第23話 巻きこまれた美少女!
昼食の前に、桔梗は起きてきた。
「え?もうお昼なの?」
「そうだよ。ぐっすり眠っていて、疲れていたみたいだったから起こさなかった」
「桔梗さん、お昼よ。一緒に食べましょう」
「姫が、そう言ってるぞ」
「あ、はい」
桔梗は菫の隣に座った。
「桔梗お姉ちゃん、久しぶりだね」
「そうね。高校に入ってから、ほとんど会ってなかったわね」
「会えて嬉しいわ」
「そうね。こんなひどい世界じゃなかったら喜べたんだけど」
昼食は、猪と鹿と植物のスープだった。
「なんで? なんでお肉が簡単に食べれるの?」
「瞬の持つ力のおかげや」
クラマが言った。
「俺達も、瞬に会うまで、なかなか肉を食べることが出来なかった」
と、デクが言った。
「何?瞬の力って?」
「桔梗、とりあえず食べろ、食べてから話すから」
「わかった。この肉は大丈夫なのね」
「ええ、大丈夫よ」
桔梗は、おそるおそる一口食べた。
「美味しい!」
「良かったわ。お腹いっぱい食べてね」
「はい」
桔梗はおかわりするくらい、沢山食べた。
「ああ、美味しかった」
「良かったな、桔梗」
「そうそう、あんたの力って、何よ」
「僕はゾンビにならない体質なんだ」
「え?ゾンビにならないの!?」
「うん。ならない。どうも、俺にはゾンビウイルスに対する抗体があるらしい」
「それじゃあ…」
「うん、森の中にも平気で入れる」
「そんなこと出来るの?」
「出来るんだ」
「ちなみに、私も森の中に平気で入れるぞ」
桜が言った。
「あんたはゾンビじゃないの!っていうか、なんでゾンビと行動を共にしているのよ」
「話せば長くなるが…」
「長くならないのじゃ。偵察に来た瞬と偶然出逢ったのじゃ」
「出逢って?」
「それから瞬についてきた」
「何それ?なんで人間についてくるのよ」
「瞬は、いくらかじってもゾンビにならないから面白い」
「面白いから、ついてきたの?」
「そうじゃ。それだけの話なのじゃ」
「ゾンビも普通に食事するのね」
「ああ。別に人肉だけを食するわけではないのじゃ。普通の食事も食べられる。味もわかるのじゃ」
「はあ…」
桔梗がため息をついた。
「どうした?桔梗」
「今までと環境が違いすぎて混乱しているのよ」
「そうか、でも、桔梗は運が良いぞ。普通に旅するよりも、このメンバーの方が安全だからな」
「それで?なんで私はこの世界に飛ばされてきたのよ?」
「もしかしたら、桔梗さんにも瞬と同じ力があるのかもしれませんわね」
「瞬と同じ力?」
「ゾンビにならない抗体です」
「桔梗、試したことはあるか?」
「どうやって、試すの」
「ちょっと待ってろ」
瞬は、小さなカゴを持って来た。
「何これ?」
「実験用の、ゾンビ化したリスだ」
「ちょっと、危ないじゃないの」
カゴには、2匹のリスがいた。
瞬は、自分の指先をナイフで切って、1匹を捕まえてカゴから取り出す。
「みんな、離れてください」
リスの口に自分の血を滴らせた。
「ほら、見ろよ。桔梗」
「危ないじゃないの」
「大丈夫だ。見ろ」
「あれ?ゾンビ化してない。普通のリスに戻ってる!?」
「桔梗さん、これが瞬の力なのよ」
「瞬の血って、ゾンビ化の治療薬にもなるの?」
「だけど、ゾンビウイルスの量によっては効かなくなる。大きな動物にもなかなか効かない」
「多分、瞬は、この力があるからこの世界に招かれたと思うの」
「あの…… 姫って呼べばいいんですよね?」
「私? みんなからは姫と呼ばれているけど」
「姫は、私にもこの力があるのではないか? と思っているんですよね?」
「それなら、この世界へ招かれた理由としてわかりやすいでしょう?」
「なるほど… 菫ちゃんはどうなの?」
「菫の血に、僕みたいな力は無かった」
「兄妹なのに?」
「知っているだろう?俺と菫には血のつながりは無い」
「なるほど。血の繋がりが無いからね。って、私も瞬と血の繋がりなんてないじゃない」
「でも、試してみようぜ」
「いいけど… どうするの?」
瞬が、カゴからもう1匹のリスを取りだした。
「このリスに、桔梗の血を飲ませてくれ」
「血を飲ませるって?」
「指先をちょっと切ればいいんだ。大丈夫、すぐに姫が治療してくれる」
「え? 指先を切るの? 嫌よ」
クラマが桔梗の手を取り、素早く指先をナイフで切った。
「痛っ、何するのよ、オジサン!」
「オジサンはひどいな」
「早く、リスに血を飲ませるんだ」
「わかった」
数滴、リスの口の中に入った。
しばらく待つ。
待つ。
待つ……。
「ゾンビのままじゃん!」
「桔梗さんに、瞬みたいな力は無いようですね」
「え! 指を切られたのに意味が無かったって、最悪」
「桔梗さん、指を見せて」
「はい。姫」
「はい。治ったわよ」
「早っ!本当だ、傷痕も無い」
瞬はカゴの中にリスを戻した。
「良かったな、桔梗」
「良くないわよ!ってことは、やっぱり私はこの世界に来る必要が無かったってことじゃないの!?」
「待て!僕のせいだとは限らないじゃないか」
「あんたのせいよ!やっぱり私と菫ちゃんは巻きこまれたのよ」
「桔梗は神社の巫女さんじゃないか」
「それがどうしたの?」
「もしかしたら、その内に巫女パワーが必要なときが来るのかもしれない」
「何それ? 巫女パワー? ゲームじゃないんだから」
「いや、ゲームみたいな世界なんだ」
「ゲーム?」
「実際、俺も菫もゲームみたいにレベルアップするんだ」
「私も何のゲームか、わかる。家でやってた。実際、私もこの世界へ来て何度かレベルアップした」
「だろう? きっと、俺達みたいにレベルアップ出来る人物が、この世界には必要だったんだよ」
「なるほど-! って、別に私じゃなくてもいいじゃないの」
「それは…」
「やっぱり、あんたよ。あんたのせいなのよ。私、絶対にあんたを許さないから!」
桔梗は弓を取り出すと、瞬に向かって矢を放った。
瞬は、かろうじて矢を掴んだ。
クラマ、デク、姫、菫が桔梗を取り押さえた。
しばらくして、ようやく桔梗は冷静になった。
だが、瞬に対しては冷たい態度だった。
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