だが、恋人になる気は無いぞ」

「ナターシャのためなら死ねるって言うてるねんで。それを聞いても何も思わんの?」

「思わない。お前は自分のために死ねば良い」

「えい! これでもか!」


 クラマは土下座をした。


「それは…もしかして土下座というやつか?初めて見た」

「俺と付き合ってください! お願いします!」

「すまん、無理だ。仲閒として仲良くやっていこう」

「俺、ナターシャが振り向いてくれるのを待ってるからな!」


 ナターシャは立ち上がり、たき火の方へと戻っていこうとした。

 クラマも立ち上がり、ナターシャをギュッと抱きしめた。

 そして、キスを……する前に下から顎を殴られた。アッパーカットだ。

 クラマは顎を押さえながらしゃがみこんだ。


「これからも、生きていく上での仲閒として、よろしくな」


 ナターシャは、今度は本当に去って行く。振り返ることも無かった。


「クラマ」


 物陰に潜んでいたデクが姿を現した。


「何も言うな」

「全部、見てたぞ。土下座はやり過ぎだろ?」

「だから、何も言うなって言うてるやろが」

「クラマ」

「なんや?」

「アホ」


 クラマは立ち上がると、デクの顔を殴った。


「あなたを守りたい! あなたのために死ねる! ええ言葉やろが?」

「でも、、フラれちゃってるじゃん。俺と同じだよ」

「心の美しさが違うんや、一緒にするな」


 クラマが、もう1発殴った。

 今度はデクも殴り返した。

 大喧嘩になった。


 たき火にあたっていた連中も気づいた。


「あらあら、止めに行った方がいいでしょうか?」


 と、姫は言ったが、ジンが言った。



「放っておけ」







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る